63:それぞれのデビュー戦 吉備津VS縁紅
「「マスカレイド発動!」」
第一決闘はゴールドバレットこと縁紅慶雄、サンコールこと吉備津陽呼の戦いとなった。
二人は決闘開始の合図とともにマスカレイドを発動。
縁紅……ゴールドバレットはナルとの決闘でも見せた仮面体に変身する。
その装備が放つ黄金の輝きに変化はないが、口元に浮かぶ笑みは以前ほどの上りは無く、落ち着いたものになっている。
そして、銃を持つ姿にも油断は無く、既に何時でも射撃できる体勢になっている。
対する吉備津……サンコールの仮面体も姿を現す。
その衣装は日本が帝国であった頃に用いられていた軍服によく似たものであり、帽子の下ではハチマキが結ばれ、その目は濃い色のサングラスによって隠されている。
腰にあるのはサーベルとも呼ばれるような軍刀であり、その背には銃剣が装着されたマスケット銃がある。
どちらの武器もまだ抜かれてはいない。
けれど、こちらもまた何時でも戦える態勢になっている。
「あっという間に終わるなよ! それはそれで困るんでな!! 『カーブショット』!!」
ゴールドバレットが動き出し、その手に握ったリボルバーの引き金を四度引く。
狙いを付けることなく放たれた黄金の弾丸は当然ながら見当違いの方向へと飛んで行く……ことは無く、スキル『カーブショット』の効果によって進路が修正され、サンコールを挟み込むかのように迫る。
「それは僕の台詞だ! 『クイックステップ』!」
対するサンコールは前に向かって勢いよく飛び出す。
その一歩はスキル『クイックステップ』によって大きく速度と距離を増しており、左右から迫るゴールドバレットの弾丸を回避する事に成功する。
「そこだ!」
「っ!?」
が、そうして攻撃を避けたサンコールを狙うように、ゴールドバレットは素早く銃口の向きを変え、引き金を二度引く。
サンコールは咄嗟に身を捩る事で回避を試みるが、放たれた黄金の弾丸はサンコールの肩と頬を裂き、その足を僅かに鈍らせる。
「『ロングエッジ』!」
「っ!? 『クイックステップ』!」
それでもゴールドバレットの懐に辿り着いたサンコールは居合の要領でサーベルを抜き打ちし、更にその刃を『ロングエッジ』で伸ばして、ゴールドバレットの体を切り裂かんとする。
しかし、この攻撃はゴールドバレットも予想済みだったのだろう。
ゴールドバレットは『クイックステップ』も使った素早いバックステップによって飛び退き、ベストの表面が僅かに切り裂かれる程度に被害を抑えることに成功した。
「あぶ……っ!?」
「逃がすか! くっ……」
が、そこでサンコールの攻撃は止まず、背中のマスケット銃を左手一本で素早く構えて発砲。
放たれた弾丸はゴールドバレットの脇腹に掠って、血を僅かに噴き出させる。
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「「……」」
一度目の攻防が終わったと判断した観客たちが歓声を上げる。
だが、舞台上の二人はその歓声に惑わされることなく、態勢を整え、今の攻防で得た情報を頭の中で反芻する。
ゴールドバレットが用いたのは『カーブショット』と『クイックステップ』。
サンコールが用いたのは『ロングエッジ』と『クイックステップ』。
今回のデビュー戦で各人が用いるデバイスは学園配布のデバイスであり、そのデバイスにセットできるスキルの数は二つで固定されている。
よって、二人がデバイスにセットしているスキルは、この二つで確定したと断言してもいい。
残るはそれぞれの仮面体の機能を利用した隠し玉の類であるが……これについても二人は問題ないと判断していた。
ゴールドバレットはサンコールの身に着けているものに、そう言う機能を有していると思えるような部分が無かったことから。
サンコールはナルとの決闘でゴールドバレットが用いたとっておきが、魔力の消費量と隙の大きさから早々に撃てるようなものでは無いと分かっていたからだ。
「どちらが先に有効打を当てられるかの戦い。と言う事になりそうかな。ゴールドバレット」
「そうなるだろうな。尤も、お前のサーベルとマスケット銃と俺のリボルバー。どっちの方が速度と取り回しの良さに優れているかなんて、誰の目にも明らかだがな。サンコール」
情報の反芻を終えた二人が次の攻撃の為の構えを取る。
ゴールドバレットは弾を込め直したリボルバーの銃口を、サンコールの胴体へと向けつつも、少しだけ腰を落としてあらゆる方向へと跳べるように備える。
サンコールは右手に軍刀、左手にマスケット銃を持つも、どちらの先も舞台の床へと向けて、自身の体は軽い前傾姿勢を取る。
「現に! ここで先手を取れるのは! 必ず俺だ!!」
ゴールドバレットがリボルバーの引き金を六度引き、黄金の弾丸が六発放たれる。
「先手は取れても、この距離で、そう簡単に当たるものか!」
空中を真っすぐ進む弾丸をサンコールが見ることは出来ないし、見てから反応することも出来ない。
だからサンコールはゴールドバレットの指の動きを見て、それに合わせるように左右へ跳び、弾丸を回避していく。
そうして六発全てを避け切って、ゴールドバレットがリロードのモーションに入ったところで……。
「そこっ!」
「っ!?」
マスケット銃の狙いを素早く付けて発射。
狙いはゴールドバレットの手元。
だが、リロードの瞬間を狙って来ることはゴールドバレット側も分かっていた事であったため、狙いを付けて引き金を引いた瞬間には、既にリボルバーを抱えたまま横へ跳び、転がって、弾丸の軌道から外れていた。
しかし、ここまではサンコールにとっても予想の範疇。
故に。
「『クイックステップ』! 『ロングエッジ』!」
『クイックステップ』によって瞬発力を増したサンコールがゴールドバレットへと迫る。
既に右手の軍刀は振られ始めており、『ロングエッジ』によって伸ばされた刃の軌道線上にゴールドバレットの体は正確に入っていた。
誰もがサンコールの攻撃が決まると思い……。
「『クイックステップ』!」
「な゛っ!?」
だからこそ、ゴールドバレットの『クイックステップ』による動きに目を見張った。
退くのではなく前へ、距離を詰めるどころか懐へ、リボルバーを握った手でそのままサンコールの腹を抉るように殴る、そんな動きに虚を突かれた。
そして、ゴールドバレットのリボルバーの中には既に弾丸が装填されていた。
「銃使いに近距離戦闘が出来ないと思ってんじゃねえぞ!!」
「!?」
連続した、けれどくぐもった発射音が何度も響く。
ゴールドバレットによるゼロ距離射撃の音であり、弾丸はサンコールの腹から胸の方へと突き抜けていく。
それは明らかに致命傷となる弾丸の軌道。
この時点でゴールドバレットの勝利は決まったと観客のほぼ全員が思い……。
「俺の勝ち……だ?」
「御免!」
「「「!?」」」
次の瞬間には、サンコールが自分に刃を向けて軍刀を勢いよく振るい、サンコールの刃が両者の体を切り裂いたことで、一部の観客から悲鳴が上がる。
「んなっ……負け意地の悪い……」
「ただ負けるよりは……いいだろう?」
だが、胴を半ばまで切り裂かれたゴールドバレット。
それに加えて腹から胸まで、一部の弾丸に至っては頭部を掠めてもいたサンコール。
両者では、傷の深さが明らかに違った。
故に、先に舞台上から姿を消したのはサンコールであった。
『決着! 第一決闘の勝者はゴールドバレットです!!』
「くそっ、締まらねぇ……」
そして、勝者の名前がコールされると同時に、ゴールドバレットの姿も消え去って。
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
会場は熱戦に対する歓声で沸き上がった。
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「え、オレ、この空気の中で決闘する事になるの!? こんな熱戦の後で!?」
「頑張れ」
「骨は拾ってやるっす」
「大トリよりはマシだろ?」
吉備津と縁紅の熱戦で徳徒が動揺したようだったので、俺たちは笑顔で送り出してやることにした。
大丈夫だ、何とかはなる。
さて、次は徳徒と大漁さんの決闘だ。




