60:仮面体の調整とは
「それじゃあ改めて仮面体の調整について話をしていこうか。ナル君」
「ああ、よろしく頼む」
翌日の午後の授業。
いつもの面々で教室を借りて、仮面体の調整を行う事になった。
「と言っても、俺の記憶が確かなら、俺の仮面体は外部からの干渉による調整は著しく難しいって話だったよな」
「うんそうだね。だから、これから話すのは一般論に近い話になるね」
まずは座学部分と言うか、どうして調整をするのかについてだな。
「仮面体の調整は大まかに分けると長期的な調整と短期的な調整の二種類に分けられるの。長期的な調整と言うのは……体を動かすに当たって邪魔だと判断した角や突起を削ったり、縮めたりするもの。剣や銃と言った追加装備の構造を仮面体の一部としてインストールして使えるようにするもの。仮面体の機能を改良して燃費や威力を高めるもの。そう言った、根っこの部分を弄って、決闘で戦いやすくしたり、強くなったりするものだね」
「ふむふむなるほど。つまり、俺だと自力でやらないといけない部分か」
「うんそうだね。ナル君だと、この長期的調整は自力でやってもらう事になるね。と言ってもナル君の性格と仮面体からして、新しい衣装を取り込む事くらいしかやらない気もするけど」
「あー、それは確かにそうかもな」
仮面体の調整。
その内の長期的調整とやらについては、俺は自分の力でやらないといけない。
しかし、衣装の取り込みに関しては……個人的な感覚としては、気に入った衣装ならそこまで難しくないように思えるので、問題は無いだろう。
そして、体の調整と機能の調整は、弄る気が無いと弄るものが無い、なので考えなくてもいいだろう。
ただ、これは俺に限った話。
俺以外の面々は普通に仮面体を弄れるはずだ。
なので、例えばだが、縁紅のリボルバーをアサルトライフルやスナイパーライフルに変えるような調整も、不可能ではない事だろう。
となれば、護国さんの仮面体も、お披露目の時とは少し違うものになっている可能性がある事になる。
うん、事前情報を鵜呑みにするな的な話になって来たな。
「もう一つの短期的な調整は主にスキルについての話になるね」
「主に?」
「通常の決闘なら、デバイスも調整の対象だけど、今回のデビュー戦はデバイスは固定だから。今回はスキルだけ考えればいいの。とは言え、ナル君については……」
「俺のスキル……パッシブスキルだけだったな。しかも、結局いい感じのパッシブスキルは見つからなかった」
「だね。だから一般論として話すけど、普通なら相手の能力に合わせてスキルを選択するの。守りが堅い相手なら火力増強スキルを、素早い相手なら必中化スキルを、強力な攻撃への対処として回避スキルを。と言う具合にね」
「なるほど」
短期的な調整は主にスキルの入れ替えでやるらしい。
スキルは事前にどんなスキルであるのかを試しておけば、機械一つで簡単にその時必要なものを取り入れる事が出来るので、相手に合わせて入れ替える事も簡単に出来るそうだ。
が、俺の場合は一般的に使い勝手が悪いと言われるパッシブスキルしか見当たらなかったし、試してみてもそれは変わらなかった。
なので、どうしたものかと今もなお頭を悩ませているものである。
「まあ、ナル君のスキルについては後で考えるとして。ナル君の相手が使ってくるスキルについては、タイマンなら深く考えなくても大丈夫だよ。相手が誰でもまず変わらない」
「と言うと?」
「ナル君の仮面体の防御能力の高さは縁紅との決闘でもう分かってる。それが並の仮面体では比較にもならないほどに強固である事も周知されている。魔力切れ狙いの長期戦では勝ち目が無いことも判明している。となると、ナル君の決闘相手たちはどうやってナル君に攻撃を通すかの方向で考えるしかない。つまり、火力そのものになるスキルか、火力を支援するスキルを選ぶことになる。こう言う事だね」
「おお、なるほど」
なるほど、どうやら、護国さんが持ち込んでくるスキルについてはほぼ確定しているようだ。
とにかく俺の防御を貫き、可能なら一撃でマスカレイドを解除出来るような威力を持った攻撃を出せるようになるスキル構成。
これになるらしい。
「防御や回避に関わるようなスキルを持ち込む可能性は無いのか?」
「ナル君みたいに使えるスキルに偏りがあるなら、持ち込む可能性はあるかな。けど、基本的にはないと断言していいよ。こう言っては何だけど、ナル君の攻撃ってスキルを使ってまで対処するようなものじゃない思われているだろうし」
「あー。まあ、そうだよな……銃や剣と比べたらな……殴る蹴るだけだしな……」
また、俺の仮面体の能力的にも、攻撃優先に偏る理由があるらしい。
うん、よく考えてみたら、俺の仮面体を相手するのに、必要以上の防御や素早さがあっても、大して役には立たない。
「後、ナル君ほどに使えるスキルに偏りがある事は非常に稀だから、特定のスキルを相手は持っていないだなんて期待はしちゃ駄目。これははっきり言っておくね」
「あ、はい」
うんそうだな。
敵に手札が無いことを最初から期待するのは間違ってる。
決闘中にデバイスに搭載できるスキルの数と実際に使ったスキルから情報を確定させて、持っていないと判断するのはありなのだろうけど。
「さて、此処までは仮面体の調整を何で行うのか、一般的にどんな調整を行われるかについてだったね。じゃあここからは、デビュー戦で戦う事になる護国さんに合わせて、実際に調整をしようか」
「分かった」
「と言うわけで、まずは情報からだね。イチ、マリー」
「はい」
「分かりましタ」
さて、此処からは実践編だな。
まずは護国さんについて分かっている情報のおさらいからだ。




