53:ナルに合うデバイス探し
「では軽い説明を。先述の通り、そしてお客様もご存じの通り、デバイスの違いによって仮面体の見た目、身体能力、機能、スキルなど、様々な部分に影響が出ます。その影響は銅を鋼にするようなものではありませんが、質の悪い鋼を高品質の鋼にするぐらいには違いが出るため、決闘の勝敗に影響を与えるには十分な物でしょう」
店員さんが機械を操作する。
すると、結界内にホログラムで、何も身に着けていない状態……つまりは裸の俺の仮面体が出現した。
うん、ホログラムの解像度不足でちょっと劣化しているようにも見えるが、それでも十分に美しいな。
「では、具体例を……おや?」
「あー、外見に影響するような変更は受け付けないと思います。俺の仮面体はそう言うものなので」
「うんそうだね。ナル君が自分の外見が変わる事を許すわけがないよね」
「……。そうですか」
で、店員さんが機械を操作したが……ホログラムに変化は生じない。
どうやら、外見変化だったために、俺の仮面体が拒否してしまったようだ。
すると説明の為なのか、俺の隣に全身タイツにフルフェイスヘルメットの仮面体が現れる。
タイツの下の筋肉の張り具合も中々で、誰の仮面体かは分からないが、中々に洗練された仮面体だ。
「こちらの仮面体は説明用のダミーとなりますが、学園配布デバイスを使っている扱いとなります。そして、同じ仮面体をアメリカの有名企業のデバイスを使って出現させると、このようになります」
店員さんが機械を動かした。
と同時に、全身タイツの仮面体が持つ筋肉の張り具合が一気に増し、筋骨隆々と言う他ない姿になる。
背も少しだけ高くなったように見える。
身体能力に関しても、スピードを犠牲にした代わりに、パワーを増したような形になるようだ。
また、スキルリストについても、同様の傾向が見られる。
「でもナル君については変化無し、か」
「ナルさんの魔力量が多すぎて制御しきれない、とかでしょうか」
「ナルの魔力性質の問題もあるでしょうネ。こう言うところにも影響が出るわけですカ」
が、俺の仮面体についてはまるで変化無しだ。
身体能力は一切の変化無しで、スキルリストも多少減る事はあっても増えることは無い。
「傾向を見る限り、外見に影響を与えるものは全滅ですね。また、攻撃能力を上げるようなスキルについても相性が良くないようです。この分ですと、欠点を補うようなデバイスは合わないと考えた方がいいでしょう」
「なるほど」
うん、流石は俺の仮面体だ。
実に強固な仮面体だ。
「射出系はもっと駄目ですね。アメリカのライフルメーカーに端を発する有名企業のデバイスに至っては仮面体がマトモに出現させられないレベルです。似たような各国の企業も……良くないですね。中には安定性が売りのものもあったのですが」
「ふむふむ」
射出がダメと言うのも分かる。
俺の魔力は極めて粘着質らしいからな。
普通のデバイスでは、魔力を切り離して加工するような事が出来ないのだろう。
「相性がいいのは……維持に特化したものや、繊細な操作がしやすいものでしょうか。特に後者については他のデバイスでは上がる気配もなかった身体能力が僅かながらに上昇していますね。スキルリストにも僅かながらに変化が見られるようです」
「へー……っ!?」
「「「!?」」」
と、ここで相性がいいデバイスが見つかったようだ。
発見の驚きは俺よりもスズたちの方が大きかったようで、店員さんに詰め寄るように近づいているし、何かの話をしている。
なので、その間やる事が無くなった俺は、性能上昇が見られたらしいデバイスを適用した場合の仮面体を見る。
「ふうむ」
見た目としては……既に解像度の限界に達しているのか、変化は見られない。
これは実際に使ってみないと分からないのだろう。
身体能力については、繊細な操作が得意なものとやらで、僅かではあるが確かに上がっている。
えーと、モデルとしては……決闘に関わるような企業が作った製品じゃないな、これ。
化粧品とか、衣料品とか、そっち方面のメーカーが共同開発した、日常生活で常に身に着けていても違和感がないデバイスと言うのを目指して開発されたような奴だ。
うんまあ、ある意味では俺らしいようにも思えるな。
また、維持が得意なメーカーについても、身体能力やスキルリストには変わりないが、燃費の向上は見られるようで、こちらはこちらで使う価値は十分にありそうだ。
理想形としては……これらのメーカーが共同で開発して、維持と繊細な魔力操作に特化したモデルとかになるのだろうか。
いやうん、幾らスポンサーがつくにしても、それはちょっと無理があるだろ。
それではオーダーメイドを通り越して、新規開発だ。
他のデバイスたちを見る限り、一般的な決闘者が使うデバイスは攻撃と回避に重きを置いているように見えて、それらが俺に合わない以上、そうでないモデルを使う必要はある。
だがそれでオーダーメイドならまだしも、新規開発してくださいってのは……幾らなんでもなぁ。
他の決闘者やマスカレイドを使う現場の人間のために技術を流用できるならまだ分からないかもしれないが、そうでないなら、流石に無理と無駄が過ぎると言うものだ。
「お客様。こちら、相性がいいと思われるデバイスのデータとカタログとなります。ご時間がありましたら、御覧くださいませ」
「ありがとうございます」
とりあえずデータは受け取った。
スズたちは店員さんとの話し合いは終わったのか、今度は三人で何かを話している。
うーん、状況から考えて、どの企業が良いか篩に掛けている最中だよな、たぶん。
となればだ。
「スズ、イチ、マリー。最初の篩がけは頼んだ。でも最後は俺が自分で決めるから、そこは相談に留める程度で頼む」
「うん、分かったよ、ナル君」
任せてしまう方がいいな。
俺に何十何百とある企業のデータを扱う技量はない。
その後も少しスズたちと話をして、最終的な話はデビュー戦が終わってから改めてという事になった。
まだデビュー戦で何があるか分からないからな。
そして、ショッピングモールを後にして戌亥寮へと帰ろうとしたのだが……。
その途上で、デビュー戦に関わる一つの出来事が起きた。
08/07誤字訂正
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