488:冬季合宿デブリーフィング
当然の事だが、その後は大騒ぎになった。
まず自衛隊の特殊部隊が暗い中やって来て、安全とおおよその状況を確認。
犯人であるハモを拘束した上で救急搬送して、とりあえずの俺たちの安全を確保した。
で、それから軽傷者の治療をして、夜明けと共に従業員含めて全員で『ホテルアバランチ』を後にして、近くの街で一斉事情聴取。
その結果として、真っ先にハモに接触した俺はこってり絞られつつも褒められると言う、なんとも困る扱いを受ける事となった。
その後、学園に帰還し……一週間ほど経った。
「ナルさん、スズ、マリー。先日の冬季合宿の件について、一応の報告がまとまったそうなので、持ってきました」
「ようやくか」
「色々とあったからねぇ」
「さテ、マリーの耳には色々と入って来てはいますガ……どうなっているのでしょうネ?」
『ナルキッソスクラブ』に入って来たイチが俺たちの前にレポートの束を出してくれる。
どうやら一週間経って、ある程度の捜査は終わったらしい。
では見ていこうか。
「まず尾狩家ですが、当時、尾狩家のペンションに居たであろう一族の中核を担っていた大人たちは全員の死亡が確認されたようです。尾狩参竜も死亡が確認されていますね」
尾狩家のペンションはハモによって破壊し尽くされていた。
このレポートによれば、死体がきちんとした形で残っている人間の方が稀で、殆どの人間は巨大な何かに踏み潰されたかのような状態で原型も残さずに死んでいたとの事。
つまり、写真を載せる事も出来ないような惨状で、DNA検査によって誰が死んだのかを必死に調べる事になったらしい。
「ふうん。抵抗の様子は見られたんだ。女神対策なのかな?」
「そう言う事でしょうネ。今回の件では女神は終始姿を現しませんでしたかラ」
ちなみに、俺とハモが遭遇した場所の近くでも尾狩家の人間が一人死んでいたらしい。
状況から察するに、『ホテルアバランチ』に助けを求めて逃げ出してきたところに追いつかれたのではないかとの事だが……。
俺による時間稼ぎもない状態でハモが『ホテルアバランチ』へ突っ込んでいたら大惨事確定であった事を考えると……こう、そう言う事を狙っていたんだろうなとしか思えないな。
「……。ナルさん、ペチュニアの時と違ってあまり気にした様子が見られませんね」
「そりゃあそうだろ。ペチュニアの時は真面目に職務を遂行しようとして、何より俺の事を助けようとして犠牲になった人たちだった。だけど尾狩家の連中だとなぁ……もう死んでいるから、そこまで悪くは言いたくないんだけれども……。それでも自業自得だろとは言いたくなる」
「分かる」
「凄く分かりまス」
「そうですね。そこはイチも否定できません」
どうやら、この点についてはイチたちも同感だったらしい。
まあ、これまでの事を考えるとどうしてもな。
ま、これも日頃の行いと言うものだろう。
「しかしこうなると……尾狩家は滅亡か? いやまあ、現代で滅亡ってなんだそれとは言われそうだけども」
「滅亡と言うよりは断絶かな。あの場に呼ばれなかった子供たちが生きているから、血は継がれるけれど……」
「抱えている負債が莫大ですからネ。負債ごと相続放棄をするのではないですカ?」
「そうですね。マリーの言う通りになるかと」
あの場に居なかった事で生き残った人たちについては……まあ、強く生きてくれとしか言いようがないな。
さて、尾狩家についてはこれくらいだな。
「ハモについては未だに原因不明の昏睡状態か」
「アビスが加護を切った反動……も一因ではあるのかな?」
「『ペチュニアの金貨』の影響もあるかもしれませんネ」
「シンプルに疲労などが積み重なったのもあるでしょう。ナルさんが抱えてきた時の姿は酷い姿でしたし」
次にハモについて。
とは言え、こちらについてはハモ当人が未だに意識不明なので、特に進展は無さそうだ。
意識が戻らない原因も分からないので、本当にどうしようもない。
容体については一応安定しているとのことだが、目覚めるのは何時の事になるのやら。
「処分はどうなるんだろうな? 流石に死刑か?」
「どうだろうね? やった事は間違いなく悪だし、大量殺人だし、なんなら私たちも危なかったわけだけれど……」
「復讐ですからネェ。それも正当なものでス。ハモと尾狩家の間の事情を多少なりとも知っていたラ、思うところの一つや二つはありますヨ」
「その辺りについては警察と裁判官に任せましょう。イチたちが関わる話ではありません」
まあ、目覚めたら目覚めたで、裁判が待っているので、もしかしたらハモは目覚めない方が幸せなのかもしれないが。
こう、何とも言えない気分なんだよな。
俺たちの命まで狙ってきたのは許せないし、罪は償うべきなんだけれど、尾狩家とか『ペチュニアの金貨』とか汲むべき事情とやらの部分があまりにもですね、って奴だ。
「ま、なんにせよだ。これで今回の冬季合宿に関しては一段落。全員無事に済んでよかったな」
「そうだね。ナル君」
「そこは本当にそうですネ」
「まったくですね」
とりあえず無事に学園に帰ってこれたのだから、それで良しとしよう。
こうして俺たちの冬季合宿は、一応は無事に終わる事が出来たのだった。




