97:体育祭開催
ようやく体育祭本体の開始でございます。
『選手宣誓! 我々選手一同は……』
日付は2024年6月6日木曜日。
国立決闘学園の2024年度体育祭は、山統生徒会長の選手宣誓と共に始まる事になった。
これから三日間かけて、決闘学園の生徒、三学年合わせて900名が、それぞれの寮と自身の記録の為に出せる力を振り絞る事となる。
さて、そんな体育祭だが。
当然と言えば当然なのだが、参加選手が900名……実際には様々な事情から不参加の人間も居るだろうから約900名か、それだけの人間が一斉に競技を行うことなど出来るはずもない。
よって、運営を担当する生徒会が、事前に各寮から提出された各競技への参加選手一覧とにらめっこをして、緻密なスケジュールを立てて、円滑に運営できるように努力をしている。
その努力の結果として、大会の運営に関わらない人間には意外と空き時間があり、友人知人の応援へと向かったり、普段はショッピングモールで店を出している会社の屋台を楽しんだりと言った事が可能となっている。
なのでまあ、ぶっちゃけ一年生にとっては、正に祭りであった。
「さて、まずはそれぞれの参加競技が行われる時間の再確認だな」
「そうだね、ナル君。遅刻は厳禁だから、絶対に防がないと」
「連絡せずの不参加は先生と運営の両方から怒られることになりますからね」
「当たり前の事ですけどネ」
と言うわけで。
事前の通達通りにテレビカメラが沢山入っているし、各種スポンサーの看板もそこかしこに出ているグラウンドの横で、俺たちは今日の予定の最終確認をしている。
「俺の10000m徒競走は午後だな。参加選手が少ないからか、目玉だからなのか、三学年まとめてみたいだし、一緒の時間にやる他の競技も無いみたいだな」
「そうみたいだね。おかげで私たちの競技は全員午前中。となると、今日は移動が楽そうかな」
「時間の被りもありませんので、見て回る事も問題なさそうですね」
「でハ、お互いに応援をし合う事に致しましょウ」
今日の参加競技は……俺は10000m徒競走、スズは精密歩行の曲線、イチは精密歩行の飛び石、マリーは精密歩行のダンスとなっている。
普段の授業で言うところの一時間目の時間は予定なしで、二時間目以降から順番に競技へ参加と言う形か。
「だな。そして、この場から移動する必要はなさそうだ」
「精密歩行の直線と曲線は会場は同じだからね」
「つまり、此処までは問題なしと言う事です」
「ちゃんと調べて来た甲斐がありますネ」
ちなみに俺たちが居るグラウンドと山統生徒会長が選手宣誓を行っているグラウンドは別である。
こっちは精密歩行の直線と曲線専門のグラウンドであり、あちらは徒競走専門のグラウンドだ。
もう一つちなみに、精密歩行の飛び石とダンスは、競技の性質上、また別の会場となっている。
移動時間は十分にあるので、問題は無いだろう。
『それでは只今より、2024年度体育祭を開催いたします!』
そうして、そこら中からファンファーレと祝砲の音が鳴り響くと同時に、体育祭は始まった。
「さて、暫くは見守るだけなわけだが……」
「まあ、この期に及んで、他の人の為に私たちがやることは無いよね」
「後学のために他の人の動きを見ておくぐらいがちょうどいいと思います」
「イチの言葉にマリーは同意しまス。意外な隠し玉や技術を使う人も居ますからネ」
さて、早速俺たちの目の前で、精密歩行の直線、一年生の部が始まっている。
ルールとしては。
マスカレイドを発動した上で、幅数センチメートル程度の白線の上を、常に足の裏が触れている状態で歩いていき、直線400mのコースを歩き終わったらゴールとなる。
白線以外の部分に触れてしまったり、両足のどちらも白線に触れていない状態になるとペナルティで、タイムが追加されてしまう。
コースの途上には、数か所、発せられているレーザー光を遮る事で反応するセンサーが設置されている場所があって、該当箇所では指定された数のセンサーを反応させなければ、先に進むことは出来ない。
だが、この際にも先述の白線以外の部分には触れてはいけないと言うルールが適用されている。
総評すると、精密歩行の直線、と言う一見パッとしない競技種目であるのに、中身としては正確かつ素早い仮面体の操作を求めつつ、バランス感覚あるいはセンサー対策の何かを要求される、中々に繊細な競技、という事になる。
ちなみに、スズの出場する精密歩行の曲線は、距離が800mに伸びた上で、コースがショートカットは出来ないが、バランスを崩しやすくなる程度に白線のコースが蛇行している、と言うものになる。
『3番、戌亥寮、アントワークマン』
「いよっしゃあぁ! 行くぜぇ!」
ルールの再確認をしている間に競技が始まっている。
今はちょうど、二足歩行する全身鎧を付けたアリとでも言うべき仮面体の生徒……紹介からして戌亥寮所属であるらしいが、競技をスタートしたところだ。
アントワークマンは普通に白線の上を歩いている。
タイム表記を見る限り、きちんと競歩の要領で常に片足を付けて歩けているし、白線を踏み外してもいないようだ。
そして、センサーがあるところに着いたところで、光に手をかざして反応させ、突破。
二つ同時にセンサーを反応させるところでも普通に両手を伸ばして突破。
で、三つ同時に反応させるところで……。
「よっ、つっ……ヨシッ! いや、ちょっ、まあいい!」
白線の上に片足立ちし、両腕ともう片方の足をセンサーがある場所へと真っすぐに伸ばして、なんとか反応させることに成功した。
だが、無理な体勢の反動か、手足を戻す際に少しブレたり、跳ねたりもしてしまって、数秒分程度だがペナルティが加算されてしまった。
しかし、その事を気にした様子も見せず、そのまま歩き続け、無事にゴールした。
結果は……400mの競歩をするよりも、だいぶかかっているが、精密歩行の直線としてはそれなりの記録のようだった。
「本当に地味だけど、満点を取るのは無茶苦茶厳しい競技だよな、これ」
「そうですね。他の競技と違ってスキルによる抜け道も殆どありませんから」
「正に基礎能力が試されるわけですネ。それもどちらかと言えバ、中身のでス」
「とは言え、その辺は人によるけどね」
とまあ、此処までが普通に競技へ挑んだ場合の話である。
では、スキルあるいは仮面体の機能を活用したならば?
『12番、子牛寮、バラニー』
「は~い。それじゃあ~『フロートブロック』」
その例が今正に俺たちの前で示された。
やったのはバラニー……今年の甲判定者の一人、羊歌萌さんだ。
バラニーは競技開始と同時に歩きつつ、手にした杖の先端からレンガブロックのような物体を生み出して浮かべる。
そして、その浮かべたレンガブロックはバラニーの前進に合わせて共に進み、宙に浮いたレンガブロックによってセンサーを反応させ、本人はひたすらにマイペースに歩き続け、ノンストップでゴールした。
ペナルティはゼロ、本人の歩行ペースの都合で最後まで一位かは怪しいが、かなりの好記録を出してはいる。
「練習でも見ていたから有りなのは分かるけど、何度見てもアレが有りでいいんだと言う気持ちにはさせられるな」
「アレぐらいなら可愛いものだけどね。ナル君」
「そうですネ。明日の投擲・射的とカ、本当に何でもありですヨ」
「ですがルール違反ではありません。これは決闘学園の体育祭ですから」
「うん、知ってる」
うーん、この中でいい記録を出さないといけないのか……相性がいい競技ならばともかく、そうでない競技に限っては、やはり厳しいものがありそうだ。
やれるだけやってみせるけど。
スキル『フロートブロック』
術者との相対座標を維持し続けるレンガ状のブロックを生成するだけのスキル。
それだけなのだが、使い方によっては振り返りと同時にブロックを相手に叩きつけるなどの使い方も出来るため、案外凶悪。
なお、搭載できるデバイスや術者の適性が限られているスキルでもあるため、使用者は多くない。
ちなみに本話でのバラニーの使い方は簡単そうに見えて、高度調整や位置調整が難しく、そこをスマートに済ませているのはバラニー本人の技量によるものである。




