479:冬季合宿四日目・ナルVS虎卯寮 -決闘前
「レディースエーンドジェントルメーン! 数多く行われました冬季合宿中の決闘も本試合を以って終わりとなります! それでは最後の大一番! まずは選手紹介から参りましょう!」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
会場に司会である照東さんの声と、観客の生徒たちの声が響く。
やっぱりと言うべきか、この決闘で冬季合宿中の試合は終わりになるらしい。
そしてだからなのか、観客の方は一年生がほぼ全員集まっているのではないかと言うレベルの賑わいになっている。
「東より……『玲瓏の魔王』ナルキッソス!」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
「さて、最低限の検証は休憩時間に済ませたが……使う機会自体がまずあるかどうか……」
名前を呼ばれたので、舞台の上にまで移動する。
座学の時間中に思い付いた件については、出来る事は屋外活動が無くなった分の休憩時間中に済ませて、出来る事は確認している。
ただ、内容が内容なので、巴たちの決闘で使う機会があるかは分からない。
あるとは思っているが。
「西より……虎卯寮の三人! アルレシャ! サダルスウド! トモエ!」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
「さて、少し前の模擬戦はバラニーが決死の動きで抑え込んでくれたから勝てたが……」
「作戦は立てて来たから、それに従って頑張るしかないんじゃないかな」
「ナル様……何か考えているようですね」
「ん? ああ、ちょっとな。決闘関係だから安心してくれ」
続けて大漁さん、瓶井さん、巴の三人が舞台上にまで移動してくる。
当然だが、三人とも既にマスカレイド用のデバイスは着用しているので顔色は窺えない。
対して、俺は俺用の『シルクラウド・クラウン』の構造上、顔が隠れていないので、何か考えているのを表情から読み取られ、それを巴に指摘されてしまった。
まあ、何も問題は無いが。
これで決闘に関係ない事を考えていたら、怒られても仕方がないが、決闘に思いっきり関係する事だしな、俺が考えていた事は。
「そうですか。どのような考えかは分かりませんが、楽しみにさせていただきます」
「ああ、楽しみにしておいてくれ。見せる機会があったなら、目に見えて変化は起きるはずだからな」
「……。はい、本当に楽しみさせていただきます」
「「……」」
ただ、顔が見えなくてもだ。
既に一年近い付き合いがあるのだから、此処まで明らかに声音が変わったのなら分かる。
俺が考え付いたそれに巴に期待をしつつも、警戒をしている事ぐらいは。
「ナル様。昨日のゴールドバレットたちと同じです。三対一で戦ってもらっている時点で私たちには全力でナル様と戦う義務があります。ですから……如何なる手を使ってでも、私は勝ちに行きます」
「分かっているとも。そうでないと意味がない」
さて、巴についてはデビュー戦に、夏季休暇中に、文化祭に、模擬戦に、ペチュニアとの戦いに……ちょくちょくとその戦いぶりを見たり、味わったりする機会があったので、だいたいの実力は分かっている。
大漁さんと瓶井さんについても同様だ。
だからこそ、油断出来ない事が分かる。
三人ともに俺へトドメを刺せるだけの実力はあるし、搦め手や牽制の類も出来るので、少しでも対処を間違えれば、そのまま詰みに持っていかれる。
使う気は無いが、切り札である裸状態での『グローリードレス』も使いどころを誤れば普通に対処されてしまう事だろう。
「それでは! 場も整ってきたようなので始めてまいりましょう! 両者構えて! カウントダウン! 3……2……1……0! 決闘開始!」
では、始めるとしよう。
■■■■■
「マスカレイド発動! 魅せつけろ! 『玲瓏の魔王』ナルキッソス! そして『グローリードレス』!」
ナルがマスカレイドを発動して、ナルキッソスが姿を現す。
身に付けている衣装は、前回の子牛寮の三人との決闘でも用いたバニーガール衣装。
スキル『グローリードレス』で得れるバフが、跳躍力の強化とランダム属性攻撃と言う、とりあえずでお出しするのにも都合がいいものである事もあって、今回もまた選ばれた。
「マスカレイド発動! 来なさい……トモエ!」
「マスカレイド発動! ふんじばれ! アルレシャ!」
「マスカレイド発動! 湧き出せ……サダルスウド!」
同時にトモエたちもマスカレイドを発動する。
炎の中から巴が姿を現し、大量の水の中からアルレシャとサダルスウドの二人がそれぞれに姿を現す。
「行くぞオラァ! 『エンチャントワールプール』!」
「っと!」
そして、早速と言わんばかりに、アルレシャは構えた両手の間から、渦を纏った網を放ち、ナルに被せようとする。
が、その網の危険性と同じ初動を以前にやられたこともあり、ナルは強化された跳躍力を生かして後方へと跳び退き、網を回避する。
「『精錬』『アディショナルアーマメント』『エンチャントフレイム』『ハイストレングス』……」
「チャージ開始」
そうしてアルレシャが攻撃を仕掛けている間にトモエとサダルスウドも動く。
トモエは黒い矢がつがえられた弓を構え、『精錬』によって質を高めた上で、大量の魔力を込める事によってその矢を赤熱させていく。
サダルスウドは舞台の端にまで移動すると、そこで瓶を構えて、魔力を集め始める。
そう、トモエたちの基本戦術は極めてシンプルな物。
ナルと相性がいいアルレシャが前衛として動き、ナルを捕らえ、捕らえたナルに残りの二人が全力の一撃を叩き込む。
そんな、本当にシンプルな……だからこそ決まった場合の対処が厄介な戦術だった。
そんなトモエたちの動きを見たナルは……。
「やっぱりか」
笑みを浮かべた。