495:卒業式決闘のお誘い
「ん? なんか来たな」
放課後。
サークル『ナルキッソスクラブ』で届いたチョコの仕分けをしたり、宿題をやったり、模範模倣の各種計測をどうやるかを考えていた所、俺のスマホにメッセージが届いた。
内容は……。
「卒業式決闘のお誘い?」
「へー、ナル君を選んだ人が居るんだ。あの人で無かったらチャレンジャーだね」
「ですネ。今のナル相手に一対一で挑むのは相当のチャレンジでス」
卒業式決闘と言うよく分からないものへのお誘いだった。
名前の通りなら卒業式に決闘をやるから、それに参加してくれと言うところだろうか。
スズとマリーの反応からして公式のものであるようだが……説明はメッセージを見るよりもイチたちに頼んだ方が早そうだな。
と言うわけで、俺はイチへと視線を向ける。
「説明を致しますと。卒業式決闘と言うのは、今年の卒業生の中で決闘者として成績が優秀な生徒何名かが選ばれて参加する行事です。選ばれた卒業者は、在校生の中から戦いたい相手を選び、相手が了承すれば、卒業式の後に限られた観客の前で決闘を披露する事になりますね」
「なるほど。つまり、卒業生の方は、学生時代最後の決闘を楽しみつつ、私は卒業までにこんなに強くなったぞ、と言うのを観客や後輩たちに示す。在校生の方は、自分が卒業までにどれだけ強くなれるかの目標を知ると同時に、世話になった先輩への礼を返すとか、そんな感じか」
俺の言葉にイチが頷く。
だいたい合っているらしい。
「ナル様の認識で概ね合っています。ただ、最近は観客の方は本当に極々一部の限られた方だけですね。私の叔父様の世代までは一般に公開されているほどだったそうですけど……その、何人かやらかしたり、やらかした結果としてトラブルが起きたりしたそうなので」
巴の叔父さん……マチタヌキだろうか?
そうなると、あの人の歳の頃から考えて起きたトラブルと言うと……ああうん、ドライロバー関係だな、さては。
そうでなくとも、この卒業式決闘で卒業生の方が手酷い負け方をしたからと、卒業後に結ばれるはずだった契約が反故にされたりするトラブルくらいは起きていそうだし……。
そう言う事が何度も起きたのなら、確かに観客は限る事になりそうだろうな。
「それでナル君。ナル君に決闘を申し込んできたのは誰なの?」
「えーと、シュタール……麻留田さんだな」
さて話を進めよう。
卒業式決闘で俺と戦う事を望んだのは麻留田さんらしい。
同じ魔力量甲判定、同じ戌亥寮、俺が学園に来て最初に決闘した相手、俺が一度も勝てたことがない相手……そう考えると、縁深い相手ではあるな。
しかし、同じ風紀委員会である青金先輩や大漁さん、羊歌さんじゃなくて、俺なんだな。
そこはちょっと分からない。
「ああ、やっぱり……」
「やっぱりそうですよネ」
「ナル様を選ぶ人となれば当然だと思います」
「そうですね。他の人では決闘が成立しませんから」
分からないと思ったが……スズたち的には妥当な流れであるらしい。
なのでその辺の疑問をちょっと投げかけたところ……。
「うーん。青金先輩たちだと、ちょっと実力不足かな。白熱した戦いになる前に終わっちゃうと思う」
「そうですね。山統前生徒会長などは、同じ生徒会から新生徒会長である津々先輩または生徒会役員である吉備津君をほぼ間違いなく選ぶと思いますが、これは繋がりがある以前に自分と真正面から一対一で打ち合えるだけの実力があるからですし」
「つまり、麻留田さんが強すぎるから、麻留田さんの実力を披露するためには俺を選ぶしかなかった?」
「そう言う事ですネ」
との事だった。
まあ、俺の実力を評価しているからこそ、選んでくれたのだと考えれば……悪くはないか。
「おや。ナルさん。シュタールとの決闘ですが、特別な条件が付いているようですね」
「そうなのか?」
「はい、此処です」
ただ、俺の実力を学園もシュタールも分かっているからなのか、特別な条件も付くようだ。
俺のスマホを受け取り、スクロールしていたイチが、とある場所でスクロールを止めて見せてくれる。
そこにはこう書かれていた。
なお、本決闘の決闘時間は最大10分とし、時間内に決着が着かなかった場合には引き分けとする。
との事だった。
「進行の都合。と言う奴ですかネェ」
「そう言う事だと思うよ。ナル君がその気になったら一時間でも二時間でも戦えるし」
「シュタールの方は消費が激しく、時間制限もあるはずですが、そちらも急がないなら10分程度は問題なく動けるはず。そうなると、ナル様が耐え続けたなら20分くらいは使う事になりそうなので……」
「卒業式の日で、時間的な余裕が無いと考えると、妥当な取り決め以外の何物でもないですね」
「まあ、これについては仕方がないな」
まあ、時間に限りはあるから仕方がない。
俺たちは全員揃って頷くしかなかった。
「ま、そうだな。おかしな決闘でもないし、これが最後だって言うのなら、その最後の相手に選んでもらえたことを喜びつつ、全力で戦うまでだ」
「そうだね。それでいいと思うよ、ナル君」
そうして納得も出来たところで、俺はメッセージに了承の言葉を返したのだった。
Q:トモエは卒業式決闘の相手に選んでもらえなかったの?
A:ここで選ぶのは、縁がそれなりにありつつ、実力的に盛り上がりそうな相手を選ぶのが良いとされています。トモエだと縁の問題もありますが、それ以上に魔力量乙判定の卒業者にとっては強すぎるのですよね……。