80:他の寮のミーティング
「と言う感じに戌亥寮のミーティングは進んでいったな」
火曜日の午前中。
授業と授業の合間、俺は徳徒たちに体育祭に関するミーティングが戌亥寮ではどのように行われたのかを話した。
なお、誰がどの競技にエントリーするつもりなのかは話していないし、スズに話してもいいかと言う相談をした上での行動なので、問題は何もない。
「へー、やっぱりと言うか何と言うか。戌亥寮は本当に個人主義って感じなんだな。オレたち申酉寮とはまるで別物だ」
「やっぱりそうなのか?」
「ああ、ワイたちは殆ど後方腕組み待機しているだけだったが、他の生徒たちはワイワイガヤガヤとやっていて、その流れで決まっていった」
「普通に、他の人へこれへ出てみたらどうだって感じで勧めたりもしていたっすよ。とは言え、ウチたち含めて甲判定者が何処へ出るかの都合があって、まだ本決定にはなっていないっすけど」
「なるほどなぁ」
徳徒たち三人が所属する申酉寮はある意味では戌亥寮とは真逆の動き方をしたらしい。
最初から自薦、他薦、どちらもありで、各競技へとメンバーを振り分けていき、誰かが漏れればそれのフォローを誰かがしてと、協力して決めていったようだ。
「ちなみに徳徒たちは自分がどの競技に出るかを話す気はないよな?」
「無いな。オレなんかは能力都合でバレてそうだけど」
「ないない。ワイとか調整が利く方だし、きちんと隠さないとな」
「それが駄目だって事ぐらいウチでも分かっているっすよ」
「だよなー」
なお、何処の寮も本気で勝ちに行くなら、甲判定者対策は必須になるので、俺たち甲判定者がどの競技に出るのかは重要な情報になる。
だから、何処の寮でも秘匿されている情報になると思うのだが……。
俺のスマホには、スズから徳徒たちがどの競技に出るのかと言う情報が届いている。
予測なのか、確定情報なのかは分からないが……うん、表には出さないでおこう。
「ところで翠川。水園さんなら、他の二つの寮がどんな決め方をしているかって情報くらいなら入っているんじゃないか?」
「気づいたか。うん、入ってきているな。どうしてか」
「マジで入ってたのか……」
「ちょっと怖いっすね……」
なお、前述の情報に並ぶ形で、子牛寮と虎卯寮がどうやって体育祭のメンバーを決めるつもりであるかの情報が記載されている。
そしてこの情報は徳徒たちに話しても良いそうなので、出しておくことにする。
スズ曰く。
『子牛寮は各競技に勝つために必要な要素を共有した上で、その要素を持っている生徒を説得して出場させるつもりの模様。また、先輩たちからの情報も積極的に得てきている。つまり、本気で勝ちに来ている。ただ、他の寮の甲判定者の動き次第では、選出者は変わる』
『虎卯寮はある種の実力主義。魔力量や学業成績と言ったものから順番が振られて、その順番通りに自分が参加する競技を選んでいる。人数が足りないところには下位の順番の人が回されている。決定に不満があるなら決闘で決める方針。他の寮の甲判定者の動きは気にしてもいない』
との事だった。
ちなみに、どうやって入手したのか分からないが、それぞれのミーティングの様子を映した監視カメラの映像付きである。
誰がどの競技に参加するかの詳細までは分からなかったが、子牛寮なら吉備津、虎卯寮なら護国さんが映っているのは確認したので、映像が偽物という事もあり得ないだろう。
「「「……」」」
うん、正直に言わせてもらおう。
「スズが怖い。監視カメラの情報とかどうやって手に入れたんだ……」
「浮気とかするなよ、翠川」
「絶対にバレるから、本当にするなよ、翠川」
「なんかこうしている今も目が来ていそうっすね。翠川」
「否定できないのがツラい。後、浮気は全く興味が無いから大丈夫」
いや本当に、何処からどうやってスズは情報を手に入れているのだろうか。
明らかに普通の情報入手手段じゃないよなぁ……。
何処かに監視カメラに干渉出来る仮面体を持っている先輩とか居るんだろうか?
「しかし翠川」
「なんだ?」
「水園さんって昔からこんな感じだったのか?」
「ああ、そう言えば幼馴染だもんな」
「確かに気になるっす」
「あー、そのことか」
と、ここで話が体育祭からスズへと変わる。
しかし、昔のスズなぁ……。
「まあ、昔からではあるな。基本的に一緒に居るって言うのは、写真を見る限り、赤ん坊のころからっぽいし。少なくとも俺が自意識と言うものに目覚めた時点で、隣にスズは居た」
「そう言うレベルなのか……」
「そう言うレベルなんだよ。で、それから本当にずっと一緒に居るからな。どうして俺がスズに好かれているのかと言う話をされたら、正直なところ、分からないとしか返しようがない。居るのが当たり前になり過ぎているからな」
「なるほどなぁ。となると、翠川が決闘学園に行くことに決まった時はだいぶショックだったんじゃないか? 此処は来たいからで来れる高校じゃない訳だし」
「だいぶショックだったと思うぞ。とは言え、今ここに居ることから分かるように、スズは自分の実力で道を切り開いてやってきたわけだが」
「愛っすねぇ……凄まじくヘビーな気配を感じるっすけど」
なお、スズが何時何処でどうやって各種技能を磨いているかは俺には分からない。
まあ、基本的に一緒とは言っても、今こうしているように別行動を取る時間もあるので、その時間を上手くやりくりする事で、自分の技能を磨いているのだろうけども。
「しかし、それだけ一緒なら、何処かで離れてみようとか思わなかったのか?」
「俺はそう言うのは思わなかったし感じなかったな。スズがどう思っているかは知らない。少なくとも俺が決める事じゃない」
「でも水園さんが困っていたら助けるんだよな?」
「そりゃあな」
「水園さんを馬鹿にされたら怒るっすよね?」
「当然だな」
「なるほど。翠川と水園さんが不可分だってのがよく分かるな」
「いや、可分だろ。俺は俺で、スズはスズだ。俺は分からないが、スズについては一人でも何とかなるのは明らかだぞ」
「「「はっはっは。何を言うか」」」
なんか徳徒たち三人が揃って笑い声をあげた。
俺はそんなに変な事を言ったか?
変な事を言った自覚は全くないんだが。
「と、時間だな。席に着いておかねえと」
「だな」
「そっすねー」
「うーん?」
その後は特に何事もなく午前中の授業は終了となった。
さて午後は……『シルクラウド』から人がやって来て、俺専用デバイスについての話し合いだな。




