16.ごめんね
トンネルに足音だけが響く。
真っ暗な中であきさん持つランタンだけが頼りだった。
黄金色に輝くその灯りが、僕達の道標となる。
視線の先にはあきさんの隣を歩く、よしこさんの姿があった。
死んだはずの親友の隣を歩く。
よしこさんはどんな気持ちでそこにいるのか、僕には知る事はできない。きっと神様なら心の中までお見通しかもしれないけど、生憎と僕は人間だった。
全知全能とはいかない。
しばらくして、よしこさんが口を開いた。
「……ごめんね。いじめのこと、気付いてあげられなくて」
ようやく絞り出した言葉。
小さなその声はトンネルによく響いた。
まきさんは驚いた顔をして、首を横に振る。
「何言ってるの! 私の方こそ謝らないといけないよ。ごめんね、勝手に死んじゃって……」
「まきちゃんは悪くない――」
「ううん、悪いよ。私はね、大切な人たちの事も考えずに、自分が楽になりたいから飛び降りたの……」
そういってまきさんは視線を遠くに向ける。そして、でもねと続けた。
「私これでよかったと思ってるし、むしろすっきりしてるの。あー、もう私をいじめた奴らの顔を見なくていいって思うと清清してるし」
「ごめん……」
「謝らないで、お願い。言っとくけどよしこちゃんもまゆみちゃんも全然悪くないから。私がね、相談しなかったのも、二人には笑っていてほしいっていう私のわがままだったし。悪いのはわたしなんだから」
二人の歩く速度が遅くなる。
「でも、私は幸せものだなあ」
「どうして?」
あきさんは満面の笑顔だった。
その表情によしこさんはびっくりした顔をした。
「だってこうやってあの世まで追いかけて来てくれる親友が二人もいるんだよ? これだけ幸福な事はないよ。それにもっと早く気付ければよかった」
「うん……」
「だから、どうか自分を責めないで。よしこちゃんには笑顔が似合ってる。その原因の私が言うのもなんだけど」
冗談めかして言うあきさんに釣られて、よしこさんも小さく笑った。
ちょうどその時、視線の奥に眩しい光が見えた。
出口だ。
「よしこちゃん。ごめんね、そしてありがとう。
どうか二人は天寿を全うしてほしい。私みたいにはならないでほしい。わがままでごめん」
「ううん、そんなことはないよ」
「それでね、もうひとつわがままがあるの」
そういって、あきさんは不安気な顔でよしこさんを見た。
「…これからも親友でいてくれる?」
喉の奥から絞り出したような、か細い声。
その声によしこさんはぱっと笑って、頷いた。
「もちろん! 私たちもいずれそっちにいくから、その時はまた一緒に話そ」
「うん、うん! そうだね、たくさん話そう!」
笑い合う二人。
きっとそれはとても美しい光景だ。
トンネルの出口から入ってくる光が、抱き合う二人を照らし、より幻想的に見えた。
僕達が会ってからずっと見ていた暗い表情のよしこさんはもうそこにはいない。
背中に乗っているまゆみさんも何だか幸せそうに見えたのは、気のせいだろうか。
別れの時間が来てしまう。
「よしこさん、あきさん、そろそろ……」
「はい。よしこちゃん、まゆみちゃんの事をよろしくね」
「うん、任せといて」
「頼もしい! それでこそよしこちゃん」
飛鳥さんが声をかけると、二人はそんな言葉を交わして笑いあう。
そして、僕達は光の先へと進む。
「ばいばい! ばいばーい!!」
あきさんは僕達の姿が見えなくそのときまで、大きく腕を振りながら別れの挨拶を繰り返していた。




