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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
2:デビュー戦編
64/499

64:それぞれのデビュー戦 男子組VS女子組

『それでは続きまして第二決闘! 東よりアルレシャ! 西よりブルーサル! 決闘……開始!』

「「マスカレイド発動!」」

 第一決闘の時と同じように舞台上に現れた二人がマスカレイドを発動して光に包まれる。


 大漁(おおあさり)愛佳(あいか)ことアルレシャの仮面体が現れる。

 その見た目は一言で表すならばスケバン。

 口元をごく普通の布製マスクで隠し、青い髪のツインテールはそのままで、ロングスカートのセーラー服で身を包み、その上から肩にかけるようにロングコートを着て、両手には手袋をはめている。

 だがそれだけだ。

 武器のようなものは何処にも持っていない。


 徳徒(とくと)(まこと)ことブルーサルの仮面体も現れる。

 その見た目は一言で表すならば、戦隊もののブルー。

 頭は猿をモチーフにしたヘルメットで完全に隠し、首から下は各所にプロテクターが入った全身タイツで覆われていて、その色は青を基本としてまとめられている。

 そして腰には投げるのに適した大きさの球体が複数個並べられ、背中にはどうにも仮面体にはマッチしていないアサルトライフルが張り付いていた。


「何度見ても戦隊ものだな。アンタの仮面体はよ」

「そう言うそっちはスケバンそのものだな。武器は……拳か?」

「教えてやる義理はねえよ!」

「そりゃそうだ!」

 アルレシャがブルーサルに向かって駆け出す。

 対するブルーサルは素早く腰の球体……野球ボールと同じ大きさのそれを一つ手に収めると、非常に慣れた動きで投球フォームに入り……投球。

 ストライクではなくデッドボール狙いのボールがアルレシャの顔面に向かって、弾丸のような勢いと回転で飛んで行く。


「喰らうかよ!」

「っ!?」

 だが、そのボールは空中で不自然に軌道を変えて、アルレシャの顔面の横を通り抜けていく。

 そして、その間にもアルレシャとブルーサルの距離が詰められ、アルレシャの腕が横なぎに振るわれ始めたところでブルーサルは気づく。


「糸か!」

 アルレシャの手袋の先から伸びる細長い糸が、照明の光を反射して煌いている事に。


「バレちゃあ仕方がないな!」

 その糸が束ねられ、バットのようになりつつ、ブルーサルへと向けられる。


「おらぁ!」

「っ!?」

 アルレシャの糸製バットがブルーサルの頭部を強打した。

 ブルーサルはその衝撃に逆らわず、自分から吹き飛ばされ、距離を取る。


「ブルーサル。ボールへ込める殺意が足りないんじゃねえか?」

「だろうな。オレにとって中学まではボールは人にぶつける為に投げるものじゃなかった。今だって諦めきれない」

 ブルーサルは立ち上がると、背中のアサルトライフルに手を伸ばす。

 それと同時に零れたのは、決闘者である自分を受け入れきれずにいると宣言するような言葉だった。


「だから、こっちを使わせてもらう。糸程度で防げるものなら防いでみろ」

「面白れぇ。受けて立ってやるよ」

 ブルーサルがアサルトライフルの引き金を引く。

 フルオートに設定された銃からはブルーサルの魔力を吸い上げて生成された弾丸が無数に放たれる。

 その数と速度は、間違っても見切れるようなものでは無かった。

 対するアルレシャは糸を円錐状に束ねて配置し盾のようにした。


「「「ーーーーー~~~~~!!」」」

 アルレシャの体が完全に糸の陰に隠れて見えなくなると同時に、ブルーサルの弾丸の群れが糸の盾に到達。

 ブルーサルの弾丸は数本の糸を断ち切り……そこで止まる、あるいは逸れる、同じ場所に着弾した弾丸はさらに奥へ突き進んだが、完全に食い破るよりも早く弾丸は消えていく。


「先輩たちから使い慣れていない武器は止めておけって言われた理由がよく分かるな。クソッ」

「格下相手なら十分なんじゃないか? でもアタシは同格だ。残念だったな」

 銃声が止む。

 引き金は引かれているが、弾丸は出てこない。


「はぁ。色々と見直さないとな」

「頑張れよ、青猿」

 そしてブルーサルの姿が消えていく。

 致命傷を負ったからではなく、マスカレイドを維持出来るだけの魔力が無くなったからだ。


『決着! 第二決闘の勝者はアルレシャです!』

「「「ーーーーー~~~~~!!」」」

 会場は再び歓声に包まれた。



----------



『第三決闘に参ります! 東よりバラニー! 西からコモスドール! 決闘……開始!!』

「「マスカレイド発動!!」」

 直ぐに次の決闘が始まる。


 羊歌(ひつじうた)(もえ)ことバラニーの仮面体は顔はティアラとベールで隠され、首から下は羊の毛で覆われた体を思わせるようなふっくらもこもことした衣装で統一されている。

 その手には羊の角をモチーフとした杖が握られていて、闘志のようなものは見られない。


 曲家(まがりや)(けん)ことコモスドールの仮面体は犬を思わせる緑色のヘルメットに、装甲板を幾つも付けた緑の全身タイツを身に着けている。

 右手には柄が短めの槍が握られ、左手にはコモスドールの全身が隠れる大きさの盾を持っており、丸っこい見た目の割にはやる気に満ち溢れている。


「行くっすよおおぉぉっ!!」

 コモスドールがバラニーへ向かって勢いよく突っ込んでいく。

 その勢いは、罠があっても気にしない、もし罠があれば踏み砕くと言わんばかりのものである。


「バラニーは~戦うの~好きじゃないんだよね~」

 対するバラニーは眠そうな声を出しつつもやる気らしいものを見せない。

 その場から動く気配もなく、それどころかコモスドールの事を認識しているかも怪しい。


「だから~『スリープ』」

「んがっ!?」

 が、バラニーの一言と共にコモスドールが転び、膝を着きながら立ち上がる。


「スキル……それも状態異常系っすか!? 学園配布デバイスでそんなのが登録できるなんて聞いたことないっすよ!?」

「相性が~格段に良ければ~解放されるみたいだよ~。そんなわけで~もう一度~『スリープ』」

 スキル『スリープ』。

 効果は単純明快で、狙った相手に魔力を飛ばし、命中した相手を強制的に眠らせると言うもの。

 ただ、その効果は長くてもほんの数秒程度であり、多くは一瞬だけ全身が脱力する程度である。


 だが、一対一の決闘で一瞬でも全身の力が抜ける事は非常に恐ろしいことである。

 何故ならば、その一瞬で距離を詰めて、致命的な一撃を加える事程度、マスカレイドを使用中ならばそう難しい事ではないからだ。


「『インパクトアブソーバー』っす!」

「むっ~……」

 だが、眠らされると分かっていれば、対処法が存在しない訳ではない。

 コモスドールは体を支えられるように盾を構えた上で、自分の全身に向けて『インパクトアブソーバー』を発動する。

 スキル『インパクトアブソーバー』は、衝撃吸収の名前の通り、発動してから一定時間、発動対象物が受ける衝撃を和らげると言うもの。

 そして、一度発動してしまえば、寝てしまっても効果は持続し続ける。


 よって、『スリープ』の効果で脱力したコモスドールを、バラニーが全力で殴りつけても、まるでダメージは与えられなかった。

 バラニーの武器がスキルか杖によるものの二択に賭けた、コモスドールの作戦勝ちである。


「これは~も~無理だね~バラニーは~降参します~」

「へっ?」

「「「……」」」

 とは言え、その後のバラニーの行動は誰にとっても想定外だった。

 バラニーは降参を宣言し、それは受理され、悠々と……まるで勝者のように舞台から去ってしまったのだから。


『け、決着です! 第三決闘の勝者はコモスドールです!!』

「か、勝ったっすぅ?」

 通常、決闘は例え勝ち目がなくとも、明確に決着がつくまで足掻くものである。

 それは仮面体が破壊されたところで、元の体には傷一つ付かないと言う保険があるから、だけではない。

 自分が把握していないだけで、相手の魔力量が既に限界に達しているかもしれない、デバイスに何かしらの不具合が起きてマスカレイドが解除されるかもしれない、ラッキーパンチが決まって普通に勝ててしまうかもしれない、そう言った偶然も起こりえるからである。

 バラニーはそれら全ての可能性を捨てて降参した。

 普通ならば、それは非難されて然るべきものである。

 けれど、そんな事は誰にもできなかった。

 勝者であるコモスドールにすら。


 と言うのも、去っていくバラニーの態度はあまりにも堂々としたものであり……まるで、元より、今日の舞台は自分が活躍する場所ではないと言っているかのようなものだったから。

 その悠然とした姿に、会場の空気は全て飲み込まれてしまっていた。


 決闘の勝者はコモスドールである。

 しかし、真の勝者が誰であったのかは……まるで分からなくなってしまうような決闘だった。



----------



『えー、はい。準備整いました。第四決闘参ります! 東はサダルスウド! 西からはレッドサカー! さあ、決闘……開始!!』

「「マスカレイド発動!!」」

 会場の空気が如何ともしがたいものになったままに第四決闘が始まる。


 瓶井(かめい)(さち)ことサダルスウドの仮面体は陶器のような質感を持つ全身鎧であり、その肩には鎖付きの巨大な水瓶のようなものが担がれている。

 そして、水瓶の先は既に相手へと向けられている。


 対する遠坂(とおさか)金次(きんじ)ことレッドサカーの仮面体は立派なトサカを持った鶏モチーフのヘルメットに赤い全身タイツ。

 その腕からは翼のように羽毛が生え、両足には鋭い鉤爪が生え揃っている。


「君とボクでは魔力量に差がある。悪いけど、速攻を決めさせてもらうよ」

「コケーコココ、コケーコ」

「!?」

 サダルスウドの水瓶から光が漏れた次の瞬間、水の塊が射出される。

 が、発射の直前、虚を突くようなレッドサカーの鳴き声に思わず反応してしまい、その狙いは僅かに逸れて、水の塊はレッドサカー横の床に着弾、爆発。

 周囲へ水煙をまき散らす。


「おいおい、この程度で気を紛らわせんなよ」

 そうして水煙が晴れた時、レッドサカーの姿は地上には無く、声は空中からした。

 そこに居たのは、両腕を緩やかに動かすことによって羽ばたき、地上に居るサダルスウドを見下ろすレッドサカー。


「いや待って、今のは幾らなんでも卑怯でしょ!」

「コケーコココ! この程度の話術で卑怯なんて決闘を舐めてんのか?」

「それは……そうだけどさ!」

 サダルスウドが再び水の塊を放つ。

 が、最初よりも距離があり、更にはサダルスウドの攻撃が打ち上げの状態になって速度が落ちている事もあって、レッドサカーはサダルスウドの攻撃を余裕をもって回避する。


「つうわけで、行くぞオラァ!!」

「っ!?」

 そして、攻撃が終わった直後の隙を突くようにレッドサカーが急降下。

 サダルスウドに足の鉤爪を向けながら、自然落下するよりもさらに速く落ちて、そのスピードを乗せた一撃をお見舞いする。


「くっ……」

「硬いな……ヒビ入れるのがやっとか」

 一撃を当てたレッドサカーはサダルスウドの体を蹴って、再び上空へと戻る。

 対するサダルスウドもヒビの入った体を庇いつつも、再び砲撃の体勢を取る。



 その後、レッドサカーは何度も急降下からの攻撃を繰り返し、対するサダルスウドは砲撃だけでなく鎧の硬さも生かすようなカウンターも織り交ぜて攻撃を試みる。


 レッドサカーはその飛行能力の代償として防御能力が極端に低く、一度でもクリーンヒットを貰えばどうなるかは分かったものでは無い。

 サダルスウドは強力な砲撃能力と堅い防御を持つものの、魔力量が足りないため、無駄な攻撃を繰り返せばそれだけで不利になっていく。


 両者の攻防はしばらく続き……。


「おらぁ!!」

「くぅ……」

 最終的にはサダルスウドの砲撃を紙一重で避けて肉薄したレッドサカーの鉤爪がサダルスウドの鎧を貫き、その空っぽの中身を衆人に晒すと共に消し去った。


『決着! 第四決闘の勝者はレッドサカーとなりました!!』

「「「ーーーーー~~~~~!!」」」

「コケー……きっつぅ……でも勝ったからヨシッ! コケーコココ!!」

 レッドサカーは勝者として、観客たちからの歓声を浴びつつ、自らの肉体を誇示するようなポーズを取った。



----------



 これにて第一決闘から第四決闘までは無事に終わった。

 そして、これから始まるのは本日のメインイベント。


 方や、今年の新入生、魔力量第二位にして、入学時の総合成績は主席。

 護国家の跡取り娘として、幼い頃から鍛え上げられ、その才能を示し続けて来た少女、護国(もりくに)(ともえ)


 方や、今年の新入生、魔力量第一位なれど、お披露目会でとんでもない仮面体を見せた男。

 その魔力量は突然変異としか称しようがなく、けれど戦える事は先日のゴールドバレットとの一件で既に明らかになっている存在、翠川(みどりかわ)鳴輝(なるき)


 二人の婚約がどうなるかと言う、表に出る事のない思惑も含んだ決闘が今、始まろうとしていた。

08/16誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 徳徒くんは野球強豪校志望が甲判定で変えざるをえなくなった感じかな?決闘者育成が主なら通常のスポーツにはそんなに力を入れてないでしょうし。それはそれとしてプロを目指すのは諦めきれないと。…
[一言] >アルレシャ 糸使いって、発想次第でかなり強くなるやつですね。 >ブルーサル モンキーじゃないんだ…… 決闘者としての覚悟を決められるかが今後の課題ですか。 >バラニー 能力的にソロ…
[一言] そうか、魔力切れっていうのが「普通は」負け要因になるんだな……「普通なら」
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