499:卒業式決闘を終えて
「引き分け! 引き分けです! 『鋼鉄の巨兵』シュタール対『玲瓏の魔王』ナルキッソスの決闘は引き分けに終わりました!」
マスカレイドを解除した俺の耳に司会の人の声が響く。
引き分けか……まあ、途中から攻める事が殆ど出来なくなっていたので、この結果自体は仕方がないな。
「やれやれ、引き分けか。まさかたった一年で追いつかれることになるとはな」
「俺としては追いつくどころか、追い抜かしたいところだったんですけどね」
「流石にそれを許していたら私の立つ瀬がない」
「それもそうですね」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
同じくマスカレイドを解除した麻留田さんが俺の方に近づいてきて、握手を求めてくる。
なので俺は麻留田さんの言葉に応えつつ、握手にも応じる。
すると観客席から歓声が沸き上がるわけだが……まあ、これはそう言うものだな。
「ナルキッソス」
「なんでしょうか?」
「分かっているとは思うが、私が居なくなったからと身勝手な真似をするなよ。場合によっては学園の外から増援として招かれるのも私は受け入れているからな」
「いや、変な事なんてしませんから……。この一年、なんだかんだで俺が自発的にトラブルを起こしたことは……無いとは言いませんが、そこまで多くは無いじゃないですか」
「念のためと言う奴だ。分かれ」
「はい」
握手を続けつつ、表面上はにこやかにしながら、俺は麻留田さんと会話を続ける。
なお、俺の手を握る麻留田さんの手はかなりの力が込められている。
これは……はい、割と本気で不安がっている感じですね。
うん、気を付けはしよう。
気を付けてどうにかなるものでは無い気もするけど。
そして、俺と麻留田さんは握手を止めて、舞台を降りた。
で、俺は控室の方に移動し、扉を開ける。
「お帰りなさいナル君! 凄い決闘だったよ!」
「ナル様お疲れ様です。見事な戦いぶりでしたね」
「ワンダフルでしたヨ、ナル!」
「お見事でした。ナルさん」
「ありがとう。スズ、巴、マリー、イチ」
出迎えてくれたのはスズたち四人。
スズたちは口々に俺の戦いぶりを褒め称えてくれる。
「さて、これで麻留田さんたちは卒業だね」
「ええ。ですが来月には代わりに新入生たちが入ってきます」
「マリーたちも二年生に進級ですネ」
「二年生になる以上、イチたちにも相応の振る舞いを求められることになりますね」
「相応の振る舞いか……どんなものだろうな?」
俺たちは雑談しつつ控室で休憩をしている。
今頃、控室の外では、卒業生たちが学園の外へ出ていくための最後のセレモニーを……自分たちの門出を祝っている事だろう。
そうして卒業生が居なくなる以上、俺たちも色々と変わらないといけない訳だが……。
「うーん、ナル君はそのままでいいんじゃないかな?」
「そうですね。ナル様はそのままでいいと思います」
「そのままでいいって……本当にか?」
「だってナルですからネェ。そのままでも目を惹きますシ」
「イチたちが隠すべき事は隠し、正すべきは正せば、特に問題は無いと思います」
「そういう物か……」
スズたちからは特に変わる必要は無いと言われてしまった。
そう言う事ならば、俺は今の俺のまま、俺らしくこの先も進む事になるわけだが、そうなると……。
「まあ、そう言う事なら、今後も変わらず。俺は俺の美しさと強さを磨きつつ、と言う事になるか」
「うん。ナル君はそれでいいと思うよ。それで手助けが必要な場面があったなら、私たちが手伝うから、その時は頼って」
「そうですね。ナル様はそれでいいと思います。必要な時は婚約者として支えさせていただきますので」
「ナルはブレないでくれた方ガ、マリーたちとしても助かりますからネ。ブレないナルだからこソ、誰かを助けられる場面だってあるはずでス」
「はい。イチもそう思います」
「そうか」
うん、今後も決闘者としての実力を磨きつつ、自分の美しさも高めつつ、学園の一生徒としてスズたちと共に戦っていく。
そう言う事になりそうだな。
それはきっと来年も、再来年も、なんなら学園を卒業してからも変わらない話になる事だろうし、そうなるように俺はしたい。
「スズ、巴、マリー、イチ。四人とも改めてよろしくな」
「うん! これからもよろしくね、ナル君!」
「はい、よろしくお願いします。ナル様」
「こちらこそよろしくでス。ナル!」
「分かりました。ナルさん」
俺はスズたちと一人ずつ握手を交わし、ハグをして、それからお互いの顔を見て確かめ合う。
守って来た者の顔を、守りたい者の顔を。
これからも守り続けられるようにと。
かくして、俺の波乱に満ちた決闘学園一年目の生活は幕を下ろす事となった。