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「一色 神速・T・スカリ』

 この世界を包み込む天色の大地と牛模様の雲。静かな風に吹かれながらヒソヒソと話す木々を通り過ぎた小鳥は窓際へ止まった。ステップを踏むように飛び跳ね、愛らしく左右へ首を傾げては囀りが朝を彩る。

 その時――部屋中を駆け巡るけたたましい音。窓越しから脅かされた小鳥は周章狼狽しながら翼を激しくはためかせ、先程までの朗らかな雰囲気を自ら壊し飛び立った。

 一方、頭痛が如く響く音に目を覚ました男性は眉を顰めながら手探りでその音の元凶を探していた。何度か空振りしつつもようやく音を止めると、男性は無理やり目を開き目覚まし時計を確認した。


「ヤバっ!」


 一人声を上げ、同時に眠気が吹き飛んだ様子で飛び起きた男性は駆け足で洗面台へ。世界記録に挑戦してるのかと思う程に手早く準備を済ませていく男性はあっという間にスーツを身に纏っていた。


「よし君、ご飯出来てるよ」


 ネクタイを締めながら男性がリビングに行くと、エプロン姿の眼鏡を掛けた女性がテーブルに朝食を並べていた。


「あぁー、ごめん。目覚まし間違えちゃって時間ないかな。ごめん」

「いいよ。今日も頑張ってね」

「ありがと光里」


 男性は幸せに満ちた笑みでそう言うと女性の腰に手を回し抱き寄せた。服越しに密着する体は愛代わりに互いの体温を伝え合う。

 そして男性は緩んだ表情のまま彼女を見つめ、そっと顔を近づけていった。

 だが半分ほど距離を縮めた所で女性の人差し指が唇に触れ顔を止めた。


「じゃあ行きながらおにぎりとか何か買ってね。ちゃんと食べないと駄目だよ」


 そう言いながら女性は男性の少し曲がったネクタイを正す。


「分かった。ちゃんと――」


 男性の言葉を遮り、飛びつくように首に手を回した女性はキスをした。抱き締めるように触れ合う唇。時間を止めてしまいそうなほど幸せと愛に満ちた数秒が、忙しない朝を忘れさせる。

 だが名残惜しそうに見つめ合いながらも二人はゆっくりと唇を離した。


「……じゃあ行って来る」

「気を付けてね」


 そして互いの手も離れると男性は玄関へと急ぎドアを開け出て行った。最後に振り向き手を振ってから。そんな男性を見送る女性も口元を緩めを手を振り返すその光景は、どこにでもある幸せな朝。

 しかしドアが閉まると、女性は少しだけ顔を曇らせた。

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