62:デビュー戦開幕
いよいよデビュー戦開幕でございます。
「おー……凄い人の入りだな……」
「すっげ。引退したプロ野球の選手とか来てるじゃん」
「ワイでも知ってる芸能人の姿とかもあるな」
「いやそれよりも注目するべきは総理大臣っすよ。総理大臣。ウチは初めて生で見たっす!」
デビュー戦当日。
大ホールは満員御礼と言った様子になっていた。
ただ、警備体制にしろ、客の面子にしろ、全くもって普通ではない。
まず生徒の姿が殆どない。
何とか見つけたところだと、麻留田さん、生徒会長の二人の他、生徒会か風紀委員会に所属しているであろう生徒以外の姿はなかった。
代わりに、俺でも知っているような有名人や政治家、そう言った人たちと親しくしているのであろう質と品のいいスーツを着た壮年から老年の方々、彼らを警備する役目を持っているであろう仮面をつけた大人など、普段は絶対に学園内で見かけないような人々が集まっている。
うん、もしかしなくても、スーツを着た人たちは大企業の役員さんとかで、それを守るようにしている人たちはマスカレイドを使用した警備も出来るプロの決闘者などなのだろう。
もちろん、普通の大人っぽい人たちも居るが、その人たちだってきちんと身支度を整えていて、適当な服装な人はまるで居ない。
「しかしまあ、決闘の直前だってのに、俺たちを一緒の部屋にしてよかったのか?」
「いいんじゃないか? ほら、今回のデビュー戦は最初を除けば男女対抗戦みたいになっているし」
「まあ、女子たちは女子たちで仲良くしているみたいだしな」
「むしろこの部屋の問題は一戦目が終わった後じゃないっすかねぇ……。あ、吉備津と縁紅は地味にそれぞれ個室が用意されているっすね……。じゃあ、大丈夫っすね」
ちなみに、俺たちが今居るここ……控室と観客席を兼任している個室は、普通の観客席の上にあって、普通の観客席と舞台を見下ろすような位置にある。
そして、室内には俺、徳徒、遠坂、曲家の四人だけが居る状態だ。
で、吉備津と縁紅の二人は決闘が終わってもこの部屋には来ないらしい。
「え、なんで二人だけ、それぞれに個室なんだ? ワイら何かハブられた?」
「あー、既にスポンサーとかが付いていて、決闘が終わり次第、正式に契約を。と言うノリなのかもな」
「ああなるほど。吉備津と縁紅の二人ならそれも分かるな。護国さんは護国家を通さないといけないし、第一位はある意味もう囲われているし。だったら、第三位と第四位の二人をまず、って事か」
「大人たちは大変で、忙しないっすねぇ。じゃあ、ウチたちや女子組は今日の結果次第っすかね」
曲家の言葉を聞きつつ、俺は部屋に備え付けのウォーターサーバーから水を出して飲むと、軽い柔軟運動を始める。
徳徒は徳徒で野球ボールを手の中で回したり、軽く投げたりしている。
遠坂は腕を組んで、何かリズムを刻み始めている。
曲家も部屋に用意されている小分けパッケージのお菓子を摘まみ始める。
「「「……」」」
「ぽりぽり……暇っすねぇ」
「「「分かる」」」
うんまあ、この際ぶっちゃけよう。
暇なのだ。
話すべき事は話してしまったし、するべき準備だってもう終わっている。
後は決闘が始まるまでにモチベーションとテンションを高めていくだけなのだが……まだまだ時間があるので、暇なのだ。
そんな俺たちの姿を誰かに見られたら、緊張とかはしないのかと問われそうだが……。
「緊張しようにも、俺の決闘はラストだし。直前になればまた別の控室に行くらしいから、それまでは緊張の糸を張っていてもなぁ……」
「オレは元々こういう舞台に立つのを目指して頑張っていたわけだしな。だから対処法は考えていたし」
「と言うか、早く決闘が始まらないかな。ワイ、暇で暇で仕方がない」
「お偉いさんたちの挨拶とか、ウチにはどうでもいいっすからねぇ……」
お生憎さま、ここには緊張するような人間は居ないのだった。
「そう言えば翠川。オレの所にお前と護国さんが婚約するって話が流れて来たんだがマジ?」
と言うわけで、雑談タイムはまだまだ続く。
徳徒が俺に話を振って来たので、答えるとしよう。
「決闘の勝敗如何によってはそうなるな。具体的には俺が勝ったら婚約って取り決めになってる」
「んん? じゃあ、水園さんたちはどうなるんすか?」
「どうもないぞ。護国家はスズたちの事を認識し、受け入れた上で提案を持ってきたからな」
「マジか。そこまでやるんだな護国家。でもそれ、水園さんたちは受け入れているのか?」
「スズたちは……少なくとも表面上は受け入れているみたいだな。心の奥底でどう思っているかまでは分からない」
「なるほどなぁ。となると、翠川が決闘で勝ったら、そっち方面が原因で刃傷沙汰になる可能性も……」
「それだけは起こさせねえよ。そうならないように動く事ぐらいは出来るし、外野の干渉でそう言う事が起きないようにもしているしな。起きたとしても、マスカレイドを使った決闘までだ」
「流石っすね……」
「こう言うことは出来るんだな、翠川」
「はー、流石のイケメンと言うか、オレとの格の差を見せつけられた気分だ」
「ふふん。俺の顔が良いのは事実だからな。その顔によって起こされるトラブルへの対処法だって、ある程度は心得ている」
余談だが、今日のスズたちは戌亥寮の食堂にある、共同テレビで同級生及び先輩たちと観戦する予定である。
一応、スマホで直前までやり取りをする事も可能だが……まあ、スズたちなら、何かしらの緊急事態が無ければ電話をかけてくることは無いだろう。
『それでは只今より、2024年度デビュー戦を始めさせていただきます!』
「あ、始まった」
「ようやくか」
「待ちくたびれた」
「本当っすね」
それからしばらく経って、ようやく定刻となり、俺たちのデビュー戦が始まる事となった。
司会の生徒の言葉に始まり、お偉いさんの挨拶が挟まり……それから、フードと仮面をつけた、二人の生徒が舞台の上へと上がる。
『それでは本日の第一決闘! 東! ゴールドバレット! 西! サンコール! 決闘……開始!!』
「「マスカレイド発動!」」
舞台上の二人がマスカレイド発動の光に包まれて、決闘が始まった。
08/14誤字訂正




