498:卒業式決闘 VSシュタール
「噴火、噴煙。効果は……」
シュタールに蹴りを叩き込んだ直後、ナルはスキル『グローリードレス』withバニーガール衣装の効果で発動したランダム属性攻撃の威力を認識していく。
結果、ノーダメージではない、だが有効打と言えるかは微妙なラインであるとナルは判断した。
だから追撃を加えるべく、未だ宙にある自身の体が着地と同時に次の攻撃へと移れるように膝を折り曲げて……。
「『クイックステップ』」
「っあ!?」
そこへスキル『クイックステップ』の発動によって前方へと急加速したシュタールの体がぶつかる。
全身鋼鉄の塊の上である上に巨体であるシュタールのタックルが直撃し、ナルの体は舞台を囲う結界へと叩きつけられる。
その威力は反射的に衝撃を殺してもなお、ナルに無理やり息を吐かせるほどだった。
「そこだ……『フルバースト』!」
だがそれでシュタールの攻撃は終わらない。
全身各部の銃口をナルに向けた上で一斉射撃を開始すると共に、背中の砲塔から魔力の砲弾を放つ。
「やばっ! 『ドレッサールーム』ダンサー、『グローリードレス』、模範模倣!」
「ちいっ! それが例の矢避けの加護か!」
しかし、シュタールの攻撃はナルに届かなかった。
ナルの服装がバニーガールから踊り子の衣装へと変わり、その衣装が仄かに輝き始めると同時にナルの周囲に猛烈な風が吹き荒れて、シュタールの全ての攻撃の軌道を捻じ曲げられる。
「だがそれならば! 『アディショナルアーマメント』!」
ならばとシュタールが前進しつつ右手をドリルに換装し、高速回転し始めたドリルをナルに向かって突き出す。
ドリルはナルの周囲の風をものともせずに直進し続けて……。
「『ウォルフェン』!」
「私のドリルを止めるか!」
ナルがかざした手に沿うように現れた鋼鉄の壁のような盾……『ウォルフェン』によってその動きを止められる。
正確には高速回転するドリル『ウォルフェン』の間で火花を上げ、金属同士が削れ合う音が響き、それ以上奥へと進もうとするのを阻む。
「切るなら此処か。『キャストオフ』『グローリードレス』」
鍔迫り合いと称するには騒々しく、文字通りに火花が散る中で先に動いたのはナルだった。
『ウォルフェン』の陰でナルの衣装が弾け飛び、『ウォルフェン』が消えると同時にその体が強烈な雷光を放ち始める。
「まに……『パリングボディ』!」
シュタールが咄嗟にスキル『パリングボディ』……時間にして1秒にも満たない間だけ、全身に触れた物を弾き飛ばす障壁を張り巡らせるスキルを発動する。
ナルの裸状態での『グローリードレス』の効果時間は1秒しかないため、こうして身を守ってしまえば、効果時間の大半を無駄にさせる事が出来ると言うのが、シュタールの認識だった。
「なっ!?」
そんな認識を持っていたからこそシュタールは驚かされた。
極限の状況下で認識能力が向上していたからこそ、シュタールにはそれが見えた。
シュタールが『パリングボディ』を発動した瞬間。
既にシュタールは膝と肩の二カ所を殴られていて、強烈な電撃が全身を伝わっていた。
そして、『パリングボディ』が発動している間、ナルは両手を組み、振り上げて、シュタールの眼前の空中に留まり続けていた。
それは、雷のような速さで動くために、認識能力が大幅に強化されている今のナルだからこそ出来る技。
『パリングボディ』の効果時間が終了し、『グローリードレス』を維持できる時間が限界に限りなく迫る、その刹那。
「鳴り輝け!」
「っ!?」
ナルの組まれた両手がシュタールに向かって振り下ろされる。
ほんの僅かな時間ではあるが溜め込まれた力が解放される。
会場全体に雷光と雷鳴が轟く。
常人の目と耳では一度としか感じられなかったそれが収まる。
「『ドレッサールーム』パンキッシュ。『グローリードレス』」
そうして収まった時には、既にナルはシュタールから大きく離れた場所で、白ビキニの上に革製の衣装を身に着けると言う服装になって、盾を構えていた。
「まさか、『パリングボディ』をあんな方法で突破されるとはな……」
対するシュタールも全身から少量の煙を上げつつも立っていた。
まるでナルの今の攻撃など効いていないかのように。
「見えていたならこれくらいなら出来て当然だと思いますよ。ただやっぱりシュタールも対策済みでしたか。避雷針的な物ですか?」
「そこはアースと言っておけ。まあ、過剰電流対策ぐらいは積んでいないはずがない。貴様の切り札を私は知っているのだからな。簡単に対策できる範囲の事はしておくに決まっている」
「でも無効化までは出来ていないでしょう?」
「そうだな。無効化出来るほどの対策は私の技術と魔力量では積めなかった」
シュタールがナルの攻撃を凌いだ理屈は単純明快。
大量の電気を別の場所へと流す手段を予め体に仕込んでおいた、ただそれだけの話である。
だが、その仕込みだけではナルの攻撃を抑えきれるか怪しかった。
だからこその『パリングボディ』であり、そのシュタールの判断は事実正しかった。
シュタールはこうして会話をしていたが、直ぐに攻撃態勢へと移る事が出来なかったからである。
「さて、余裕がないのは私も貴様も同じだな」
「まあそうですね」
しかし、攻撃に移れないのはナルもまた同様。
裸状態での『グローリードレス』によって一気に魔力を消耗したナルは、少しでも自分の魔力を回復させるべく、敢えてシュタールとの会話に興じていた。
そうしてお互いに動けない中。
「ただ、俺の方は放置していれば回復しますから。より余裕がないのはシュタールの方だと思いますよ」
「それはそうだ……なっ! 『アディショナルアーマメント』!」
シュタールが動き出す。
その右手に持つ物をドリルから複数の銃身を束ねて高速回転させている物体……機関銃へと変えて、ナルに向かって放つ。
「っ!?」
弾丸は当然のように貫通弾仕様。
ナルは迫ってくる弾丸に対して盾を構えるが、盾は数度耐えただけで食い破られ、ナルの体を抉り取っていく。
腹を、胸を、腕を、脚を穿たれて、血と肉が飛び散る。
そしてナルは……。
倒れずに笑みを浮かべ、それどころか骨が見えるほどに穿たれた血肉を再生していき、元通りとなる。
「いや、貴様の魔力量でそれは、先ほどの切り札よりもよほど反則だろう」
「まあ、そうかもしれませんが。これも俺の仮面体の能力なので」
それはサークル『パンキッシュクリエイト』謹製の衣装にスキル『グローリードレス』が合わさった事による半アンデッド化能力。
それとユニークスキル『恒常性』による再生。
ナルの全ての魔力を削り切るか、よほどのクリティカルを出さない限りは、決して倒すことが出来ないと言う、シュタールが呆れた声を出す程度には反則技の組み合わせだった。
「そうだな。では、再生できないように削り倒させてもらう! ナルキッソス!」
「やれるものならどうぞ。シュタール」
シュタールが機関銃を放ちつつ前進し、距離を詰めたらドリルあるいはヌンチャクでの攻撃を試みる。
だけでなく、『クイックステップ』によるタックルを始め、その全身を凶器として用いて、怒涛の攻めを試みる。
対するナルは半アンデッド状態を維持して致命傷を抑えつつ、魔力量が十分に回復したところで別の衣装に着替えると、堅実に守りを固めて消耗を抑える。
だけでなく、純粋な体術を以ってシュタールの攻撃を防ぎ、いなし、凌いでいく事で、鉄壁の守りを実現する。
そうしてシュタールが攻撃をひたすらに続け、ナルがほぼ守りに専念するしかない状況が続いて……その時は訪れた。
ーーーーー!
「はぁはぁ……此処までか」
「時間切れ、みたいですね」
10分と言う制限時間を過ぎたことを告げるアラーム音が会場に鳴り響く。
舞台の上にはシュタールとナルがお互いに疲労困憊の状態であるものの、両者ともに立っていた。
シュタールとナルの卒業式決闘は引き分けで幕を下ろす事となった。