496:戦うとなれば
「しかシ、いざ実際に戦うとなれバ、シュタールは勝つのが相当難しい相手ですよネ?」
「そうですね。イチが把握している範囲では、一対一でシュタールが負け越しているのはウィンナイトくらいだったはずです」
「なるほど。流石は麻留田さん」
さて、卒業式で俺とシュタールが決闘をする事は決まった。
そうと決まったのなら、シュタール対策について練らなければいけない。
ほぼ全ての相手に勝ち越しているシュタールを相手取るには、きちんとした準備を積まなければ、最悪、マトモな決闘にすらならずに負けかねないのだから。
「スズ、シュタールの情報はありますか?」
「勿論あるよ。ちょっと待ってね」
巴の言葉を受けてスズがシュタールの情報を出してくれる。
では、よく見知った物ではあるけれど、改めて確認してみよう。
「麻留田さんの仮面体、シュタール。身長は約3メートル。全身に金属の装甲板を付けた巨大ロボだね」
スズの言葉通り、シュタールはロボである。
これの何が重要かと言えば、金属の装甲の下はぎっしりと各種パーツが詰まっていて、パイロットが居るわけでもないので、体の何処にも肉が無いと言う事。
これは、対生物に特化したスキルや仮面体の機能が効果を発揮しない、と言う事でもある。
主な武装は全身各部に仕込まれた銃火器、背中の砲塔、檻を打撃部に用いた総金属製のヌンチャク。
それにスキル『アディショナルアーマメント』で呼び出されるドリルだが……実はシュタールが『アディショナルアーマメント』で呼び出す武装は幾つか種類があるそうで、盾のようなものや、手で持って使う大筒が確認されていたりする。
「そうそう、ナル君。シュタール相手だと大型の武器ばかりが危険に思えるけど、今回の決闘では関節に仕込まれている銃火器もちゃんと警戒した方が良いと思うよ」
「そうですね。ナル様を相手として望んだのなら、無駄な武装を付けている余裕などありませんし、何かしらの対策はしてあると考えていいと思います」
「あー、冬季合宿の縁紅みたいに貫通特化の弾丸を装填しておくとかか。時間的な余裕は十分あるだろうし、麻留田さんにそう言う技術が無いと考える方があり得ないし……確かに考えておいた方がよさそうだな」
シュタールの攻撃能力は極めて強烈である。
夏季合宿では怒涛の連続攻撃でねじ伏せられたし、ペチュニアの時にもその強烈な攻撃力は見ている。
単発でも連続でも、俺の素の防御能力を完全に上回っているので、きちんと防御をしなければいけないのだ。
ましてや今回はきちんと事前に予告され、準備期間を置いての決闘。
体の各部に仕込まれている銃火器の発射レートを少し下げる代わりに貫通力を上げるくらいの調整は普通にしてくる事だろう。
「防御をどう貫くかも問題ですね。ナルさんの普段の攻撃では、シュタールの装甲を貫くことは出来ないと思います」
「かと言っテ、属性バフを載せるト、その分だけ防御が薄くなりますかラ、シュタール相手だと危険ですよネ」
「そうだな。あちらを立てればこちらが立たずみたいな感じで、攻防のバランス取りと言うか切り替えと言うか、その辺りをどうやるかは事前に考えておく必要があるだろうな」
シュタールは防御能力も極めて高い。
先述の通り、ロボなので対人で有効な幾つかの攻撃が通用しないと言うのもあるが、単純に全身を覆う装甲が俺の素の攻撃力ではダメージが通らないほどに堅いのだ。
かと言ってスキル『グローリードレス』で属性バフを得て殴るにしても、攻撃面で優秀な属性バフを得る事が出来る衣装は大抵その分だけ防御面が薄くなる。
この話は、普段ならば俺の素の防御力の高さが十分なので何の問題もない話だが、シュタール相手だと考えずにはいられない部分の話となる。
「とりあえず『キャストオフ』からの『グローリードレス』は解禁するとして」
「まあそうだよね」
「そうですね。今回は仕方が無いとイチも思います」
「10分と言う時間制限もありますからネェ」
「諸刃の剣なので、切りどころは考えるべきだと思いますが、確かに必要そうですね」
そして困った事に切り札を切っても勝てる保証はどこにもない。
単純にシュタールの魔力量の多さと技量を考えると、1秒くらいなら普通に凌げる気がする……と言うか、スキル『パリングボディ』くらいは入れてくる気がするんだよな。
アレを上手く使われたら、1秒の半分くらいは無駄にされそうな気がする。
だが、俺の火力と時間制限を考えると、勝ちを狙いに行くなら、何処かで切らなければ間に合わないだろう。
「今更なんだが、シュタールって弱点らしい弱点はあるのか?」
「うーん。シュタールにはその巨体と特異性の都合上、普通の仮面体よりも魔力消費が激しいと言う欠点があるらしいよ。激しいと言っても10分間全力で戦うくらいは出来るだろうけど」
「海水や砂地、脆い足場など。一部地形との相性は良くないと聞いたことがあります」
「一年生の頃は防水、防火などが不十分だったと言う話がありますが……これはもう克服済みですね」
「分かり易い弱点は地道に潰したらしいですヨ」
「なるほど」
うーん、どうやら俺の手札だと、真正面からきちんと戦うしかなさそうだな。
まあ、そうと分かっているのなら、それを前提に立ち回るだけだな。