75:戌亥寮一年生・一般枠代表
「さて、とりあえずは自己紹介からだな。俺は翠川鳴輝だ。これからよろしく頼む」
空き教室へと移動した俺たちは、お互いの名前も知らないはずという事で、まずは自己紹介する事にした。
そして言い出しっぺである俺がまず名乗ったわけだが……。
「あ、翠川さんの事は良く知っていますので大丈夫です」
「そうですね。むしろ知らなかったらモグリだと思います」
「あれー?」
「ナル君さぁ……。自分が所属する寮の、同学年の、唯一の甲判定者で、お披露目会とデビュー戦と縁紅の件であそこまで派手な事をしていて、なおかつ普段から私たちが一緒に居ることで目立っているんだよ。学園の生徒で知らないなんて、一部例外を除いてあり得ないから」
どうやら、俺の自己紹介は不要だったらしい。
と言うか、スズからこれでもかと知らない訳がない理由を並べられた上に、二人とも同意するように頷いている。
そうなのか……いやまあ、それなりに有名な自覚はあるのだけど、そこまでなのか……まあ、俺の美しさが知れ渡っていると考えれば、そこまで悪い事でもないか。
「えーと、私の自己紹介は必要だよね? 私は水園涼美。よろしくね、諏訪君に獅子鷲さん」
「「!?」」
「あ、スズは知っているんだな」
で、スズは俺が知らなかった二人の事も知っているらしい。
うんまあ、スズだしな。
もっと言えば、この場に招かれているという事は、この二人は乙判定の中でも優秀な二人なのだろうし、それならスズの情報網に引っ掛かっていてもおかしくはない。
「あー、驚きました。まさか知られているとは……。ただまあ、改めて自己紹介はさせてもらいます。俺は諏訪水広と言います。仮面体の名前はスウィードです」
「スウィードって、先日、スズがデビュー戦で戦った……」
「ええはい。その通りです。煙幕の中、何をされたのかもよく分からないままに倒されたスウィードです……」
「あ、いや。他意は無いんだ。その、なんて言うか、悪い」
「いえ、こちらこそ。負けたのは事実なので、はい」
さて、俺が名前を知らない男女の内、男子の方は諏訪水広と言うらしい。
どうやら先日のデビュー戦でスズが倒した相手のようだ。
デビュー戦で負けたのに呼ばれているという事は、やっぱり学業成績的な意味で優秀と見てよさそうか。
こう、微妙に暗い感じもあるが。
「コホン。私は獅子鷲樹里と言います。仮面体の名前はボーゲンレーベ。水園さん含めて、これまで特にこれと言った関わりは無いので、初対面のはずです。これからよろしくお願いしますね」
「そうですね。ちゃんと面と向かって話すのはこれが初めてです。これからよろしくお願いしますね。獅子鷲さん」
続けて女子の方も名乗る。
獅子鷲樹里さんと言うらしい。
うん、俺も彼女については特に面識は無いな。
寮の食堂や幾つかの授業で見かけた覚えはあるけども。
ちなみに二人とも、特徴的な見た目などはしていない。
本当に普通の生徒と言う感じである。
で、自己紹介を終えて、四人で連絡先を交換して、此処から体育祭についての話し合いである。
であるがだ。
「さて、単刀直入に言ってしまうんだけれども、戌亥寮一年の指揮とか、そう言う面倒事は全部二人に任せていいか? 俺の頭と能力だと、最前線で神輿として暴れ回るのが一番向いていると思うんだ。で、スズが俺のサポートな」
まあ、こう言うのは最初にぶっちゃけてしまうのが、誰にとっても為になる。
と言うわけで、早々に頭脳労働は任せる宣言をしてしまう。
「うん、任せてナル君」
そして、そんな俺のサポートをする事を、当然ながらスズも受け入れてくれる。
後は諏訪さんと獅子鷲さんがどうしたいかだが……。
「そう言ってくれると助かります。俺としても、翠川さんはそれぞれの競技で派手に立ち回ってくれるのが一番だと思っていたんで」
「私も同意します。お二人と……それにいつも一緒に居る残りの二人もですね。貴方たち四人は旗印として、目立ってもらうのが、寮全体の士気を上げるのにもちょうどいいと思いますので」
うん、同意は得られたな。
「まあ、出来る範囲での協力はするから、何かあった時は連絡してくれ。たぶん、それぐらいが俺たちにとってはちょうどいい」
「「はい」」
「じゃあ、ナル君をどうするか決まったところで、マスッターの体育祭のページを確認してみようか。もしかしたら、何か見逃している事もあるかもしれないし」
スズがスマホを操作して、マスッターの体育祭の詳細について記したページを出す。
えーと?
ああうん、かなり細かいな。
とりあえず三日間行われて、基本的には個人個人で記録を作っていき、一部競技だけは対戦要素や妨害要素があるのね。
で、記録に基づいて、学年ごとに各競技の順位が決まり、順位に合わせて寮にポイントが入って、合計ポイントが多い寮が勝利。
勝ってもあるのは名誉くらいなものだけれども、テレビやスカウトが入るから、期間中に活躍すれば、後で何かいいことがあるかもしれない、と。
「あーうん、後で表か何か作ってくれ。ちょっと理解が追い付かない」
「表は……確かに必要でしょうね。誰が何処へ参加するかを管理する必要がありそうですし」
「基本的には自由参加で大丈夫なのでしょうけど、調整が必要となったら、どう説得するべきか問題になりますね」
「うーん、管理側の追加人員も準備した方がいいかもね。戌亥寮一年生は75人。競技の数は26種。日程が被らないようにしたり、本人の希望と適正競技が別な場合もあるだろうし……性格も含めて、管理側になれそうな子のデータを二人に送っておくね」
「「アッハイ。アリガトウゴザイマス」」
「何故にカタコト?」
とりあえず、何で一月半も前の時点から、体育祭の日程が出されるのかが分かった。
選出と練習の時間まで考えたら、むしろ遅いくらいではないだろうか。
と言うか生徒にやらせる作業量じゃないだろ、これ。
戌亥寮はスズが色々とデータを持っていそうなので何とかなりそうだが、他の寮は大丈夫なのだろうか?
いや、もしかしなくても、スズみたいなのが各寮に一人くらいは居るのかもしれないが。
「じゃ、とりあえずはこんな所かな。寮に体育祭のお知らせを物理で張っておいて……うーん、その前に二年生と三年生の取りまとめ役の人と打ち合わせかな」
「俺たちと同じように知らされるなら、土日に顔合わせでしょうか」
「たぶんそうなるね。去年取りまとめ役だったから今年も、と言うのが必ず通じるとは限らないだろうし。とりあえず一年生の子たちには、お知らせをよく読んで、出たい競技を考えておいてとは言っておこうか」
「分かりました。連絡しておきます」
うーんまあ、何にせよだ。
「ナル君」
「なんだ?」
「神輿役、頑張ってね」
「分かった。とりあえず仮面体に体操服でも取り込んでおいて、目立つようにしておく」
「うんじゃあ、それで」
スズたちなら何とかできるだろうから、ヨシッ!
俺は俺に出来る事をすればいい!
分かり易いな!!
体育祭の詳細はいずれ掲示板回の形でお出しします。(予定)
それはそれとして、得意不得意が異なる75人を、26の競技へと、出来るだけ希望を叶えつつ、条件を守りながら、振り分ける事になるのは……普通にキッツイと思います。
もはやパズルの類でしょう。
だからこそ、支障なく振り分けることに成功した時点で、担当者には箔が付くのでしょうけど。
08/26誤字訂正
02/12誤字訂正




