94:専用デバイスでのマスカレイド
「各種記録の為の機材……起動します」
前回同様に訓練用の教室へとやってきた俺たちは、直ぐに必要な機材を起動して、準備を整えた。
で、まずは俺単独でマスカレイドを発動してみる事になった。
「じゃあ、着用しますね」
「はい、よろしくお願いします。翠川様」
俺はアタッシュケースの中から俺専用のデバイスである、水仙のチャームが付いた『シルクラウド・クラウン』を取り出すと、事前に教えられた手順に従って頭に着用。
うん、当たり前なのだけど、ピッタリと嵌まるな。
ついでに室内に準備されている鏡で俺の姿を見るが、うん、良く似合っている。
流石は俺だ。
まあ、俺の容姿ならだいたいの衣服にアクセサリーはしっかりと身に付けて、堂々として居れば似合ってしまうのだけれど……『シルクラウド・クラウン』は本当に良く嵌まっている。
「ナル君。見惚れるのも良いけど、時間は限られているからね」
「ん? ああ、悪い。じゃあ……マスカレイド発動、魅せろ、ナルキッソス」
俺自身に見惚れていたらスズから注意されてしまったので、意識を戻す。
俺によく似合っているデバイスのおかげでやる気も上がっているので、それを逃さず頑張ろう。
と言うわけでマスカレイドを発動。
俺の全身は光に包まれた後に、学園の女子制服を身に着け、ブーツを履き、盾を持った仮面体の姿……俺をそのまま女性にしたような姿になる。
「でハ、とりあえずはダンス辺りで身体能力のチェックですかネ」
「あ、マリー。ちょっと待ってくれ」
「何かありましたカ?」
さて、事前の手順では体育祭のダンス競技と同じような動きで以って身体能力を確かめる予定だったのだが、俺は声を上げてそれを止める。
そんな俺の行動に楽根さんが何か不具合でもあったかと不安そうな顔をしているが……安心して欲しい、不具合ではない。
「いやもしかしたらなんだが……」
俺は意識しながら自分の制服を軽く叩く。
「「「!?」」」
「おっ、やっぱり出来た」
それだけで制服のカラーリングが通常のものから、真っ赤なものに変わる。
「うん、うん、色々と出来そうだな」
更に数度タップ。
それだけで、俺が身に着けているものの色が黄色、白、青と変わっていったり、女子制服ではなく体操服にブルマ、ライダースーツと言ったものにも変わる。
ついでにプラスチック製の大型盾についても、透明度はそのままに色をオレンジ色にしたり、レモン色にしたり、黒くしたり、ちょっと大きくしたり、縮めたりも出来た。
「えーと、ナルちゃん? 何をやっているの?」
「新しいデバイスの性能チェック? うーん、なんて言えばいいんだろうな? 学園配布のものよりも自由度が上がった感じがあって、服の色とか種類ぐらいなら、俺が思っている通りに瞬間的に変えられる感じがしてな。それでちょっと試してみたら、問題なく出来た」
「そ、そうなんだ……」
「本当にナルは規格外ですネ……仮面体の色ってそんなにポンポンと変えられるものでは無いはずですヨ」
「ナルさんの場合、衣装が後付けで、これまでの経験があるからでしょうけど……マリーに同意します」
「まあ、髪の毛や肌の色は変えられないな。あくまでも衣装だけだ。俺の体はデフォルトの状態こそが最も美しいし、最高のパフォーマンスを発揮するからな」
専用デバイスはこれまでよりも俺の思考を正確に読み取った上に、それを正確に再現できるらしい。
おかげで、衣装の色変えや校章の再現なんかは簡単に出来るな。
あ、そうだ。
「折角だから、デバイスの形を模した衣装も出しておくか」
俺は軽く指を一振りしつつ、自分がマスカレイド発動前に身に着けていた『シルクラウド・クラウン』を思い出し、魔力で再現。
それだけで、俺の頭と耳に水仙の花のチャームが付いた『シルクラウド・クラウン』が出現する。
すると、デバイスとしての機能も部分的に再現されたのか、更に俺の魔力が操り易くなった感覚と共に、肉体の維持がしやすくなったような感じがしている。
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
「『シルクラウド』社の人たちはどうしたんだ?」
なお、そこまでやったところで、『シルクラウド』社の人たちはなんか変な声を上げ始めている。
いったいどうしたと言うのだろうか?
「ナルちゃん・リアリティ・ショックを発症したんだよ。ナルちゃん……」
「ナムアミダブツって奴ですネ……」
「意味が分からん……」
「とりあえず夕飯はスシにしましょう」
うーん、とりあえず俺がやった行為が信じがたいものであったがために、『シルクラウド』社の人たちが錯乱状態に陥ってしまったという事だろうか?
落ち着くまで待つ……のも暇なので、身体能力のチェックをしておくか。
「よ、ほっ、ふっ。うん、前のよりも基本的な身体能力が向上しているな。特に反応速度の上昇が著しい。今なら、色々なものを見てから反応する事も難しくなさそうだ」
「みたいだね。これは仕様書通りかな」
「仕様書通りですネ。ナルほどではありませんが、テスターたちにも同じような傾向が見られたようです」
「ナルさん。一応お聞きしますが、魔力量についてはどうですか?」
「まったく減ってないな。ああでも、以前よりももっと消費が少なくなっている感じはしてる」
とりあえずこの場で確認できる範疇では、どの分野においても学園配布デバイスよりも良くなっている感じだな。
「すぅ……はぁ……申し訳ありません、皆様。あまりにも信じがたい光景が見えてしまったためについ動揺してしまいました」
「大丈夫だ。気にしていない」
「そう言っていただけると幸いです」
そうこうしている内に楽根さんたち『シルクラウド』社の人たちが落ち着いてきた。
「では、そろそろ耐久試験の時間ですかネ?」
「そうだな。マリーがやってくれることになっていたが……どのレベルで行くんだ?」
「流石にいきなり全力は出しませんヨ。このデバイスの調子を確かめつつでス」
と同時に、マリーが動き出す。
マリーゴールドの花のチャームが付いた『シルクラウド・クラウン』を身に着けたマリーが結界の中へと入ってくる。
「ちなみにナル。マリーは普通のスキルについては全開で行きますガ、ナルはどうしますカ? スキルを使うのなラ、登録するのを待ちますガ」
「うーん、後でいいだろ。俺は普通のスキルを使った事が無いし、『P・Un白光』も身内しか居ないこの場なら無くてもいいしな」
「そうですカ。でハ……行きます。マスカレイド発動。旅立て、マリー・アウルム」
マスカレイド発動と同時にマリーの体が黄金色の結晶体に包み込まれて見えなくなる。
それから、結晶体にヒビが入り、割れて、中から出て来たのは、喪服とも取れるような黒色のドレスで全身を包み込み、黄金で骨が出来ている黒い傘を手に持った女性……マリーの仮面体……マリー・アウルムだ。
そしてマリーは、手首までしっかりと黒い手袋で隠した右手の指先を俺に向ける。
「それでは。始めましょうか。『マナシュート』」
マリーのスキル発動の宣言と同時に、黄金色の魔力の塊が俺に向かって矢のような速さで射出された。




