50:ナルのスキルはどうするべきか
今回は第三者視点。
ナルについて相談するスズたちです。
「と言うのが現状です。樽井先生」
「……。なるほど分かりました。報告ありがとうございます。水園君」
スズの口からナルの現状について話があった。
その内容は、ナルが使えるスキルは現状の学園配布のデバイスではパッシブスキルしか存在しない事。
それと、スキルの燃費が明らかに悪い事だった。
話を聞いた樽井先生は少し悩んだ後に口を開く。
「……。水園君の話と、これまでに集めたデータから察するに、今のデバイスとスキルが翠川君に適していない。これは確定でいいでしょう」
「そうですね。それは確定でいいと思います」
「……。今度のデビュー戦については、開催趣旨の都合もあるので、現状の手札でどうにかしてもらうしかありませんが、少しでも合っているデバイスを探した上で、そのデバイスを製作している会社にスポンサーになってもらい、専用機及び専用スキルを開発してもらう。これが一般的で妥当な道筋になるでしょう」
「やっぱりそうなりますか」
「……。しかし、適用範囲の広さと安定性の話をするならば、国内どころか世界全体で見ても最高峰にあるはずの学園配布デバイスでこれとは……やはり、特殊な魔力性質と言うのは、敵にしてもサポートするにしても厄介ですね」
樽井先生が告げたのは、学園側では対処しきれないと言う、ある種の敗北宣言とも取られかねない言葉であった。
が、これについては決闘学園を責めるのは酷と言うものだろう。
なにせ、新入生であるのに既に第一線級の魔力量を持ち、前例のない特殊な魔力性質を持ち、外見変更を受け付けない強固な仮面体を持ちと、あまりにもナルの側が特殊な事例であるからだ。
むしろ、これほど離れていてもなお、マスカレイドの発動が可能な上にパッシブ限定とはいえスキルも使える学園配布デバイスの性能は褒められて然るべきだろう。
「それでスズ。ナルと相性のいいスキルはどんなものですカ?」
「ちょっと待ってね。ナル君。試せるものから順番に試しているみたいだから。えーと、見た限りだと、外見に影響が出ない防御や回復に関わりそうなパッシブスキルの燃費がいい感じかな」
「逆に『P・速力強化』のような攻撃に用いることも可能そうなパッシブスキルは燃費が悪化しているように見えますね」
と、ここで横からスズと樽井先生のやり取りを眺めていたマリーが口を挟み、イチがナルの送って来た結果を見て呟く。
イチの言葉通り、ナルのパッシブスキルの燃費は、防御や回復、維持に関わるようなもの……つまりは傷の治療や特定現象への耐性を得るようなものほど燃費が良く、そうでないもの……筋力を強化したり、体臭を濃くしたりするようなものほどに燃費が悪化していく傾向にあった。
この現象そのものは別におかしなものでは無い。
ナルほど極端なものは珍しいが、誰の魔力にも性質や傾向と言うものが存在していて、それに沿うようなスキルならば燃費は良くなるし、合わないものならば燃費は悪くなるか、もっと悪ければそもそもスキルリストに出現しなくなるからだ。
現にスズにしても、光を用いるようなスキルは、そもそもリストにすら載っていない。
「うーン。こうなるとナルはタンク業に専念するのがいい感じですかネ。スキル抜きでも必要な身体能力はありますかラ、無理に補強する必要もないでしょうシ」
「そうですね。イチもそうするのがいいと思います。一対一にせよ集団戦にせよ、強みを生かすのが勝利への近道ではありますので」
「まあそうなるよね。じゃあ、スポンサーを選ぶ時も、そっちの方向で話を持ってくるのが最低条件にしておこうか。今の流行りは必要分の耐久を得たら、後は火力マシマシ、スキルマシマシだったと思うけれど、ナル君にそれは合わないみたいだし。そもそもナル君って我が道を行くタイプだから流行りに合わせても魅力を損ねるだけになりそうだし」
「……。私も教師としてその方向で進める事をオススメします。苦手な手札ならば苦手である事を逆利用する手段も一応ありますが、そもそも使えない手札は利用できませんので」
マリーたちの話題はデビュー戦だけでなく、その先の部分にも及んでいる。
デビュー戦の後、集団でマスカレイドを用いた行事や決闘も始まるのだが、それらでナルをどう扱うべきか。
デビュー戦の後に交渉を持ちかけてくるであろう各企業にどう対処するのか。
それらについても、折角の機会だからとスズたちは話し合っている。
なお、この場には本来ナルも居るべきではあるのかもしれないが……。
「……。とは言え、最終的な決定権がある事は翠川君にある事は忘れないように。現状の水園君たちはあくまでも善意でサポートしているだけの立場です。翠川君に不利益をもたらすような振る舞いを見せれば、学園側としても相応の動きを見せなければいけなくなります。私が言わんとする事は分かっていますね?」
「はい、勿論です。樽井先生」
「当然分かっていますとモ」
「承知しています」
ナルの場合、スズたちがサポーターとして積極的に動いている事は既に周知の事実と化しているため、最終決定権こそナルにあれど、その前段階の調整についてはナルが居ない方が回りやすいため、このような形の話し合いになっていた。
ナル自身も分かっていて任せているので、無問題である。
「とりあえず今度の土日にショッピングモールでデバイス巡りかな。どの会社のがナル君と相性がいいのか、目星くらいは付けておかないと」
「スキルにせよデバイスにせヨ、学生が手を出せる分野ではありませんからネ。餅は餅屋と言う奴でス」
「幸いにしてイチたちはどこの企業とも繋がりはありませんから、評価はフラットな基準で下せるはずです」
その後、スズたちは自分たちのスキルの確認と設定はそこそこにして、ナルに対してどのようにデバイスを見るように持っていくかを話し合うのだった。
「しかし『P・Un白光』の燃費は圧倒的ですネ。これを参考にスキルを作ったラ、凄く燃費がいいスキルが出来るんじゃないですカ?」
「実際、そう言う事を考えた人は居るみたいだね。ただ、女神と人間の実力差と言うか、技術力の差を思い知らされて終わったみたいだけど」
「本当ですね。人間の技術で再現したら、燃費が10倍以上悪化した、ですか」
授業終了後。
スズたちはナルを迎えに、ナルを残した教室へと向かう。
「さて、ナル君。入るよ」
「分かった。今開ける」
そして、教室の扉の前に立ったスズたちが目撃したのは……。
「ん? イチにマリー? ああ、もう授業終了なのか、気づいていなかった」
「「「……」」」
『P・Un白光』によって発生した謎の白い光によって、何も身に着けていない胸部と股間を見えなくした状態で、教室の扉を開けたナルの姿だった。
なお、時刻が時刻という事もあり、スズたちの周囲は完全な無人と言うわけではなく、それなりにスズたちに関係のない生徒がいる。
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
「ん?」
「ナルちゃん教室内に戻って!? 私は見ていたいし、ナルちゃんの美しさを目を通り越して脳髄へとダイレクトに叩き込んで永久保存したい気持ちはあるけれど、世間一般的には今のナルちゃんは明らかに一線を越えてしまっているから戻って!? ああ、スマホへと手が勝手に伸びて!?」
「早く! 早く戻ってください!」
「アウトでス! アウト感がむしろ増していまス!?」
その後、麻留田風紀委員長によって場が収められると共に、ナルが反省文を書かされたことは言うまでもない。
教訓、『P・Un白光』は緊急時用の一時的遮蔽であって、免罪符ではない。




