超短編:無題
蝉達が部屋の外で元気に鳴いている。その夏特有の音の一つを目覚ましがわりに遮光カーテンから覗く朝日が一日の始まりを告げている。
布団から起きあがりカーテンを全開にするとより一層強い朝日を浴びて、身体が覚醒する。
「それにしても暑い」
昔はといっても生まれていない時代の夏は、今より涼しかったという。環境汚染が原因かはたまた神が描いたシナリオ通りを世界全体が進んでいるのか。うーん、後者は無理だろうけど物申したい。
「物申したところで、天罰が下るだけじゃか…申してみるか?」
「信仰集め乙」
「よし、天罰じゃな」
許してください。神様仏様天使様、ちょっとふざけただけですよ〜いつも、皆様のことは信仰してますって特に目の前にいるアレは
「神風でよいな!」
「やめろください。心の声だけは読まないで頂いて……」
「それが、しご——使命だからしかないのぅ」
得意げに幼女は、ふふんと顔を上に向けて仁王立ちをしている。ただし、幼女の足が付いているのは天井と呼ばれるところだ。つまり、重力に抗っている見た目は、幼女であり人間の形をしているが人間ではないし、幼女と呼ばれる年齢でもない。
日本という国造りから生きているもとい在る神様の一人だ。
「心の声で思った事がその人の真実だとでも?」
「結を除けば、間違ってはなかろ。まさか、心の声が他人に聞かれているなど夢にも思わないじゃろうし」
「だとしてもだ。心の声さえも偽りのやつがいるかも」
屁理屈である。自分の心の声を聴かせないための屁理屈を述べたが、神は首を縦に振らない。
クルリと無駄に回転して床に足をつけた神様は無言で扉の前まで行きこちらを振り返った。
「がっこう。遅れるよ、おにーちゃん」
「俺に兄妹はいない」
完璧な妹ムーブに、俺は無表情で返した。……無駄なことに体力を使って朝から疲れてしまったし、学校には遅刻した。
∴
ウチの高校には、神職の関係者でもいるのかと疑うほど神や仏に関する本が図書館に多数置かれている。それを数冊ずつ借りて、読んでは返すを繰り返しているが、今だにアレに関しての情報はない。
「そういえば、結よ。今年こそは出雲にお前も行くじゃろう?」
「行けないし行かないっていってるだろ。人間はホイホイ分裂とか出来たりしない」
「はぁ……結。何度も言っておるがお前は人間ではない」
だったら、自分は何者で人間のように、ありきたりな毎日を送っているっていうんだ?
いつもおしゃべりな神は答えなかった。