49:パッシブスキルの問題点
「それでナル君。『P・速力強化』はどれぐらいの魔力消費量だったの?」
スキルの確認は出来たと言う事で、俺はマスカレイドを解除。
その後、スズの指示に従う形でデバイスに登録されているスキルから『P・速力強化』を外した。
デバイスにスキルを付けたり外したりするのは本当に簡単なようで、俺でも簡単に出来るぐらいだった。
外した枠に何を入れるかは……後でスキルのリストを確認してからだな。
で、魔力の消費量だが。
「一回ごとに魔力が削られる感覚があったな。たぶん、二回合わせたら……5%は確実にあったと思う」
「ナル君の魔力量で5%か……ちょっと待ってね。消費量が固定なのか割合なのか調べてみる」
「分かった。ただ、固定でこの消費量だったなら、スズたちがパッシブスキルを好まないのもよく分かるな」
はっきり言ってかなり多い。
俺の魔力量は一般的な乙判定の生徒の4倍から7倍程度は確実にあるはず。
そんな俺の魔力量でも5%持っていかれるのなら、もしも消費量が固定なら、乙判定の生徒では20%~35%くらいは持っていかれることになる。
そんな量の魔力を条件さえ満たせば勝手に発動する形で使われてしまうと言うのは……かなり拙いと言うか、自ら敗北に向かっていくようなものだろう。
うん、こんなのが一般的なら、そりゃあパッシブスキルが好まれないはずである。
「ナル君分かったよ。調べてみたけど、魔力の消費量は固定。ただ、使用者及びデバイスとの相性もあるから、多少の増減もある。で、肝心の消費量は……50くらいが基本みたい」
「50……となると、俺は相性が悪い方になるのか。とは言え……」
「うん。一回ごとに50はちょっと使えないね。私だと一回の発動で10%くらい持っていかれることになるし、使いたくない時は絶対に歩かないといけないし」
「だよな。普通のスキルなら、発動時に宣言する必要はあれど、普段は問題なく走ったり跳ねたり出来るのを考えると……」
ぶっちゃけて言えば、メリットとデメリットが釣り合っていない。
普通のスキルは発動時に宣言する必要があるので、その宣言を聞いてから反応できるような奴相手だと、通じない事があるらしい。
パッシブスキルなら、条件を満たせば勝手に発動するので、その問題点は潰せる。
が、それ以上のデメリット……『P・速力強化』なら、使いたくない時は走れなくなると言うデメリットが発生する事になる。
これでは本末転倒と言うものだろう。
そこに燃費の悪さや暴発の危険性を合わせたら、そりゃあ、好まれないのも納得である。
「スズ。現状だと俺のスキルリストにはパッシブスキルしか入っていない訳だが、新しいスキルってどうすれば手に入るんだ?」
「手に入ると言うか、開発することになるかな。ただ、ナル君の魔力性質も考えると、デバイス含めて一から開発する事になるだろうし……ちょっと、学生である私たちが手を出せる分野じゃないと思う。今度のデビュー戦でスポンサーがついて、そこで研究をしてもらって……かなりの時間がかかる事だけは確かじゃないかな」
「そうか。そうかぁ……」
少なくとも当面は自力で頑張るしかないようだ。
つまり、どうにかして、俺にとって都合のいいパッシブスキルを見つけて、付き合っていくしかない、と。
うん、後で考えるか。
「分かった。じゃあ俺はとりあえず此処までだな。次はスズの番だ」
「うん、分かった」
スズが結界の中へと入り、マスカレイドを発動。
スズの姿が般若の面を被った巫女へと変化する。
「ふむふむ……『ファイヤーボール』」
そして、何度か頷いたところでスズが左手を前に伸ばし、『ファイヤーボール』と言うスキルの名前を告げると同時に左手から直径30センチほどの火球が生成され、勢いよく放たれる。
放たれた火球は結界にぶつかり、爆発。
周囲に火の粉、熱、爆風をまき散らし、床にも小さな火が残るが、それらはいずれも結界の作用によってか、直ぐに消え去った。
さて、もしも今のが相手に直撃すれば……俺は別として、普通の仮面体なら結構な傷になりそうだ。
状況や当たり所、身に着けているものの素材などによっては、一撃で勝負がつく事だってあるかもしれない。
「うん、問題なく使えたよ。ナル君」
「みたいだな。ちなみにスズ、今の『ファイヤーボール』ってスキル一回でどれぐらいの魔力を消費したんだ。見た限り、結構な威力がありそうだったが」
「えーと、だいたい50ぐらいかな。体感だけど」
「50かぁ……」
「うん。これで50なんだって……」
となると気になるのは燃費だが……50らしい。
相性云々あれど、一般的な『P・速力強化』一回と等価かぁ……等価なのかぁ……。
言っている俺自身も、50と答えたスズも、何とも言えない気持ちになってくる。
なってくるが、話を進めない訳にはいけないな。
「やっぱりパッシブスキルって駄目では?」
「うーん、発動条件を満たしているか否かを判断する機構とかに魔力の消費を取られているのかなぁ……いやでも、それなら常時消費が激しくなりそうなものだし……ちょっと後で樽井先生に相談してみるね。ナル君は自分のスキルリストを見て、相性が良さそうなものを試してみて。もしかしたら、凄く消費量が少なくて、使えるものがあるかもしれないから。あ、此処に記録を残しておいてくれれば、私の方にも伝わるから」
「分かった」
どうやらスズが樽井先生に相談に行ってくれるらしい。
うん、学術的なお話になったら、俺にはまるで訳が分からないからな。
こう言う事はスズに頼んだ方がいい。
だが、何もなしにスズに頼り切りと言うのも良くないだろう。
「スズ。今度の土日にもしよかったら、またショッピングモールで何か奢らせてくれ」
「うん! ありがとうね、ナル君! じゃあ、行ってくる!!」
なので、ちょっとした約束をした上で、俺はスズを送り出した。
「さて、俺と相性のいいスキルか……」
それから俺はスキルのリストを確認し始める。
と同時に思い出すのは、俺の魔力は粘性があって、切り離すことが難しいと言う性質の話。
加えて、スキルと言うものは基本的に燃費が悪く、常時発動させるのは難しいと言うのも、頭の隅に置いておく。
うーん、なんとなくだが、俺の体の内側に作用するようなパッシブスキルがいいのではないだろうか……。
その後、俺は授業時間が終わるまで、ウンウンと唸りつつ悩み、時々試してみてはまた唸りと言うのを繰り返すことになったのだった。




