夢のかけら
アルバートは夢から覚め、自室の夕方の静けさに包まれていた。窓から差し込む夕陽の光が、現実と夢の境目を曖昧にしているように感じる。
彼はベッドの傍らに目を向けると、そこに一冊の本が置かれていた。それは第5章で手に入れた不思議な本だった。本を開いてみると、見覚えのある内容が綴られている。夢の中で体験した出来事が、まるで記録されたように記されていたのだ。さらにページをめくると、新しいページが加わっており、そこにはリーゼからの手紙があった。
「アルバートへ。突然いなくなってしまったけれど、無事でいることを祈っています。領主様は約束通り、スラムの復興に動き出しました。でも、あなたがいないと寂しい……。この手紙を書けば、少しでもあなたに気持ちが届く気がして。」
リーゼの言葉がアルバートの胸に響いた。彼はふと、本に何か書き込めるのではないかと思い立ち、ペンを取り出して試しに返事を書いてみた。
「僕も君に会いたい。元気でいる?」
すると文字が本に吸い込まれるように消え、数秒後、新たな返事が現れた。
「アルバート! 本当に書けるなんて! 嬉しい……!」
こうして本を通じて、二人は再びつながることができた。リーゼは手紙の中で、アルバートに不思議なアドバイスを送る。
「アルバート、君は学校でどんなふうに過ごしているの? あの奇跡を起こした君が、日常では力を発揮できないなんて、少しおかしいと思うわ。君の持つ力を、もっと信じてみて。」
その言葉に背中を押されるように、アルバートは学校での美術の授業に目を向けた。彼は勇気を出して、美術のハミルトン先生に面談を申し出た。面談の場でアルバートが描いたスケッチを見せると、ハミルトン先生の目が一瞬輝きを帯びた。
「アルバート……。あなたの絵には、技術だけでは表現できないものがあるわ。それが何か、私も一緒に考えてみたい。」
ハミルトン先生はそう言って、一枚のキャンバスを取り出した。そして二人で絵を描き始める中で、先生は自らの過去について語り始めた。
「私が若かった頃、美術館に飾られるような絵を描くのが夢だったの。画家としての道を歩むために一生懸命努力して、技術を磨いてきたわ。でも、いつしか“評価されること”ばかりを求めるようになって、本当に描きたいものが何なのかわからなくなったの。そんな時、私の絵を見たある人に言われたの。『綺麗だけど、魂が感じられない』って。」
ハミルトン先生は少し微笑みながら、筆を動かす手を止めた。
「その言葉が刺さって、描くことが怖くなったの。それから絵を教える道に進んだけれど、アルバート、あなたの絵を見て思い出したわ。本当に大切なのは、自分が心から伝えたいものを描くことなのよ。」
アルバートはハミルトン先生の言葉に頷きながら、キャンバスに筆を走らせた。互いに言葉を交わしながら描いた絵は、どこか温かみのある作品となった。
その日の夜、アルバートは再び白い世界で目を覚ました。目の前には扉があり、その向こうにはリーゼの姿があった。
白い世界はどこまでも広がり、足元には水面のような光が揺らめいていた。柔らかな光がアルバートの体を包み込む中、扉の向こうから軽やかな声が聞こえてきた。
「アルバート!」
扉を開けると、そこには笑顔を浮かべたリーゼが立っていた。彼女は一歩踏み出し、アルバートの目の前に来ると小さく頷いた。
「また会えたね。」
アルバートも微笑み返しながら答える。
「君がここにいるって分かってたよ。やっぱり本の力が僕たちを繋いでくれるんだね。」
リーゼは静かに頷きながら、少し真剣な表情になった。
「アルバート、君はこれからもいろんな世界で多くのことを学ぶと思う。その中で、自分を信じる力をもっと育てていって。私は君を見ていて、本当に特別な力があるって信じてる。」
アルバートは彼女の言葉に勇気づけられ、新たな冒険への決意を胸に抱いた。二人の笑顔が光の中で交錯し、新たな物語の幕が上がろうとしていた。