51:マスカレイドデバイスショップ
「うん、美味しかったな。スズ、イチ、マリー」
「本当だね、ナル君」
「イチたちの分まで奢っていただきありがとうございます」
「とても楽しめましタ! ありがとうございまス!」
土曜日。
俺たちはショッピングモールへとやって来ていた。
目的はスキル関係でスズが色々とやってくれたお礼として、食事を奢るためである。
また、水曜日以降はイチとマリーも手伝ってくれたので、二人にも奢った。
で、その用事はちょうど今終わったところである。
後はちょっと雑談をして戌亥寮へ帰るところだろうか。
「そう言えば、結局この一週間、スズたちは俺のスキルのチェックに携わり続けてくれたわけだが、三人のスキルの確認は大丈夫なのか?」
と言うわけで、俺は三人に雑談の話題として振ってみる。
「私は問題ないよナル君。私の仮面体の機能とも相性がいいスキルはだいぶ見繕えて来てるし、プリセットも何種類か準備できた。この感じだと後は直前になってデビュー戦の相手が確定したらかな。どうしても相性も考えないといけないから」
「そうか」
まず、スズは問題ないらしい。
しかし、プリセットという事は、相性のいい組み合わせが幾つかあるという事だろうか。
俺と違って応用性が高そうで羨ましい。
「イチも問題ありません。イチの場合、戦闘スタイルは家の都合で既に確立しているのですが、そのスタイルに合わせるよう組めばいいだけだったので、簡単でした。調整はスズさんと同じで相手が確定したらですね」
「ふむふむ」
イチも問題なしと。
けれど、家の都合で戦闘のスタイルが既に確定しているのか。
チラホラとそんな気配はあったような気がするので不思議な事ではないが、やっぱりイチの家はかなりしっかりとしたところであるらしい。
何時かは詳しく話を聞きたいところであるけれど……今はそんな時間は無いか。
「マリーもノープログレムですヨ。たダ、本音を言えば準備時間が足りないんですよネ。デビュー戦で確実に勝ちたいのなラ、もう一月くらいは欲しいところですヨ」
「ああ、アレか」
「えエ、アレでス。まア、今回はアレ抜きで頑張るべきですかネ。ソロですシ」
マリーも大丈夫と。
ただ、マリーのとっておき……仮面体の機能なのか、マリーの魔力の性質由来なのかは知らないが、俺も見たアレの準備は整わないらしい。
とは言え、アレはマリーにとって秘策であるだろうし、使わなくても勝てるようにした方がマリーにとってはいい事なのだろう。
「と、あれ? スズ。どっちへ行くんだ? そっちはマスカレイドのデバイスが売っているエリアみたいだが」
と、ここでショッピングモールの外に出る方向ではない方へとスズが足を進め、イチとマリーもそれに便乗するように足を向ける。
その方向にあるのは……マスカレイドのデバイスが売っている場所だな。
「うん、分かってる。ただ今後を考えると一度は見に行くべきかなって」
「それは……まあ、そうだろうな。お世話になるのはデビュー戦が終えた後だろうけど」
今回のデビュー戦では、マスカレイド発動に使用するデバイスは学園配布のものに固定されている。
これは生徒個人の技量を見るためには、デバイスの差が無い方が適切だからだ。
そして、このような制限が成立するほどにデバイスの差と言うものは存在している。
なので、デバイスを一度は見に行った方がいいと言うスズの言葉は分かる。
えーと、時刻的には、さっき昼食を食べたばかりなぐらいだから、何も問題ないな。
じゃあ、スズたちが行きたがっているのなら行こう。
と言うわけで、俺もデバイス専門店の方へと足を向ける。
「さてナルさん。デバイスと一口に言っても、その実態は様々です」
「みたいだな……」
で、足を踏み込んですぐに圧倒された。
店に並んでいるのは、俺でも知っているような有名家電メーカーが作ったものから、何処の国のものなのかも分からないものまであり、それらが棚や机に陳列されて、照明の光を返している。
形状としては、俺が今使っている学園配布デバイスのような顔の上半分を隠すような仮面のものが一番オーソドックスではあるものの、サングラスのように見えるもの、眼鏡のように見えるもの、風邪をひいた時に付けるようなもの、顔の左右半分だけ隠すようなもの、何処かの部族が付けていそうな大きなもの、ガスマスクに見えると言うかそのものなもの等々……顔に付けるものなら何でもありだと言わんばかりに、あらゆる形で並んでいる。
「これなどは非常に珍しい形ですね。顔ではなく耳へ付けるものです。その気になれば、バッグなどに付けておくのも有りかもしれません」
「そんな形もありなのか。デバイス……」
「ありなんですヨ。女神のおかげで悪用がまずされないからこそのファッション性ですネ」
「うーん、凄いね。私とナル君の地元だと、こんなのは絶対になかった」
だけではないらしい。
イチが見せてきたのは、耳に付けるタイプのデバイスだった。
イヤーカフスのしっかりとした部分で耳に留めて、そことそこから下がっている幾つもの管状の装飾の中にデバイスとしての機能を詰め込んで、なんとかマスカレイドのデバイスとして使えるように仕上げた最新式のものであるらしい。
性能については残念ながら最低限で、スキルは一つしか詰めず、仮面体の性能もだいぶ落ちるようだし、そもそも合うかどうかが相性になってしまうようだが、一見してデバイスだと分からないからこそ護身用として用いるにはちょうど良い、と言うもののようだ。
「しかし、デバイスでオシャレか……こうして並べられると、確かに自分の顔によく合ったものを選びたくなるな」
「そこで真っ先に自分の顔に合わせることを考えるのが実にナルですよネ」
「そりゃあな。この顔に合わないデザイン、隠すようなデザインを身に着けるなんて、世間は許しても俺自身が許せない」
「そうなると、ナルさん的には今の学園配布デバイスは……」
「良くも無ければ悪くも無いくらいだな。その、地元で見てたのと比較するとな……」
「誰でも緊急時でも安全確実に使えてが売りではあるけれど、デザイン性と言う意味では……まあ、私もちょっとと言うレベルだったよね」
「あア、二人の両親はそうでしたよネ。だったラ、むしろ褒められるべき選択ですヨ。それハ」
「それはそうなんだが、それでもあのデザインはな……」
「デザイン性以外は価格含めて一級品なのは世界が認めるところなアレですか」
「うん、本当に優秀ではあるんだけどね」
俺たちの視線が向く先にあるのは、一見すれば工事現場用のヘルメットのように見えると言うか、本当に工事現場用のヘルメットを基にしたらしい、昔からあるマスカレイドのデバイスである。
ヘルメットとの違いは、溶接工事に用いる仮面のようなパーツが顔を隠している点だろうか。
普段からヘルメットとして使え、緊急時にはマスカレイドを発動して身の安全を確保できる。
構造が単純なのでメンテナンスも簡単で、一般向けならスキルを詰め込むことも考えていない分だけ価格もお手頃。
そんなデバイスである。
うん、改めて見ても、アレは無い。
性能が優秀なのは認めるけれど、アレを付けるのは俺の美的センスが拒否している。
どうせ着けるなら、俺の顔にあったものを着けたい。
「お客様方。見たところ新入生のようですが、こちらへはどのような用向きでしょうか?」
と、ここで店員さんがやって来た。
なるほど確かにデビュー戦前に新入生がやってくる店ではないか。
「あ、すみません。実はですね……」
なのでスズが説明を始め……。
「なるほどそうでしたか。ではこちらへどうぞ。学園指定のデバイスのデータから、他のデバイスを使った時にどうなるかの予想が出せますので」
奥へと案内される事となった。
労働安全性衛生法と言うものは1972年に成立したそうです。(工事員のヘルメット着用を義務付けた法律らしい)
なので、ヘルメット型デバイスと言うものも、50年以上、外見のモデルとしては愛用されている可能性があります。
実際、一般的な工事現場にマスカレイドを持ち込むことを考えたら、仮面型よりもよほど安全で、いざと言う時の対応力も変わりますので、使わない理由がありません。
若い子はデザインで拒否するかもだが、普段から安全安心、緊急時のマスカレイドで倍プッシュ! ヨシッ!!
08/05誤字訂正




