99:体育祭一日目・精密歩行・飛び石
「えーと、ここが飛び石の会場だな」
俺たちがやってきたのは精密歩行・飛び石の競技が行われる会場。
場所は普段なら決闘が行われる舞台であり、観客席もそのままである。
何なら、出場者が準備をする場所などもそのままである。
「正確にはイチの出場する飛び石の会場は此処だね」
「パパパッとやるためニ、4つの会場で行われていますからネ。振り分けはランダムですかラ、間違えると悲惨な事になりまス」
「毎年何人か間違える奴とか居るんだろうなぁ……」
と言うわけで、スズ、マリー、俺の三人は固まって適当な席へと腰掛ける。
さて、精密歩行・飛び石の競技だが。
この競技は舞台の上に出現した円の中から、もう一つ出現した円の中へと跳び移っていき、跳び移る事に成功した回数を競う競技である。
終了条件はマスカレイドが解除されるか、跳び移るのに失敗するかのどちらか。
円の大きさは最初は直径3メートルほどであり、円と円の間の距離も1メートルに満たない程度で、マスカレイドを発動中ならなんてことは無い距離である。
が、跳び移るのに成功するごとに円は縮小して行き、最終的にはつま先立ちでやっとなほどに。
円と円の間の距離も理論値的には10メートル近くにまで広がる。
そのため、最終的には舞台の何処に次の円が発生しているのかも分からなくなってくるようだ。
ちなみに、飛行や浮遊に関係する能力やスキルの使用は累計で30秒まで。
もう一つちなみに、この競技は決闘に用いる結界の応用技術で行われているらしい。
『それでは只今より、精密歩行・飛び石・一年生の部を始めさせていただきます。1番、戌亥寮、ファス』
「早速か。ん? でも事前の情報だと……」
「……。たぶん誰か間違えたね」
「間違えましたネ。だから繰り上げになったのでしょウ」
「なるほど」
どうやら早速イチ……ファスの出番のようだ。
舞台へとイチイのチャームが付いた『シルクラウド・クラウン』を着用したイチが上がってくる。
『それでは、マスカレイド発動と同時に開始です』
「マスカレイド発動。揺らげ……ファス」
イチの姿がファスのものへと変わる。
と同時に競技開始。
ファスの立っている場所を中心点にした円と、ランダムに出現した円の二つが舞台上に出現する。
「さて、最初はサクサクと行きましょう」
ファスは直ぐに動き出すと、軽い足取りでもう一つの円へと跳び移る。
そして、無事に跳び移れたら、直ぐに次の円がある場所を探して、再び軽い足取りで跳び移る。
「跳躍能力を求められるのは当然として、地味に索敵と言うか、目標までの位置を正確に測る能力を要求される競技だよな、これ」
「うん、そうだね。ナル君の言う通りだよ。なんなら、目標までの距離を測るためだけにスキルを使う人も居るくらい」
「普通の仮面体は空中では方向転換も加減速も出来ませんシ、それを可能とするスキルも扱いが難しいですからネ。地味に高難易度な競技なんですヨ。この競技ハ」
それを何度も繰り返していく内に、円は縮まっていき、円の間は離れていく。
その為、ファスも軽い助走で勢いを付けてから、その勢いを生かすように跳んで行く。
「さて厳しくなってきた感じだな。このくらいになったら、俺にはもうどう足掻いても無理だ」
「私は……適切な調合があればワンチャンかな?」
「スズは凄いですネ。ア、マリーはもちろん無理でス」
さらに競技は進行して、ファスが居る円はもはや足を縦に並べたらはみ出かねないほどとなり、向かう先の円は少なくとも3メートル以上は確実に離れている。
ここまで来れば、この競技においては間違いなくトップ層と言えるだろうが、同時にこの先へ工夫も無く進む事はファスには不可能である。
「使いますか。『ハイジャンプ』」
だからファスはスキル『ハイジャンプ』……スキル『クイックステップ』の跳躍版とでも言うべき、一歩分だけ跳躍能力を大幅に強化するスキルを用いて、次の円へと跳び移る。
そしてそれを何度か繰り返し……。
「見えなくなってきましたね」
遂に円のサイズはファスの小さめな足よりも小さくなって、跳び移るべき円が舞台の何処にあるのかもサイズと距離の都合で分からなくなってしまった。
だがそれでもファスはまだ諦めていないないらしい。
片足つま先立ちの状態から膝を折り曲げると……。
「『ハイジャンプ』からの……『エアバースト』!」
『ハイジャンプ』によって垂直方向へと大きく跳び上がり、最高到達点で何処に次の円があるのかを確認。
そして、スキル『エアバースト』と言う、手の先で猛烈な爆風を発生させて物を吹き飛ばすスキルを発動し、その反作用で以って円がある方向へと移動。
「此処! っ!? くっ……」
見事に円の中へと着地はした。
が、『エアバースト』の勢いを殺し切れなかったのか、もう一歩が出てしまい、その一歩が円の外であったために競技終了となった。
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「っ……」
ファスの見事な動きに会場中が湧き、俺たちも拍手喝采を浴びせる。
そして、その拍手喝采を浴びながら、少し恥ずかしそうにファスは舞台から去っていった。
間違ってもほどほどではない、本当に見事な結果だった。
「恥ずかしいですね。目立ち過ぎました」
「いや、良い動きだったぞ。イチ」
「うんそうだね。誇ってもいいくらいだと思う」
「ですネ。むしろ誇っておきましょウ。ほぼ間違いなク、一年生の中ではトップ3には入りますヨ」
なお、戻って来たイチは恥ずかしそうにしていた。
どうやらこれほどにまで頑張ってしまったのは、マスカレイド発動で本音が出た影響でもあるらしい。
「コケーコォ!」
「しかし、一位にはなれないですね」
「それはまあ、相手が悪い。遠坂が居るんじゃな」
「レッドサカーは空を飛べるからね。この競技に出さない訳がない」
「いや分かりませんヨ。累計30秒の制限をミスすル……様子は見られませんネ」
ちなみに、今は遠坂ことレッドサカーが競技中。
レッドサカーは途中まではファスと同じようにやっていたが、円が狭まってくると、跳躍から一瞬の羽ばたきを挟んで、跳躍の距離を適切に伸ばすと言う手法で以って、冷静かつ的確に跳び移っている。
そして順調に記録を伸ばしていき……レッドサカーは二位以下を大きく突き放した、圧倒的な一位となったのだった。
なお、本来の順番では、レッドサカーがこの会場で最初に競技を行う予定だった。
今更な話だが。
「さて次はマリーの番だな」
「そうですネ。とは言エ、マリーの方は本当にどうにもならないですけド」
とりあえずこの会場でやる事は終わった。
と言うわけで、俺たちは次の会場へと向かった。




