56:国は国の為に強いる
本日は三話更新となります。
こちらは二話目です。
「結婚させるために強制力を持つ依頼って……そんな事が許されるのか?」
「マリー、イチ」
俺の疑問にスズはマリーとイチの二人を呼ぶ。
「二人に聞くけれど、ナル君と護国さんが結婚をするのならば、ナル君の事を護国家が全面的にバックアップします。こう言った時に国はどう動くと思う?」
「マリーが想像する限りでハ……そこまで言ったなラ、全面協力をすると思いまス。以前にも話をした気がしますガ、優秀な決闘者は何処の国も喉から手が出るほどに欲しいはずですかラ」
「イチも同意します。そして、そうなったのなら、むしろ決闘を積極的に利用してくると思います。決闘で決まった事を覆すことは誰にも出来ませんので」
「えぇ……」
どうやらあり得てしまうらしい。
いやでも、それで俺が国に悪感情を抱いたり、国外脱出とかされたりしてしまったら、どうするつもりなのだろうか?
「ナル君が今考えてそうな事についての答えについては割と単純なんだよ。ナル君、親しくなった相手は見捨てられないでしょ?」
「うっ……」
「それを抜きにしても、国のやる事だから、悪感情を向けるのにちょうどいい囮を用意するとか、渡す情報を調整するとか、ナル君が自発的に国内に留めるように仕向ける手段は色々とあるんだよね。まあ、そこまでされたら、私はあらゆる手段を費やして、ナル君に不快な思いをさせた連中を根っこから排除する方向で動くけど」
どうやら何とかなってしまうらしい、色んな意味で。
「そう言うわけで話を戻すのだけれど。護国さん。護国さんが本気でナル君と結婚をしたくないのなら、護国さん自身の手で何とかするしかないと思う。流石に学生の身分かつ個人でしかない私たちと、大人の集団である護国家と国では採れる手段に差があり過ぎるから」
「その……ようですね」
「ただナル君に負ける気はないみたいだし、私もナル君が負けるとは思っていない。だからこれだけは言わせてもらうね」
スズが護国さんの正面に立った上で口を開く。
「ナル君の為に動く事が出来るのであれば、私たちは並び立つ事が出来る」
そしてスズはまるで握手を求めるかのように告げた。
「水園さんは……翠川さんの妻と言う座には興味が無いのですか? どうでもいいのですか?」
「興味はあるし、どうでもよくはないよ。けれど、ナル君の魔力量が甲判定だと分かった時点で、この程度は想定の範囲内。誰が一番だなんて下らない事で争う気はもう無いの。重要なのは、ナル君とナル君が守りたいと思ったものが守れることであり、貴方がその一線を共有できる仲間であるかどうか。此処なの」
「……」
「ナル君の気持ちについては、ついさっきナル君が言った通り。だから私から言うことは無い。イチとマリーの二人については、もうこの考えで納得しあっている。だから後は、護国さんの気持ち次第。護国さんの気持ちが同じ方向を向いてくれるのなら、周囲なんてどうとでもなるの」
スズの言葉に護国さんが黙り、目を瞑る。
「まず初めに言っておきます。私は決闘に負ける気はありません。翠川さんを打ち倒し、私の意志を貫きます」
「うんそうだね」
「ですが、負けた時には貴方の同志になります。それがきっと、この理不尽に打ち勝つ一番の手段になると思いますので」
「うん、分かった」
護国さんはそう宣言すると、席を立つ。
「今日は大変失礼いたしました。それでは私はこれで」
そう言うと護国さんは戌亥寮から去っていった。
ただ、最初にあったピリつくような空気は消えていたので……まあ、上手くいったのか?
いやしかし……。
「これ、見方によっては俺じゃなくてスズが護国さんに告白したみたいになってないか? こう、周囲の空気的にも」
「え゛?」
「厳密には告白と言うよりは勧誘でしたが。ナルさんは終始、護国さんの意思を尊重するだけだったのもあって、確かにそう言う雰囲気はあると思います」
「え、えっ!?」
「んーまア、仲が悪いよりはいい方が良いですよネ。でもこの場で一番情熱的に語っていたのがスズなもの事実だと思いまス」
「ええっ……私はナル君一筋だよ……」
食堂の空気は何とも言えない感じになっていた。
いや、この空気どうしたらいいんだ?
「でもスズさん。スズさんなら、護国さんがナルさんの正式な妻になった時のメリットデメリットも、妻にする際の契約で何処に注意を払うべきとかも分かっていますよね?」
「それはまあ、分かっているけど。ぶっちゃけ、護国さんがナル君の正式な奥さん……本妻になってくれれば、私はかなり動きやすくなりそうなんだよね……」
「現状でこれだけ動いているスズが護国家のバックアップを受けて動くとカ、敵対者たちは泣いて詫びを入れそうですネ。ハハハハハ」
そんな事を俺が思っている間にも空気はさらに変わっていく。
こう、なんかヤバいのが居る的な雰囲気に。
いや待て、スズ、お前何をやったんだ?
まだ入学してから一月も経っていないのに、こんな雰囲気が醸し出されるなんて、明らかに普通じゃないと思うんだが?
「あ、ちなみにだけどナル君」
「なんだ?」
「もしも護国さんと結婚する事になっても、在学中の不純異性交遊はNGだからね?」
「言われなくても分かってるから。後、話がどう転んでもスズたちを蔑ろにするつもりもないからな」
「ナル君……」
「ありがとうございます」
「嬉しい言葉ですネ」
そう言う事がダメなのは分かっているので、安心してもらいたい。
「しかし、折角のデビュー戦なのに妙な事になりそうだな……」
「そうだね。でもこれは優秀な決闘者の宿命だと思うよ。だから、出来る限り逆利用して、利益を得て、安易に利用できるような存在じゃないんだぞと示した方が、今後のナル君の為になるんじゃないかな」
「かもな。俺がやる事に大きな変わりはないか」
「うん、頑張ってね、ナル君。私たちに協力できることがあれば、協力するから」
デビュー戦まで後一週間と少し。
どうやら、単純に自分のマスカレイドがどんなものなのかを決闘しつつ示すだけの場にならない事は確定したようだ。
スズ「貴方も、(ナル君の)妻にならない?」




