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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
3:体育祭編
90/499

90:対グレーターアームの反省会

「ふぅ……」

 愛想と美貌を振りまきながら舞台を降りた俺は、備え付けの控室に戻ってきたところでマスカレイドを解除する。


「お疲れ様、ナル君。いい決闘だったよ」

「ナルさん、見事でした」

「ナル、見ごたえのある素晴らしい決闘でしたヨ」

「うん。ありがとう、スズ、イチ、マリー」

 俺がマスカレイドを解除すると共にスズたちが控室の中に入って来て、俺の事を労ってくれる。

 と同時に、スマホにもメッセージの着信があって、見れば護国さんから『勝利おめでとうございます。素晴らしい守りでした』とのメッセージが届いていた。

 うん、嬉しい話だな。

 とは言えだ。


「今回は相手のスキルの選択ミスに助けられた部分があったな。もしも違うスキルを相手が選んでいたら、負けていたのは俺だったかもしれない」

 実を言えば見た目よりも際どい勝負だったと言うのが、俺の偽らざる本音である。


「ナル君。謙遜も過ぎると嫌味……と言うわけでもなさそうだね」

「グレーターアームの一撃は確かにデビュー戦のトモエ以上ではありましたネ。けれド、ナルがそれほどに警戒するほどだったのですカ?」

「詳しく窺っても良いですか? ナルさん」

「そうだな」

 なので今回の決闘に関しての感想を俺は話す。


 グレーターアームの使った『エンチャントフレイム』の熱によって俺の盾は溶けたが、それによって盾が柔らかくなって、衝撃を抑えると同時に、相手の刃を無力化出来ていた事。

 グレーターアームは『バーティカルダウン』を使っていたが、だからこそ真正面から正確に受け止めて、支える事が出来ていた事。


 この二点において、もしも相手が使ってきたスキルが別のものだったら?

 もしかしたら、盾を破られた上に攻撃が直撃していたり、衝撃の大きさによって吹き飛ばされて追撃を受けたり、そんな可能性は間違いなくあった。


 あるいは、グレーターアームの武器がトモエの薙刀のように斬る事を主体とするものだったら?

 はたまた、グレーターアームが小細工をして、上手く盾を合わせられなかったら?

 たらればと流してしまう事は容易であるけれど、簡単な調整、スキルの変更、立ち回り、そう言った弄る事が容易な部分で、負けに至る要因は確実にあった。

 実際にその場に遭遇すれば、その時は俺もまた別の対処を取るのだろうけど、それが出来るとは限らない。

 だから、実を言えば、今回の決闘はかなり危うい勝利だったと、個人的には思っているわけである。


「なるほどね。そう言われてみると、確かに危ないところだったのかも」

「となるト、攻撃を受け止めた後の反撃も必要な事だったわけですカ。もう一発が来ていたラ、どうなっていたか分からない訳ですシ」

「ですが、観客席から見ていて、ナルさんはそんな空気を一切出していませんでしたね。これはこれで素晴らしい事だと思います」

 どうやら納得してもらえたらしい。

 スズたちの顔がそう言うものになっている。

 それと、俺がそう言う不安な気持ちを抱えていた事については、イチが気づけなかったので、観客の殆どが気づけなかったと考えてもいいだろう。

 無事に隠せたようで何よりである。


「しかし、俺の盾が『エンチャントフレイム』と言うか、炎と言うか、熱に比較的弱いって話は有名なのか?」

「うーん。それなりに有名かな? ナル君の盾が仮面体に後付けされたものである事は縁紅の一件で知られているし、取り込み元になったオリジナルの盾のメーカーも知られているから、そこから魔力で強化されていても大まかな性質は同じと捉えれば、行き着く答えはだいたい同じなんじゃないかな。だから、トモエも使ってきたんだろうし」

「なるほどな……」

 どうやら俺の盾の弱点については知られていると考えた方がいいらしい。

 とは言え、強化プラスチックの時点で熱を受ければ溶け、冷やされれば硬くなる代わりに脆くなり、電気を流されれば半端な導電性で爆発し……なんてのは、現物を調べれば簡単に分かる話か。

 うん、ヤバくなったら、とっとと手放して消し、再生成する方が無難だな。

 俺の身のこなしなら、避ける方向でだってそれなりにやれるはずだし。


 後、属性のお話をすると、炎と冷気と雷以外にも色々とあるらしく、その内に授業で専門の時間を設けてやる可能性もあるそうだ。


「でも有名なのはそこまでで、炎を伴う攻撃をするにしても、打撃じゃ良くないってのは今回が初出じゃないかな。私もちょっと想像してなかったぐらいだし」

「ふむふむ」

「盾を貫くのには熱が有効。盾ごととなれば熱は非効率。そう言う話ですね」

「ナルの相手をする人たちにとってハ、また悩ましい要素が増えたように思えますネ」

 とりあえず次にグレーターアームと決闘する事があった場合には、今回のような俺が有利になる事象の発生は期待しないでおこう。

 俺の立場を考えたら、研究と対策の類はされて当然なわけだしな。


「うーん。対抗策を考えないとな」

「そうだね。ただね、ナル君」

「なんだ?」

「その、『シルクラウド』社の人が悲鳴を上げることになると思うから、対抗策を考えるのは試作品のデバイスが届いてからにしてあげて」

「確かニ。試作品にはデータ収集のための装置が付いているのが鉄板ですシ。それが届いてからの方がナルの為にもなりそうではありますネ」

「試作品は届くのは……体育祭の少し前でしたか。ナルさんの次の決闘は早くても六月。ほぼ間違いなく体育祭の後でしょうから、時間的に余裕はありそうですね」

「……」

 うーん、そんなに俺の仮面体に変化が生じるようなものなのだろうか?

 ちょっと盾を強化する時の魔力の込め方を変える事で、そう言う事が出来ないかなと思った程度の話なんだが。

 まあ、イチの言う通り、現状で急ぐようなものでは無いし、後回しにしていいか。


「と、そう言えば、もう直ぐスズの決闘じゃなかったか?」

 と、此処で俺は今日の決闘は俺のものだけでなく、スズのものもある事。

 そして、その時間がもう直ぐである事を思い出す。


「あ、本当だ。行って来るね」

「ああ。勝ってくれ」

「うーん、今回はちょっと厳しいかなぁ……相手は速攻型の極みみたいな感じだし。頑張れるだけ頑張ってくるね」

「そうか……」

「スズさんはどちらかと言えば、時間をかけるタイプですからね」

「一発逆転はあるかもですかラ、頑張るですヨ」

 そうしてスズは自身の決闘へ臨み……あっけなく負けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナルも見た目ほど余裕ではなかったということですね。 とはいえ盾を抜けた所で素の硬さも回復もあるからなあ。 1年生レベルではナルの優位は動かないでしょうね。
[良い点] 最高の盾に対して最高火力 時間をかけたら最恐に対して速攻タイプ 自身の能力や弱点に目を向けて、キッチリ対策考えろ!みたいな対戦カードですね
[一言] >『シルクラウド』社の人が悲鳴を上げることになると思うから 社畜フェチ「うれしい悲鳴ですね、ワカリマス」
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