482:冬季合宿四日目・ナルVS虎卯寮 -決闘後
「よし勝った!」
三十分かかった。
何がと言われれば、サダルスウドを退場させてからトモエを退場させるまでにかかった時間である。
足場が水浸しになった事でアルレシャの撃破は割と簡単に行けたのだが、トモエは最低限の動きでこちらの攻撃は捌き続け、隙を見つけては投げ技組み技を仕掛けて、こちらを水没させようとしてきたため、安全第一で俺は立ち回った。
結果、俺は攻めきれず、トモエが魔力切れになって退場となったことで、決着となった。
うん、思うところが無いわけではないが、勝ちは勝ちである。
「流石はナル様です。一発逆転は許してくれませんでしたか」
「トモエもな。まさか、足場が水浸しになって、あそこまで機動力に差がある状態だったのに、此処まで粘られるとは思わなかった」
巴が大漁さんに支えられた状態で、舞台の端の方へと近づいてきたので、俺はそちらへ近づくと、結界越しに話を始める。
なお、舞台上は結界が壁になって外へと漏れないようになっているが、未だに水浸し状態である。
結界が解除されるのは、舞台上の水が全て無害な魔力に還元されてからなので……まあ、もう暫くはかかる事だろうな。
なので、俺がマスカレイドをしたまま、反省会に移行する事となった。
「アタシとサダルスウドはマジで反省だな。『サンダーボルト』を撃った直後の行動が本当に良くなかった」
「そうだね。あそこで即座に反撃に移れていたなら、少なくともナルキッソスの反撃に備えられていたら、決闘の結果はもう少し違ったかもしれない」
「二人の反応は普通の仮面体が相手なら問題なかったかもしれませんが、ナル様相手だと流石に油断が過ぎましたね。ナル様相手に攻め切ったと判断するのは、マスカレイドが解除されたのが確定してからにするべきでした」
「だな。『サンダーボルト』の余波で視界が悪くなっていた事も併せて考えると、本当に油断するべきでは無かったとは思うぞ」
まあ、大漁さんと瓶井さんは確かに反省ものだろうな。
仮の話だが、もしもあそこでアルレシャが直ぐに糸のバリアを解いていたら、トモエの矢を俺が『ウォルフェン』で防げていたのかは怪しいものがある。
そうでなくとも、トモエの攻撃とは別方向から二人が攻撃を仕掛けていたら、それだけでもキツイものがあっただろう。
そして、更に言ってしまうのなら……もしも『サンダーボルト』を安全圏に移動してからでなく、自爆覚悟で水浸しになった直後に使われていたら、聖女服への着替えとスキル『グローリードレス』の発動も間に合っていなかったに違いない。
この辺りの対応、もしかしなくても羊歌さんが居たら、もっと容赦なくされていたんだろうな……その確信はある。
「それでナル様。もはんもほう、でしたか。アレは一体?」
「それと羽衣でアタシの銛を切っていた件もだな。なんだありゃあ」
「ああそれか」
さてここからは俺がやった事の話。
バラシていいのかって? 問題ないだろ。
簡単に真似できるものでもないし、対策されて困る類のものでもないからな。
むしろ使われた側の感想が欲しい。
そもそもだ。
「ぶっちゃけ決闘中に俺かトモエが言ったこと。それで全部だな。模範模倣は『グローリードレス』で生じている魔力の動きを真似しただけで、羽衣の方は羽衣の一部の素材をその時だけ金属製の刃に変えただけだ」
「だけって……」
「勿論、そう簡単な事じゃないのは分かってるぞ。これは俺が『ドレッサールーム』で自分の仮面体を普段から弄り回している事や、俺の魔力性質的に変化を感じ取り易い事。後は幾つかの練習をして、魔力の取り扱いに慣れている点。これらの要素が組み合わさった結果だ」
「なるほど。本当に流石はナル様としか言いようがありませんね」
「細かい部分の理屈とか理論については、学園に帰ってからスズたちと協力して明らかにしていく感じだろうな。なにせ本当に今日偶々思いついて、出来ただけって技術だからな」
本当に今日……ユニークスキルも、スキルも、仮面体の機能も、マスカレイドの技術そのものも、結局は魔力を操作して行っていると言う点から偶々思いついて、試してみたら出来てしまっただけの技術。
実際に使ってみた感じとして、バフの強化はありがたいけれど、その分消費も重い技術と言う感じだったからな。
今後は手本無しにバフを使えるようにするのも含めて、色々と研究して、洗練していかないと、安定して使うのは難しいだろう。
「と、排水が終わったみたいだな」
「そのようですね」
気が付けば舞台上の水は無くなり、舞台を囲っていた結界も解除されていた。
なので俺もマスカレイドを解除。
それから巴たちと握手を交わして、お互いの健闘を改めて称えていく。
「これにて本年度の冬季合宿における全ての決闘は終了となりました。皆様、素晴らしい試合を見せてくれた両者に改めて拍手をお願いいたします」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
そして、照東さんの言葉と共に俺たちは拍手の雨を浴びる。
で、四人揃って仲良く退場。
冬季合宿四日目は無事に終わりとなった。
これで冬季合宿の残りの日程は明日の朝にホテルを出て、学園へ帰るだけとなったのだが……。
日付が変わるかどうか、そんな時間帯にそれは始まった。