61:護国巴と言う少女
「それではまずはイチから、護国巴さんの人となりについて話させてもらいます」
「分かった」
まずはイチから話が始まる。
直接決闘に関わるかは分からないが、護国さんがどういう人間であるのかと言う話だな。
「護国さんが護国家のご令嬢である事はナルさんも知っての通りです。そして彼女が護国家の跡継ぎである事もまた事実です」
「そうだな」
「護国さんには護国家の国を護ると言う使命に誇りを覚えており、そのために決闘に対して並々ならぬ関心を持つと同時に、幼少の頃から自宅敷地内で独自にマスカレイドの訓練を行うなどの修行をしてきたようです」
「なるほど。俺とは年季が違うと言うわけか」
なお、私有地でのマスカレイド使用は、それそのものは規制されていない。
なので、デバイスの保有、指導者の確保、十分な魔力量の確認と言った要素が揃っていたのなら、幼い頃から訓練をしていたと言うのは、そこまで不思議な話ではない。
「しかし、その割には両親との仲は良くなさそうだったな」
「それについては幾つか理由があるようでして。一番大きなものは……やはり複雑な血縁関係かと」
「あー……噂には聞いたことがある、アレか」
「はい、アレです。イチが把握している範囲でも、護国さんには片方の親とだけ血が繋がっている弟妹が複数人居ます。対して、護国さんと両親が一致している弟妹は居ません。そんな護国家の家系図は、政府の方針なので護国家だけの責任ではありませんが、一般的には爛れた関係と称されてもおかしくはないものだと思います」
聞くところによれば、当時の政府の方針としては、とにかく優秀な魔力量の人間を増やしたかったらしい。
それと護国家の国を護るためならば何でもしようと言う方針が合致。
結果として、護国さんには自分と半分だけ血が繋がる弟と妹が沢山出来る事になり……しかも、一般人である俺にまで噂と言う名の事実が聞こえてくるほどに、その事実が流布されてしまった。
となれば、責任など一切ないのだが、関係者である護国さんにもそういう目は向けられるだろうし、そうなれば原因である両親との仲も……まあ良くはならないだろう。
それでも、決闘の実力については認めるところであったため、何とか親子関係の破綻は免れていたようだが。
「話を戻しますが。学業成績は非常に優秀。品行も方正。弱きを助け、悪を許容しない。と言う事で、生徒教師双方から評判はかなり良いです。たぶんですが、今の決闘学園内では最も人気がある生徒の一人だと思われます」
「ふむふむ」
分かってはいたが、護国さんの頭は良いらしい。
となると、先述の幼少期からの訓練も合わせて考えるなら、平常な心理状態の護国さんが判断ミスの類をする可能性は考えない方が良さそうだな。
あ、人気はどうでもいいです。
それが戦闘能力に関わるならともかく、そうでないなら気にしても仕方が無いし。
「イチからはこんなところですね」
「なるほど分かった。ありがとうな」
その後、護国さんのちょっとした交友関係の話にも及んだところで、イチの話は終了となった。
「ンー。ゴホン。では、マリーからも、護国巴嬢の仮面体について、分かっている範囲でお話をさせていただきます」
「分かった」
そして、続けてマリーが出てくる。
ただし、長い説明になるためか、普段の特徴的なアクセントを消した状態で喋り始める。
「まずはこちらが護国巴嬢の仮面体ですね。見ての通り、当世具足とも呼ばれている金属鎧を全身に身に着け、手には総鋼鉄製と思われる薙刀を持っています」
「仮面体だと髪の毛の色が赤じゃなくて黒になっているんだな」
「イチたちの世代は魔力による髪と目の色の変化が起こり始めた世代なので、理解が浅かった幼少期に護国さんは髪の色に起因するトラブルがあったと聞いています。なので恐らくはその影響かと」
「なるほど。マスカレイド前後どっちも綺麗で、手入れも行き届いている良い髪なんだが、話題には出さない方がいい話って奴か」
まず見せたのは授業中に撮影されたものっぽい護国さんの写真。
マリーの説明通りに全身鎧を身に着け、薙刀を手に持っており、見るからに攻守が整っている。
気になったのは髪の毛の色がマスカレイド前は奇麗な赤だったのに、マスカレイド後は親世代なら普通の黒になっている点。
ただこれは、本人のコンプレックスなどになっている可能性が高そうなので、安易に触れない方が良さそうだ。
「話を戻します。護国巴嬢の仮面体ですが、授業で確認できた限りでは極めてスタンダードで、特殊な機能の類を持たない仮面体と思われます」
「それっていい事……なんだよな?」
「基本的には。ある種の万能型と言う奴ですね。どんな相手にもある程度の対応が可能で、様々な決闘に臨まなければいけない決闘者としては望ましい性質です。ナルを除けば同学年トップの魔力量であることも合わせれば、完全に対応不可な相手は存在せず、特化型相手ならその弱点を突くことで、汎用型相手なら技量と魔力量を押し付けて勝てますから」
「ふむふむ」
苦手とする相手が居ない万能の仮面体、か。
「とは言え、ナル君以外に対しては、と言う話だけどね」
「そうですネ。これは一般論でス。ナルは一般ではありませんかラ」
「護国さんは今頃は自分の仮面体、スキル、技量を組み合わせれば、ナルさんの守りを突破できるかどうか、不安で仕方がないと思います」
「最大火力が通らなかった時を考えたらラ、悪夢以外の何ものでもありませんからネェ……」
「ナル君って防御と持久に特化しているから、特化部分を超えられないとワンチャンもないしね」
「お、おう」
なお、俺に攻撃が通じるかどうかは分からないらしい。
ただ、出来るだけ火力を出せるようなスキルの組み合わせにしてくることはほぼ間違いないので、油断してはいけない、と。
逆に言えば、護国さんの最大火力が通じなかったら……その時点で半分くらい決闘の勝敗は決まったもののようだ。
うん、我ながら酷いな。
「とまあ、此処までが護国さんについての情報だね。さてナル君。スキルについてはどうしようか? 片方は事故防止のために決定しているけど」
「そうですね。学園、警察、政府、その他諸々に確認をして、決闘中ならばあのスキルを付けておけば、犯罪にならない事は分かっていますので、片方はアレにしておくべきでしょう」
「と言うよリ、アレについてはもう永続固定でいいと思いますヨ。ナルのスキルの中ではとびっきり有用かつ燃費も悪くないですかラ」
「アッハイ」
さて、此処からはスキルをどうするかの話だが……。
とりあえず『P・Un白光』は確定らしい。
うんまあ、確かに他に有用でありつつも燃費などに問題のないスキルも無かったし、これは確定でいいか。
「それでナル君。もう一つの枠は?」
で、スキルの枠はもう一つあるわけだが……そうだな、そうしておくか。
「……と言う事にしておこうと思う」
「分かった。じゃあ、そうしておこうか」
「分かりましタ。まア、妥当ですネ」
「なるほど。いいと思います」
と言うわけで、スズたちの了解も得た上で決定。
まあ、一番勝率が高いのがこれだろう。
「ですがそうなると、残りの調整の時間が勿体ないですね」
「あー、スズたちも調整が必要だろ? だから、それの手伝いを俺はすればいいと思うんだが」
「うーン。そうですネ。それが一番いいと思いまス。ナルの特訓にもなるでしょうしネ」
「……。そうだね。そうしようか。ただ、無茶やとっておきは無しにしようね。何処から情報が洩れるか分からないし」
その後、俺は主にイチを相手とした組手、先輩たちの決闘の録画映像の視聴、主に制服のディテール上げと言う仮面体の細かい調整をする事によって調整の時間を過ごした。
そうして、デビュー戦の日がやって来たのだった。




