497:卒業式決闘 VSシュタール -決闘前
「恙なく。って奴だな」
「だねー」
「そうですね」
「今更ですガ、年始のお祓いに意味はあったのかもしれませんネ」
「確かにそうかもしれませんね」
2025年3月1日土曜日。
本日は麻留田さんたちの卒業式の日である。
式そのものは些細なトラブルが起きる事もなく、恙なく進行。
特に語る事もなく無事に終わった。
「さて、俺的にはこの後が本番だな」
「頑張ってね、ナル君」
「ご武運を。ナル様」
「ナル、全力を出し切ってくださイ!」
「ナルさん、応援しています」
そして卒業式本体が終わったなら、続けて行われるのは卒業記念の卒業生対在校生の決闘である。
と言うわけで、シュタールの相手として指名された俺は、控室で最終確認を終えた後、案内に従って
移動をする。
「それでは次の決闘に参りましょう! 東……在校生、『玲瓏の魔王』ナルキッソス!」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
浴びせられる歓声が心地いい。
と同時にちょっと思う。
限られた観客しか入れないと言う割には、結構な数の観客が居るな、と。
まあ、それだけ俺とシュタールの決闘は注目の一戦と言う事なのだろう。
なら、間違っても無様な姿は晒せないな。
「続いて西……卒業生、『鋼鉄の巨兵』シュタール!」
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
シュタールの名前がコールされると共に、俺の時よりも大きな歓声を浴びながら麻留田さんが舞台までやってくる。
その足取りは堂々とし、自信に溢れ、けれど油断や慢心の類はまるで感じられないものだった。
「さてナルキッソス。こうして多くの人間の目に触れる形で貴様と決闘をするのは初めてか」
「そうですね。夏季合宿の時も撮影は入っていたと思いますけど、アレは案外見ている人が少なそうですから」
麻留田さんと俺は会話を交わす。
四月の本当に初めの頃にやった決闘は樽井先生しか見ていないし、こっそりとやった物なので、この場では挙げないでおく。
後はちょくちょくと俺がトラブルを起こした時にシュタールに制圧された話もあるが……アレは俺の恥なので、挙げるべきではないだろう。
そう考えると、夏季合宿の決闘くらいになるが……アレも圧倒されたからなぁ。
まあ、あの時と今の俺では色々と違うので、その辺りは実戦で見せていくとしよう。
「貴様に限っては不要な言葉だとは思うが……あっさりと負けてくれるなよ。貴様を選んだ私の沽券に障りがある」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。耐久力に限って言えば、今の学園の生徒で一番なのは俺でしょうから」
『さあ、盛り上がってまいりました! それでは始めてまいりましょう!』
いつの間にかシュタールと俺の簡単な解説が観客席の方で流されていて、それが今終わったところであるらしい。
また、舞台を囲うように結界も展開されていて、事故が起きないようにもなった。
それはつまり、決闘が始まる時間になったと言う事でもある。
『カウントダウン開始! 3……2……1……』
俺も麻留田さんも自身の顔に付けたマスカレイド用のデバイスに手を伸ばし、構えを取る。
『0! 決闘開始!』
「「マスカレイド発動!」」
そして、カウントダウン終了と同時に、俺も麻留田さんもマスカレイドを発動した。
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「マスカレイド発動! 魅せつけろ! 『玲瓏の魔王』ナルキッソス!」
ナルの全身が光に包まれる。
光が変形していき、女性らしい体つきのシルエットとなる。
そして指先から光が剥がれていき、ナルキッソスがその姿を……銀の髪、ターコイズブルーの瞳、シミ一つない肌を持った仮面体にバニーガールの衣装を身に着けた状態で現れる。
一見すれば、戦いの場に相応しくないと思われそうな恰好の、けれど、その実として並大抵の仮面体よりはるかに堅固な仮面体が姿を現した。
「マスカレイド発動! 展開せよ! 『鋼鉄の巨兵』シュタール!」
麻留田の全身も光に包まれる。
光は一気に膨張し、直径にして3メートル近いサイズになる。
そして一気に光が晴れて、その内側からシュタールがその姿を……身長3メートルに及ぶ、全身が鋼鉄で出来た巨人の姿を現す。
その手には二つの巨大な鋼鉄製の檻を鎖で繋いで作られたヌンチャクが握られており、関節などの隙間からは銃身が覗いている。
見るからに強大な、普通の仮面体など比べるまでもないほどに強大な力を放つ仮面体が姿を現した。
「『グローリードレス』! 『フォールオンミー』!」
デバイスの差によって僅かに早くマスカレイドを終えたナルが二つのスキルを発動。
その効果によってナルが身に着けているバニードレス衣装が仄かに輝きだす。
そして、ナルは自分のスキルが発動したことを認識すると、僅かに膝を曲げる。
「まずは小手調べだ! ナルキッソス!」
そこへシュタールの全身に搭載された銃火器たちが火を噴く。
放たれた弾丸は普段シュタールが使っているものよりも高硬度で貫通力に優れた物であり、ナルと言えども無防備に浴びればタダでは済まない弾丸の雨であった。
迫る弾丸の雨を前に……。
「そんな物が通用するとでも!?」
「だろうな!」
ナルは盾を手元に出現させると自分の前で構え、その盾の陰に身を隠しながら跳躍。
一気にシュタールに肉薄すると、空中で体勢を反転させ、シュタールの体に蹴りを叩き込む。
そして、蹴りが叩き込まれたことでスキル『グローリードレス』withバニーガール衣装の効果が発動。
改めて戦いの始まりを告げるかのように、稲光を伴う黒煙と爆発が発生して、その音を会場中に轟かせた。