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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
3:体育祭編
82/499

82:情報収集のための模擬決闘 VS天石市

「こちらで観戦とデータ収集が行えます」

「ありがとうございます」

 ナルたちがやってきたのは、学園内各所に存在している訓練用の教室。

 動き回るのに十分なスペース、各種情報収集のためのツール、防諜設備、10人程度なら入れる客席と言った、決闘を行うのに最低限必要なものだけがある部屋である。

 通常は仮面体の調整や訓練に用いるための場所であるが、今回は専用デバイスを作るのに必要なデータを収集するための模擬決闘を行う場として、利用する事になった。


「あ、楽根さん。ナル君たちの基本的なデータは今の内にお渡ししておきます」

「ありがとうございます。これと今から行われる模擬決闘の経過を見せていただければ、データは十分取れるはずです」

 準備は手早く進んでいき、ナルとイチの二人だけが決闘の舞台に残って、残りの四人は客席へと移動。

 複数台のカメラによる撮影も開始される。


 なお、今回の模擬決闘においてナルの相手はイチが務めるが、その理由は単純。

 スズ、イチ、マリーの三人では、イチが最もナルの特性を引き出すような決闘が行えるし、決闘そのものの時間も長く出来るからである。

 もっと言えば、スズもマリーも、仮面体の能力がとにかく調査と言うものに向かない、と言う事でもある。


「さて、準備完了か? スズ、マリー」

「うん、大丈夫。カメラはきちんと動いているよ。ナル君」

「その他機材も問題ありませン。記録媒体も大丈夫ですヨ」

 ナルが最終確認をして、スズとマリーの二人から元気な返事がある。


「ではナルさん。普段通りでいいでしょうか?」

「そうだな。普段通りでいいと思う」

 イチが懐から取り出した学園指定のデバイスを顔に着ける。

 ナルも同様に、学園指定のデバイスを着用する。


「じゃあ、カウントダウンするよ。3……2……1……模擬決闘開始!」

「マスカレイド発動。魅せろ、ナルキッソス!」

 スズが開始の合図を告げると共に、ナルがマスカレイドを発動。

 全身から光を放ち、その光の中から学園の女子制服……ではあるものの、通常のそれではなく、体操服として身に着けるもの、つまりは極めて短いブルマに半袖シャツを身に着けた姿で現れる。


「!?」

「あ、ナルちゃん。体育祭バージョンです。ナルちゃんは結構お気軽に着替える事が出来る仮面体なので。詳しくは後でお渡ししたデータを見てください」

「な、なるほど。分かりました」

 デビュー戦の時とは全く異なるナルの姿に楽根は多少の動揺を見せるが、スズの説明で直ぐに納得して集中力を取り戻す。


 余談だが、決闘学園の体操服は長袖のジャージ、膝上丈の普通の体操服、ナルが着ているブルマのように極めて短い丈のものと三種類あるが、どれを着るかは個人の自由であり、最後のそれは学園生徒からはコスプレの類用と認識されているものである。

 閑話休題。


「マスカレイド発動。揺らげ……ファス」

 ナルが完全にマスカレイドを終えたところで、イチもマスカレイドを発動する。


 デバイスが黒色の粒子に変換されてイチの体を覆って行き、全身を覆い尽くしたところで、頭頂から順に粒子が離れていき、イチ……仮面体名ファスの姿を露わにする。

 顔を隠すのはペストマスクとも呼ばれる、鳥の嘴を模したマスク。

 そのマスクすらも隠すように身に着けているのは、よく見れば黒系の塗料によって迷彩が仕込まれたフード付きのマントであり、その下にある衣服もまた同様。

 右手に持つのは既に矢を装填され、弦も引かれているクロスボウで、色は悉く黒。

 仮に闇夜の中で遭遇すれば、目の前に近づかれるまでその存在を認識できないであろう、不穏な気配を漂わせる仮面体が姿を現した。


「さ、来いよ。遠慮なくな」

「では、遠慮なく」

 両者のマスカレイドが完了して動き出す。

 先に動いたのはファス。

 右手に持ったクロスボウの先を躊躇いなくナルの胸に向けると、直ぐに引き金を引き、真っ黒な矢を放つ。


「この程度なら、気合いを入れる必要もないな」

「そうでしょうね」

 それをナルは構えた盾で受け止め、盾に僅かな傷だけ作って弾く。

 そして、僅かに出来た傷は直ぐに修復されて、無かったことになり、弾かれたファスの矢は役目を果たしたという事で消える。


 これはファスの魔力量と、ナルの魔力量と性質を考えれば、当然の結果である。

 だが今回はナルの仮面体の様々なデータを取るためであるために、ファスは効果が無い攻撃をわざわざしてくれたと言う形である。


「では、少しずつギアを上げていきます」

「ああ、頼む」

 ファスはクロスボウを腰のホルスターに収めると、ナルに向かって駆け出す。

 それを見たナルはファスに向かって盾を突き出すことで迎撃を試みるが、ファスは細かなステップで盾を回避すると、そのままナルの側面へと移動し、脇腹に向かって蹴りを叩き込む。

 その蹴りの威力は生身で受けたなら大の男でも痛いでは済まないほどの力を持っていたが……。


「効かん!」

「そうですね。効かないですよね」

 ナルは痛がる様子すら見せずに、ファスへ反撃するように腕を振り、ファスはそれを避けるようにバックステップをする。


「本当にナルさんは頑丈ですよね」

「まあな。まあ、それが取り柄ではあるしな」

 その後も二人の攻防は続く。

 ファスはナルが守っていない部分を狙うように、硬質のパーツが仕込まれている指先とつま先による攻撃を仕掛ける。

 対するナルは、もはや盾すら構えずにそれをただ受け止めて、反撃のパンチやキック、掴みかかりと言った攻撃を繰り返す。

 だがファスの攻撃はナルの堅さに阻まれて、ナルの攻撃は身軽なファスを捉えられず、お互いに有効打にはならない。


「では折角なので、これも受けてみてください。普通に撃ちますので」

「分かった。ただし、腕で受けさせてもらうけどな」

 不意にファスがクロスボウを構える。

 そこには既に矢が装填されていて、弦も引かれている。

 これはファスの仮面体が持つ機能の一つで、装備しているクロスボウの自動装填能力である。

 極めて地味だが、装填中はファス本人は自由に行動できると言う便利な能力だ。


 ファスのクロスボウから矢が放たれる。

 最初の攻撃時よりも極めて近い距離で放たれた矢は、ナルの胸に向かって行き、胸に当たる前に構えられたナルの腕へと当たり……突き刺さる。


「……。この距離で放たれた矢が矢じりがギリギリ埋まる程度しか刺さらないと言うのは、本当に困りものですね」

「まあ、頑丈なのが俺の取り柄だからな」

 とは言え、突き刺さった深さは矢じりの部分だけで、骨に届くほどではない。

 ナルは表面上は平然と矢を引き抜くと、適当に放り投げる。

 矢を抜いた場所からは軽い流血があるものの、血は直ぐに止まり、続けて肉体の再生も行われて、元通りの美しい肌を取り戻す。

 それはまるで、ナルの仮面体があるべき姿を自動で保とうとするかのようだった。


「さて、他に試すべきは……スキルを使った時の攻撃を受けた場合か?」

「そうだと思います。それとファスを攻撃した時の挙動も一応見せるべきかと。そう言うわけですので、『エンチャントフレイム』『パワーショット』」

 ファスが三度クロスボウを放つ。

 ただし、今度の矢は炎を纏っていて、更にはファスの動きが不自然なほどに決まった動作を取る代わりに、多大な魔力を含んでいた。

 それはデビュー戦でトモエが放った攻撃のファス版とでも言うべき攻撃。

 ナルはそれを避けられるなと頭で思いつつも盾を構えて……防ぐ。


「やっぱりファスの魔力量では盾を貫くまでがやっとですね」

「みたいだな。刺さりもしないと言うか、俺の体に届く前に消えてる」

 ファスの矢はナルの盾は貫いた。

 だが、構えられた盾とナルの頭の間にある空間を越える事も出来ないほどに強度を失っていて、消えてしまった。

 それはファスと言う乙判定者と、トモエと言う甲判定者の間にどれほどの実力差があるかを示すものであった。

 しかし、その結果を受けてもファスの声に呆れはあれど、悲嘆はない。


「では折角なので、これも受けておきますか?」

「そうだな。受けておくか」

 ファスの全身の輪郭がぶれる。

 それはまるで周囲の風景とファスが混じり合って、不確かな存在になったかのような光景であり、ファスの全身にぼかしがかかったかのようだった。


「装填、発射」

 そのぼかしが、ブレが、ファスのクロスボウへ、矢へと集まっていき、何が装填されているのか傍目には分からない物体が現れる。

 そしてそれは、既に元通りに修復されている盾を構えたナルへと向かって行き……。


 すり抜ける。


「っう!?」

 それから深く突き刺さる。

 胸前に構えられたナルの腕を貫き、その先にあった胸の半ばまで突き刺さって、両者を縫い留める。


「流石に……痛いな」

 ナルの口から苦悶の声が漏れる。

 それはナルの仮面体が痛みも含めて、鋭敏に周囲を捉えているが故の反応。

 だが、痛がりはすれど、致命傷には程遠いと理解しているため、ナルは無理やりに矢を引き抜くと、傷ついた体を再生して、元通りにする。


「ファスとしては、これで仕留められないのは困りものなのですが」

「背中側から不意打ちで撃ち込まれたり、直接ヘッドショットされたりしたら、流石にやられると思うが?」

「いえ、ナルさんの再生能力を見ていると、心臓や脳を潰した程度でマスカレイドが解除されるかはちょっと怪しい気がファスにはしているので」

「幾ら何でもそれは無いと思うんだが? まあ、流石に試す気にはならないが」

「……」

 今の一撃はファスの切り札であった。

 詳しい原理は今は置いておくが、本来ならば大抵の守りを無視して急所を貫く事が出来る攻撃であった。

 だが、ナル相手では必殺にはなり得ない。

 それが出来てしまうのが、ナルの魔力量であり、魔力の性質であった。


「なんにせよ。これで模擬決闘は終わりですね。ファスの魔力はもう限界ですので」

「そうか。助かった」

「いえ」

 そして、ファスが魔力切れによってマスカレイドを解除すると共に、模擬決闘は終了となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファス、下手な甲判定なら勝てそう
[気になる点] イチイの弓ですかね? 印象的には北欧神話よりロビンフッドっぽい。 ペストマスク……普通に考えれば医者なんですが、付随するイメージが悪すぎて判断し難いですね…… [一言] 情報が足りな…
[一言] >ブルマ なぜそれを選んだ。 >ファス イチ→1→ファースト→ファス でしょうか。 格闘も射撃もいけるなら、普通の相手には大体互角以上に戦えそうですね。 撃つ時にブレるあたり、量…
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