9:戌亥寮0304号室
「さて、色々と確認していくか」
戌亥寮0304号室……これから三年間、俺の住処になる部屋へと俺は入った。
部屋の中には、机、椅子、テレビ、ベッド、タンス、カーテンと言った、暮らすのに最低限必要であろう家具が一通り揃っている。
目に付いた限りで足りないものと言うと……全身を一目で確認できるサイズの鏡くらいだろうか。
個人的には、軽めの筋トレに使えるような器具やマット辺りも欲しいのだけれど……。
「ん? カタログ? ああなるほど……」
と、思っていたら、机の上に各種資料と並べられる形で、家具のカタログも置かれていた。
どうやら今あるのは誰でも欲しがるような家具だけなので、追加の家具が欲しかったら、このカタログで選んで注文すればいいらしい。
代金については、各学生には魔力量や学業成績などに応じて、毎月国からお小遣いが支給されるので、その範囲内で支払う事になるようだ。
ただ、このお小遣いから私服、菓子、アクセサリー、交友費などなど、私的なものは全部支払う事になるそうなので、使い過ぎには気を付ける必要があるようだ。
「台所に食器、フライパン……自炊も出来るのか。ただ食材が自費で、朝昼夕必要なら一階の食堂で食べられる事を考えると、俺自身が使う事は滅多になさそうだな」
冷蔵庫の中身は当然ながら今は無し。
では次だな。
「トイレがあって、風呂と洗濯機がある? 寮には共同の風呂やランドリーがあるのに?」
トイレは問題なし。
その次に見たのは洗面所と風呂で、寮の中に共同使用するものが用意されているものだ。
どうしてここにもあるのかと思ったが、俺の疑問に答えるかのように洗濯機の上に学園からのメッセージカードが置かれている。
それによればだ。
「ああなるほど。これもまた魔力量甲判定者に対する優遇措置の一つなのね」
魔力量甲判定の人間の私物は、色々な人間から狙われる傾向にあるらしい。
また、妙な絡まれ方をされることも多い。
だから、風呂と洗濯を自室で出来るようにすることで、そう言ったトラブルを避けられるようにした、との事だった。
きっと過去には窃盗事件とかもあったのだろう。
でなければ、流石に無駄が過ぎると言うか、優遇し過ぎているようにも思えるから。
ちなみにだが、部屋には一週間に一度、専門の業者による清掃が入るので、その際には最低限の片づけとしてゴミをゴミ箱に入れておくくらいはしておくようにとの事だった。
気を付けておこう。
「部屋の確認は完了。次は『マスッター』とやらだな」
その後、俺はスマホに『マスッター』を入れると、各種情報を確認していく。
まあ、概ねは桂寮長の話していた通りだな。
明日から何処へ向かえばいいのかや、どういう風に過ごすべきなのかが大半だ。
中には一年間のスケジュールなどもあるし、後でもう少し読み込んでおこう。
「おっと、スズからメールだな」
ここでスズから『マスッター』のアドレスを教えて欲しいと言うメールが来たので返信。
それと、スズ、イチ、マリーの三人のアドレスを登録して、連絡を取れるようにしておく。
「と、そうだ。忘れない内に麻留田風紀委員長のアドレスも登録しておかないとな。お世話になるつもりはないけれど、教えてもらったのなら登録はしておかないと」
続けて麻留田風紀委員長のアドレスも登録。
と同時に、折角だからと麻留田風紀委員長の個人ページを見てみる。
俺やスズと言った新入生の個人ページは当然ながら未編集なので、何も書かれていないような状態なのだが、三年生である麻留田風紀委員長はそうではないだろう。
だから、それを見て、編集の参考にしようと言うわけだ。
で、見たのだが……。
「ロボぉ……?」
なんか各所に鋼鉄製の人型ロボですと言う感じのキャラが置かれている。
風紀委員会のページへのリンクや、風紀委員長個人への相談窓口なんかもあるのだけど、ロボの主張がすごく強い。
麻留田風紀委員長……俺より頭二つ分は小さい少女の見た目からは想像もつかないような、厳めしいロボがそこかしこに置かれていて、どうしてもそちらに目が持っていかれる。
いや、もしかしてと言うか、もしかしなくてもだが、麻留田風紀委員長の仮面体はロボという事になるのだろうか。
今日俺が入れられた檻を持っているロボも描かれているし。
うーん、風紀委員長なら、色々と有名だろうし、後でスズに聞いてみるか、適当に検索をかけてみれば分かるか。
とりあえず登録はしておいた。
「後は……ああ、これが実際には匿名でない匿名掲示板か」
続けて匿名掲示板を見つけたので、そちらへアクセスしてみる。
利用規約については、当たり前の事しか書いていなくて、要約すれば『馬鹿すぎる事を書き込むと、何処の誰なのかバラされるから止めておけよ』と言う話だな。
「お披露目実況スレ、新入生向け学園生活の注意スレ、麻留田風紀委員長ファンの集い、放送事故スレ、放送事故スレ@2、放送事故スレ@3……よし、後半のは見なかった事にしよう」
匿名掲示板については、俺が今後利用することは無いだろう。
スレッドのタイトルを見ているだけで、俺の精神力がゴリゴリと音を立てて削れていくのが分かるからだ。
いやでも、俺の仮面体がどんな姿だったのかを第三者視点で見れる貴重なチャンスの可能性もあるが……。
「ん? あ、はい」
と思っていたら、幾つかのスレが削除されてしまった。
代わりに出て来たのは一つの注意書き。
そこにはこう書かれてあった。
『公共の良俗に反する画像を貼らないようにしてください。この警告を無視した場合、スレッドごと封鎖されるだけでなく、何かしらのペナルティが付与される可能性があります』
うんそうだね。
よく考えなくても裸の女性の写真だもんね。
そりゃあ、載せられないわ。
「あ、スズからメッセージが来てるな。匿名掲示板は見ないで? 対処は私とイチとマリーでしちゃうから? ……。うん、見なかった事にしよう」
後、誰の手によって削除祭が行われているのかを察してしまった気がする。
ただ、これについてはスズが正しいと思うので、俺はスズの言う通りに見なかったことにする事を決めた。
「さて、そろそろ夕食だな」
その後の夕食は周囲の生徒たちから何処か生暖かい視線を向けられつつのものではあったが、豪華な食事をスズたちと共に楽しみ、それから部屋へと戻って、特に何事もなく俺の学園生活一日目は無事に終わる事になったのだった。
さて、明日からの学園生活本番はどうなるのだろうか?