52:ナルは持ちかけられる側
「こちらに学園指定デバイスを接続していただければ、本店舗で取り扱っているデバイスを用いてマスカレイドをした際にどのような仮面体になるのかを外見、身体能力、機能、スキルに至るまで確認する事が可能となっております」
「それはまた便利ですね」
「ちなみに同様の事は校舎や寮でも出来まス。しかシ、ここなら日頃からデバイスを扱っている方の助力を受けられるわけですかラ、どちらのが良いかは明白と言う奴ですネ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
俺たちがやってきた個室には、大型の機械に加えて、最近はもう見慣れた結界装置もあった。
それだけではなくホログラムや大型のモニターも用意されていて、授業でデバイスを扱う時に行く部屋よりも施設は充実しているかもしれない。
「スズ」
「心配しなくてもセキュリティと口の堅さについては大丈夫だよ。ここの店員さんは公平公正にお客さんをサポートしてくれるから」
「いやそっちは学園のショッピングモールにある時点で心配してない。問題は俺の仮面体の方」
「あ、あー……」
「ご心配なさらなくても、当店では調整の過程で表に出せない状態になった仮面体を見ることもございますので、どのような仮面体であろうと問題はありません。また、お客様の仮面体はお披露目会で拝見していますので、問題はないと言わせていただきます」
「だってさ、ナル君」
「じゃあ。大丈夫か」
扉が閉められて密室になる。
さて、問題が無いと言うのなら、デバイスが変わればどれだけ仮面体が変わるかも見せてもらうとしよう。
と言うわけで、俺は店員さんにデバイスを渡して、準備をしてもらう。
「しかし、此処までスムーズという事は、今日の本目的はこれだったな。スズ」
「あはは、バレちゃった?」
「流石にな。俺の為だって事は分かるし、俺も気になるから構わないけど。けれど、デビュー戦後に購入するにしても、良いデバイスの値段って基本的にバカ高いんだよな……俺が貰っているお金で足りるか?」
で、準備をしている間は雑談をする事になるのだが……そこで俺の発言を聞いたスズたちが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
あれ? 俺は何か変な事を言ったか?
デバイスショップに来たという事は、自分の金でデバイスを買う予定だと思っていたんだが。
今日来たのは、デビュー戦前で混雑してないとか、品揃えが充実しているだとか、そう言うのを考えての事だと思っていたんだが。
「ナル君、ナル君。ナル君の魔力量は?」
「魔力量は……確か3600ちょっと……」
「ナルさん、デビュー戦の相手はどなたでしたか?」
「現状だと護国巴さん」
「ナルは先日誰と戦いましたか? ついでにその人物の魔力量の順位は何位でしたか?」
「縁紅慶雄と戦って、魔力量は……今年の第三位だったはず」
俺は何故か今、スズたちに詰問されている。
「優れた決闘者は国防の要であるし、企業に雇われることもあるって聞いているよね?」
「うんまあ、そうだな」
「それほどの重要なポジションにいる方が使う道具が一般のそれと同じだと思いますか?」
「あー、いわゆるプロ仕様って奴か? まあ、一般人のそれとは違うよな」
「ナルー。ナルの魔力量はそのプロと比較しテ、どっちのが多いですカー?」
「俺の方が……多いですね」
ただその口調はいやに柔らかく、まるで何かを諭すような口ぶりである。
そして、此処まで言われれば、幾ら俺でも察しない訳にはいかない。
「もしかしなくても、俺はプロ仕様を使わないといけない?」
「使わないといけないと言うか、むしろ企業が使ってくれと持ち掛けてくるレベルなんだよ。ナル君」
「手が空いていなくても無理やりに手を空けて声をかけにくるレベルですよ。ナルさん」
「現時点でナルの事を把握していないデバイス企業とカ、それだけで株価大暴落ものですヨ。ナル」
「あ、はい。すみませんでした」
なんだろう、魔力量甲判定、魔力量第一位と言う座を甘く見ていた気がする。
そうか、企業の方がウチのデバイスを使って欲しいと声をかけてくるレベルなのか……なんだが、初めて自分のとんでもなさを実感させられた気がするな。
「と言う事は、今やっているのは、その下準備みたいなものか?」
「そうなるね。私の知る限りだと、デバイスって結構作っている企業ごとの特色が出るみたいなの。で、その特色って言うのは、仮にオーダーメイドだとしても急に変わるようなものじゃないし、無理やり変えると不具合が起こるようなものでもあるの。だから、先に此処で特色を調べて、ナル君が気に入るかどうかって言う篩にかけちゃおうかなって」
「篩にかけないと捌き切れない量の企業が名乗りを上げかねないと言う予想も、イチは立てています」
「ナルが知らないだけデ、裏では既に色々と動いているという事ですネ。しかモ、ナルの場合、これまでに付き合いが深い会社とかも無いのデ、なおさらでス」
「あー、なるほど……」
しかも、声をかけてくる企業は両手の指では足りない量になるかもしれない、と。
いや流石にそれは大言が過ぎないだろうか?
俺は今年の魔力量第一位と言うだけで、実績も何もない、ただの新入生のはずなんだが。
いやでも、スズたちのが正しそうな感覚はあるんだよな。
ああ、後そうだ。
「スズ、イチ、マリー、ありがとうな。俺一人じゃ、絶対にその事態には対応できなかった」
俺はスズたちに対して、今やっている事についてのお礼を言う。
「いえ、それほどの事ではありません」
「マリーはナルをサポートすると決めましたからネ。このぐらいはノープログレムって奴でス」
「ナル君……ナル君にそう言ってもらえただけで私は……。うん、私頑張る。ナル君が決闘に集中できるように、余計な問題を持ち込んでくる有象無象はバッタバタとなぎ倒して……」
「スズ。合法的に、穏やかに、将来の事も考えて、スズが嫌われないように。な?」
「それはもちろんだよ、ナル君。大丈夫、証拠なんて残さないから」
言った結果としてスズがなんだか暴走しそうな気配を漂わせているのだが、これは大丈夫なのだろうか?
いや、大丈夫なはず。
大丈夫だと信じている、うん。
「お客様。データの同期と適合が完了いたしました」
「あ、はい。ありがとうございます」
と、どうやら準備が整ったらしい。
なので俺たちは、各企業が製造したデバイスを用いたら、俺の仮面体がどうなるかを見ていく事とした。




