48:P・Un白光
「さて、これからナル君には自分のスキルを色々と試してもらう事になります」
「ああ分かってる。今はもう、とりあえずって事でスズがスキルを入れてくれているんだよな」
「うん、その通り。学園指定のデバイスにはスキルを二つまでしか入れられないから、もう二つ入ってるよ」
俺とスズは隣の個別教室に移動した。
なお、俺の特異性や甲判定者である事を考慮してくれたのか、樽井先生によって俺の利用可能時間は無制限に設定されている。
スズが居るので、授業中は帰ってこなくても良いと言う部分もあるのかもしれない。
ちなみにイチとマリーは自分たちのスキルの設定を優先していて、それが終わり次第こちらに合流する予定だ。
「じゃあ、使ってみるぞ。マスカレイド発動」
俺はマスカレイドを発動する。
最近はもう慣れたもので、発動と同時に服と下着を作り出して着用する事も可能となったので、女子制服、下着、ブーツ、盾と一通り揃った状態で現れる。
「ナルちゃん。視界の端と言うか、頭の端がざわつくような感じがあると思うんだけど。どう?」
「ん? ああなるほど。これがスキルの感覚なのか。慣れれば問題はなさそうだけど、慣れるまでは気になりそうだな」
「スキルってものによっては追加の手や目を生やすようなものだからね。気になる人はどうしても気になって、スキルを付けない、付けても一つだけ、っていう風に制限する人もいるみたい。さっき樽井先生が言ってた」
「そうなのか。まあ、俺についてはその辺は大丈夫そうだな。もう気にならなくなってきた」
スズが言った通りに、意識の端になんだかざわつくような感覚はあった。
けれど直ぐに馴染んで、何ともなくなったな。
どうやらこの部分は問題ないようだ。
「それでスズ。俺のデバイスにはどんなスキルを入れたんだ?」
「さっきのざわつきに意識を向ければ名称も使い方も分かるはずだよ。だからナルちゃん、その方法で確かめてみて」
「さっきのざわつき……ええと、こう言う事か」
さて、スズが入れてくれたスキルは二つ。
一つは『P・Un白光』。
もう一つは『P・速力強化』。
アクティブスキルとも言われる普通のスキルなら、スキルの名称を発するあるいは強く意識する事によって発動するようだが、俺のスキルたちはパッシブスキルなので、条件を満たさない限りは発動しない。
なので、スキルを試すためには、まずは条件を満たす必要がある。
だから俺は発動条件へと意識を向けていき……。
「『P・Un白光』の発動条件は……スズ? なんでこんなものを?」
「ナルちゃんには必要だと判断したの。その、ナルちゃんの自己意識すら無視して登録可能だった辺り、たぶん、女神様の思し召しでもあるだろうし」
「……。まあ、仕方がないか」
思わずスズに問いかけてしまった。
いやまあ、常識的に考えれば、必要である事は理解するし納得もするのだけど、これは決闘の役に立つものでは無いだろ。
いやだからこそ、今この場で試しに使うには都合がいいのか?
よく分からん。
なんにせよ、今はまず発動だな。
「キャストオフ!」
と言うわけで、発動条件を満たすべく、俺は身に着けているもの全てを魔力に分解して、裸になる。
そして、『P・Un白光』が発動し……。
「よし、発動したな」
「うんそうだね発動してるよ。ナルちゃん」
俺の両胸の先端と股間を隠すように、線状の濃くて白い光が発生。
日本の放送倫理規定的に見えてはいけない部分が綺麗に見えなくなった。
「……。これ、白い光で隠されている方がむしろ卑猥なんじゃないか?」
「言わないで。私もちょっと思っちゃったから……」
なお、俺はその様子を部屋に付いているカメラと鏡の両方で確認したのだが、正直に言って白い光が無い方が健全に見えると思う。
うーん、不思議だ。
隠すことによって、想像の余地が膨らんでしまっているのが良くないのか?
下着すらつけていない事、動きに合わせて胸が揺れていることなどは確認できてしまうんだよな。
「ナルちゃん。魔力の方は?」
「うーん……自然回復が止まったぐらいな感じ?」
「そ、そうなんだ……」
これ、もう少し光の幅を増やせば……ああいや、そうなると魔力消費が激しくなるのか。
俺ですら、魔力の自然回復速度と消費速度が釣り合ってしまうほどの光なのだから、此処から少しでも量を増やしたら、消費の方が勝ってしまうんだな。
どうして、露出対策にこれが持ち出されなかったのも含めて、それなら納得せざるを得ないな。
「ちなみに使い心地の方はどう?」
「凄く気分がいい。合法的に裸になるのを許されているのを全身の肌で感じる事が出来て気持ちがいいんだ。このまま校舎を一周してきていいなら、してきたい」
「うん。ナルちゃん、それは駄目だから。『P・Un白光』はあくまでも緊急避難と言うか、止むを得ない時に隠すためのスキルだから、このまま出歩いたら捕まっちゃうよ」
「そうか、残念だ……」
ただ解放感は素晴らしい。
これで法律の壁を超えられるわけではないようだが、キャストオフしてしまった時対策として、常にスキルにセットしておいてもいいかもしれない。
「さて、もう一つのスキルについて試すか」
「うん、そうだね」
俺は魔力の消費量を正確に測るために、制服を出現させ、魔力が回復するようにする。
で、残りの魔力量を出来る限り正確に認識したところで、スキルを試し始める。
「『P・速力強化』だったか。発動条件は全身が何も触れていない状態から片足のみが何かに触れている状態に移行する事。となると試すにはジャンプしてから片足だけになって……」
俺はその場で軽く跳ねる。
そして、右足のつま先から床につき……床を蹴る。
気持ちとしてはちょっとスキップして、1メートルくらい前の床にまで移動するくらいの気持ちだった。
「いっ!?」
「ナルちゃん!?」
が、現実には俺の体は大きく浮き上がり、体勢を崩しつつ前方に向かって跳躍。
高さで言えば2メートルは確実に浮かび上がっていて、距離はそれ以上に伸びていた。
俺は咄嗟に左足を前に出し、床に触れて……減速させるつもりで咄嗟に前へ向かって蹴りを出すか、スライディングをするかのように足を伸ばしてしまった。
「うおっ!?」
「!?」
結果、再度跳躍。
今度は後方に向かって一気に数メートル跳んでしまい、安全対策の結界に衝突。
そこで条件を満たさなくなったため、『P・速力強化』は効果を停止した。
「スズ」
「うん」
「これは外そう。駄目だ。俺には扱いきれない」
「うん、私も外した方がいいと思う」
とりあえず安全の為に『P・速力強化』は外すことで意見は一致した。
女神「『P・Un白光』は個人的には作る必要性を感じなかったスキルなのですが、あまりにも人間たちから要望が多かったので、誰にでも使えるように私が製作、頒布したものとなります。別に真剣な決闘の最中に胸や股間が見えても困らないし、むしろこんなものがあった方が困ると思うのですが……。人間とは不思議なものですね。あ、各種撮影に使う分にはありだと思います。そう言う演出があった方が良いものが取れる事を私は知っていますので」