70:乙判定のデビュー戦
「さて、今日からはスズたちのデビュー戦だな」
「うん、そうなるね」
「頑張ります」
「最初が肝心ですからネ」
俺のデビュー戦が終わった翌日。
今日から二日間は魔力量乙判定組……つまりはスズたちのデビュー戦が行われる。
参加人数は……えーと、新入生300名中、乙判定が290名。
その中でデビュー戦に参加する事を受け入れたのが266名。
この266名で適当に組み合わせて、学園内各所にある決闘用の舞台で順番かつ手際よく決闘が行われていく。
なお、流石に今日の段階になると決闘の組み合わせが変わることは無い。
此処で拒否すれば、ただの不戦敗である。
「……。三人とも今日中なのか」
「うん。おまけに三人とも会場が違うから、ナル君が全部見たいのなら、頑張ってもらう事になると思う」
「お、おう、頑張る」
ちなみにデビュー戦を拒否する理由は人それぞれだ。
単純に、調整不足、決闘に向かない仮面体、と言うパターンもあれば、本人の気質の問題、と言うのもあり得るし、なにかしらの初見殺し持ちであるために今は隠す、なんてものもあるようだ。
実家の都合で目立つ必要が無いと、そう言う事もあるらしい。
「それじゃあナル君。行って来るね」
「ああ、分かった」
まあ、俺たちには関係のないことだな。
朝食を食べ終えたスズたちが自分の決闘場所になるホールへと向かっていく。
「さて、俺も見ていくか」
ちなみにだが。
本日は一年から三年まで座学は無し。
一年生のデビュー戦を見ることこそが勉強であると言ってもいい。
また、昨日ほどではないが、今日もまた外部から多くの人が入ってくる。
内訳としては、決闘者のチームでスカウトを担当している人だとか、スポンサー各社から送られてきた支援してもいいと思える生徒を探すスカウトの人だとか、生徒の家族だとか、物好きな客だとか、そんな感じだ。
そんなわけで、生徒は品行方正に過ごすことを求められている。
余談だが、生徒がデビュー戦を見に行くのはタダだが、外部の人間が決闘を見るのには多少のお金が必要となる。
「まずは……イチからだな」
俺はデビュー戦を観戦しつつ口を潤せるものを購入してから、イチがデビュー戦を行う会場へと向かった。
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「此処がそうだな」
時間は過ぎて。
もうじきスズが決闘をする時間である。
「そうですね。スズさんもイチたちと同じように勝てると良いのですが」
イチが声を出す。
イチの決闘だが、拳銃を二丁持った、スーツにサングラスと言う仮面体を有する相手だった。
まあ、何と言うか、普通の仮面体であり、特徴らしい特徴のない相手だった。
その為か、イチも切り札を使わず、普通のスキルだけ使って、普通に競り勝っていた。
普通普通と言い過ぎな気がするが……本当に普通だったので仕方がない。
「大丈夫じゃないですカ? だってスズですヨ? マリーたちみたいのに当たらなけれバ、ノープログレムだと思いまス」
マリーも声を出す。
マリーの決闘だが、こちらは革製の兜に鎧、そして大きな盾と斧を持った、敢えて近いものを挙げるならバイキングと呼ばれる海賊が近そうな仮面体を有する相手だった。
そんな相手に対してマリーも切り札を使わず、普通のスキルだけ使って、ほぼ完封していた。
距離を詰めさせなかったのは、マリーの立ち回りの賜物だろうが、それ以外は特にこれと言ったもののない決闘だった。
「二人みたいな……切り札持ちって奴か」
「ですネ。まだ早い家でも三代目くらいな訳ですけド、持っている家は持っているものなんですヨ。その手の切り札ハ」
「とは言え、デビュー戦程度で使うとは限りませんけどね。イチの切り札もマリーの切り札も、甲判定組にも通用する可能性はありますが、それは初見だからと言うのが大きいですし」
なお、二人の切り札については、俺は既に教えられている。
その上で言わせてもらうのなら……二度目だからと言って、簡単に対処できるようなものでは無いと思う。
デビュー戦が終われば、各自独自のデバイスやスキルも持ち込み始める事だろうし、それらが合わされば、知っていてもなお、危ないか、対処できない、それくらいのポテンシャルは秘めているように感じるのが二人の切り札である。
「ちなみに護国家にはそう言うのってあるのか?」
「いいえ。イチが知る限りではありませんね」
「マリーも知りませんネ。とは言エ、あの家の実力だト、基礎を磨く方がよほど強いと思いますガ」
さて、こうして会話をしている間に、俺たちはスズのデビュー戦が行われるホールへと入って、適当な席に着く。
人の入り具合は……それなりと言うところだろうか。
人が座っている席と空いている席が半々ぐらいである。
まあ、寮のテレビやネット回線を介して見る事も可能であるし、わざわざ会場まで来ない生徒が多いのは納得でしかないが。
「そうですね。私たち護国家には特に切り札や秘伝と称されるような技はありません。これまでは必要ありませんでしたから」
「護国さん」
「……」
と、ここで護国さんが現れた。
背後には、他の甲判定女子組三人も揃っている。
「どうしてここに?」
「その、水園さんに見に来ないかと誘われましたので。用事も特になかった事もあり、見に来ました」
「そうか。スズが……なんで?」
「さ、さあ? なんででしょうね?」
気が付けばイチとマリーは共に俺の左手側に。
護国さんは俺の右手側に座っていて、他の三人は俺の背後に座るようになっている。
「~~~」
「……」
で、羊歌さんとマリーが何か話しているが……まあ、いいか。
それよりも何故スズが護国さんに見に来るように誘ったかだが……よく分からないな。
護国さんに実力を示すためか?
それならまだ分からなくもないが。
「コホン。話を戻しますが、今後は護国家でもその手の切り札を開発する可能性はあります。使ったのが学園配布のデバイスだったとは言え、火力不足と言う何としてでも解決しなければいけない課題に直面してしまったことは確かなので」
「あー、俺か。確かに今後、俺以外で、俺のように異常な耐久力を持った仮面体が出てこないとは限らないもんな」
「ええそうです。その時に対処できません。勝てません。と言うのは、国を護ると言う名前を背負っている家には許されませんから」
「早々に出てくるとは思えないけどな」
それはそれとして、護国家も今後は切り札の類を考え、準備するつもりのようだ。
まあ、俺と言う存在が居る以上、必要性の否定は出来ないな。
「だとしてもです。それにもう一度ナ……んぐ、翠川様と決闘する可能性も、同じ学園に居る以上はあり得るわけですから」
「様?」
「……」
何故か様付けされたので聞き返したら、護国さんはそっぽを向いてしまった。
これはあー、婚約者だからとかだろうか?
俺からも護国さんからも婚約破棄の話がまだ出ていない以上、昨日の決闘の結果もあって、今の俺と護国さんは婚約者と言う立場になっているわけだしな。
えーと、この件については、昨日スズから言われているんだよな。
護国家と色々な話し合いをする必要があるから、ナル君からは触れないようにとか、そう言う感じの事を散々に。
だとしたらこれ以上は触れないでおく方が無難か?
「おヤ。よく見るト、この会場には一年生甲判定組勢揃いなんですネ」
「ん? ああ、本当だ」
「ナルさんと護国さん以外は偶々だと思いますけど、確かにそうですね」
さて、もうじき時間だな。
スマホで確認した日程表通りなら、次の決闘がスズの決闘だ。
よく見れば徳徒たちも居るし、麻留田さんと生徒会長も居る。
中々に注目度が高い状況でスズは決闘する事になるようだ。
そして、そんな事を思っている間に、スズと決闘相手の男子生徒が姿を現した。
イチとマリーの決闘シーンはもう少し先です。




