始まりの一歩目
新年度の初登校、春の柔らかな日差しがスクールバスのカーテンの隙間から差し込んでいた。
学校の駐車場でバスが止まり、僕は「ありがとうございました」と運転手に声をかけてから降りる。アスファルトを踏みしめ、先に降りて待っていた中村の元へ歩み寄った。
「俺たちも、もう二年か。時が経つのは早いな」
中村が校舎を見上げ、感慨深げに呟く。僕は鼻で笑った。
「まあ、一年生の頃は全部が新鮮だったからな。余計にそう感じるんだろ」
「昨日入学した一年生もさ、来年の今頃は同じこと思うのかな」
昨日は入学式だった。在校生代表として数名が駆り出されていたはずだが、もちろん僕は欠席した。貴重な春休みを一日たりとも削られたくなかったからだ。
「一年生を見てねーから、なんとも言えねぇな」
「そういえばお前、なんで昨日来てなかったんだよ。またどっか遊びに行ってたのか?」
「当たり前だろ。入学式の何が楽しいんだよ」
そんな不毛な会話を交わしながら階段を上がり、二年生のフロアにたどり着く。
「そんなことより、クラス替えは気にならないのか?」
僕が話を振ると、中村は少し考える仕草を見せてから、ニカッと笑った。
「俺は、可愛い女子がたくさんいればそれでいいわ」
「女子がいたところでな。それより面白い男子がいる方が、一年間楽しくなるだろ」
僕の返答に、中村は呆れたように吹き出した。
「お前、本当に思春期の男子かよ。女子について話してるとこ、一度も見たことないぜ?」
「……中村は、あまり好きじゃないことについて、わざわざ自分から話すか?」
軽口を叩き合っていると、廊下の奥の教室から、聞き慣れた賑やかな声が響いてきた。
「大野! お前3組だったぞ。当たりのクラスだ!」
「マジか! 誰がいるんだよ?」
その声を聞いた瞬間、僕の足は勝手に動いていた。
「あ、おい! 置いてくなよ!」
背後で中村が叫んでいるが、構っていられない。期待と少しの緊張を胸に、僕は駆け足で3組の教室へ滑り込んだ。
3組の教室に入ると、そこには見知った顔が数集まっていた。
「大野、おせぇぞ!」
声をかけてきたのは、さっき廊下で叫んでいた月島だ。机を囲んで掲示板のクラス名簿を囲んでいる。僕は息を切らしながら、その輪の中に割って入った。
「スクールバスだからしゃあねぇだろ、着く時間が決まってんだから、お前当たりってどういう意味だよ。お前いる時点でハズレだろ。自分を客観視できてるか?」
「お前失礼だな! ほら、これ見ろよ」
月島が指さした名簿の名前を追っていく。そこには、一年の時に馬が合った連中の名前が驚くほど並んでいた。
「……マジか。森に、中野、それに伊藤もか」
「だろ? 修学旅行、今からもう楽しみだわ」
田中が横から肩を組んできてニヤリと笑う。男子の面ツラを見る限り、確かにこの一年は退屈しなさそうだ。ふと、さっき中村が言っていたことを思い出し、女子の欄に目を向ける。
「あ、大野君、また同じクラスだね。よろしく」
不意に声をかけられ、顔を上げると、一年の時に学級委員をしていた宮島が立っていた。彼女の横には、女子グループの中心的な存在の面々もいる。
「……ああ、よろしく」
短く返すと、背後からようやく追いついた中村が、僕の肩に体重を預けてきた。
「はぁ、はぁ……。お前、速すぎなんだよ。……って、うわっ! マジかよ、このクラス!」
名簿を見た中村の目が、あからさまに輝く。
「大野、お前さっき『面白い男子がいればいい』とか言ってたけど、前言撤回していいぞ。このクラス、女子のレベルもめちゃくちゃ高いじゃねーか!」
中村の興奮した声が教室に響き、宮本たちが「何それ」とクスクス笑い出す。「お前同じクラスかよ、あと声でけーよ!」僕は少し居心地が悪くなって、窓際の自分の席を探し始めた。
「ほら、中村、静かにしろ。中野……担任は誰なんだ?」
「それがさ……」
中野が少し声を潜め、教卓の方を見た。




