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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
11:冬季合宿編
474/499

474:冬季合宿三日目・ナルVS子牛寮 -後編

「せいっ、やっ、はあっ!」

「とっ、よっ……」

 サンコールがナルに向かって切りかかり、ナルは盾でサンコールの攻撃を受け止める。

 攻撃を受け止めたナルはサンコールへの反撃として、拳か盾での殴り、あるいは『P・敵視固定』を利用した体勢崩しを狙う。

 が、サンコールは倒れ切らず、直ぐに次の攻撃を繰り出してくる。

 自分の後方で準備をするゴールドバレットの邪魔は刺せないと言わんばかりに。

 そんな流れを繰り返すこと数合。

 ナルは違和感を覚えた。


「崩せない。先を読まれてる……?」

「近接戦闘中に考え事とは随分と余裕があるんだね! ナルキッソス!」

 サンコールが崩せない。

 スキル『ハイデクスタリティ』によって上がっている反応速度を考慮に入れてもなお、サンコールの動き出しが早い。

 だがそれはサンコールが先読み出来ているからではない。

 何故なら、サンコールの視界は『P・敵視固定』によって常に固定されているが、ナルの動き出しは視界の外側で始まっており、サンコールが認知出来る範囲にはないからだ。

 つまり、サンコール以外の誰かが何かをしている。


「……そう言う事か」

 そこまでナルが考えた時に、バラニーがコマンダーに就いた時のオート効果である電流が自分の体に僅かだが流れた事で気づく。

 コマンダーはコマンダーである時点で、幾つかの特典があるシステムだったことを。


「コマンダーの通信能力でバラニーから指示を貰っているな。サンコール」

「正解」

 そう、コマンダーは自分の味方に対して、無線での指示出しが出来て、しかも、この指示は味方にだけ聞こえる。

 バラニーはコマンダー席からナルの挙動を確認すると、この力を使ってサンコールに次にどう動けばいいのかの指示を出していた。

 そうする事で、サンコールは自身の視界では知覚不可能な範囲の情報を取得し、ナルの攻撃に対処していたのである。


「しかしこんな早くに気づかれるとは、やっぱり僕ではナルキッソスを抑えきれないらしい。『アイビーバインド』!」

「っ!?」

 そして、ナルがそれに気づいたからこそ、バラニーは直ぐに次の指示を出す。

 不意打ちの『アイビーバインド』によってナルキッソスを拘束せよ、と。

 その指示通りにサンコールは『アイビーバインド』を発動し、緑色の蔓によってナルの体は拘束される。


「行くぞ……『ペネトレイトショット』!」

 そうしてナルが拘束されると同時に準備を整えていたゴールドバレットがスキル『ペネトレイトショット』を放つ。

 放たれた弾丸はナルの頭部に向かって真っすぐに進み……。


「『ウォルフェン』!」

「ちいっ!」

 ナルが生成した『ウォルフェン』と衝突。

 ゴールドバレットの放った弾丸は五層の鋼鉄板からなる『ウォルフェン』の二層目まで貫いたところで止まる。


「せいっ!」

 だがナルに対する攻撃はまだ終わらない。

 ゴールドバレットの攻撃とほぼ同時に、サンコールは炎を纏った軍刀をナルの首に向かって振っていた。


「ふんっ!」

 が、こちらはナルが首へ魔力を集中し、その質を限りなく硬質化させることによって受けとめ、多少の熱は感じても刃そのものは髪の毛の先ほども入っていないほどだった。


「いや、気合いだけで弾かないで欲しいんだけど!?」

「それは流石にねえよ……ナルキッソス」

「本当に規格外ですね~」

 そのあんまりにもな光景にサンコールたちは思わず声を漏らす。

 ナルはそんな三人の様子を窺いつつも、『アイビーバインド』によって張られた蔓を引き剥がして、盾を構え直す。


「慣れと言うか、練習の賜物と言うか、出来ると分かっていれば案外出来るものだぞ」

 その上でナルは会話に興じる。

 今の危険な一連の流れを思い返し、どうするべきだったかを考え、修正するための時間を稼ぐために。

 ただ立っているだけなら魔力が回復していき、自分だけが有利になっていくと分かっているからこその動きだった。

 そうして、自分が時間を稼ぐメリットを理解しているからこそ……。


「出来るって……。人間の肌は金属じゃないんだよ。原子や分子のレベルで違うじゃないか」

「案外考えが固いな。サンコール。仮面体は魔力で出来ているんだぞ。体も剣も盾もだ。どれも魔力なら、再現できることは不思議な事じゃない」

「それが普通は出来ないから、仮面体の調整には機械を用いるんだよ。ナルキッソス」

 ナルは警戒を強める。

 サンコールが自分との会話に乗って来たのは、会話をする事で稼げる時間でゴールドバレットとバラニーが何かをするつもりである、と。


「さて……」

「煙幕か……」

 そんなナルの警戒が正しい事を示すように、いつの間にか舞台上には煙が立ち込めていた。

 最初は違和感なく、けれど途中から一気に濃度を上げるように生じた煙は、舞台の中央に立つナルの視界からサンコール以外の一切を隠す。


「コマンダー専用のスキル『C・煙幕生成』のアレンジ版。煙の中から俺を狙撃するつもりか? 狙いは分かるが……。この煙じゃ、俺が何処に居るかはゴールドバレットの奴にも分からないだろ」

「さてどうだろうね? でもまあ、無策では無い。とだけは言っておこうか……」

 ナルは相手の狙いを看破したと口にしつつも、疑問を口にする。

 そして同時に思う。

 サンコールたちならば、この疑問への答えは持っていて当然だろうとも。

 対するサンコールは軽く返す。

 それがフリであるのか、本当なのかは分からない。

 しかし、一対一でも問題ないと言わんばかりに、軍刀を構え直しているのは事実だった。


「分かった。なら、煙の中で一人ずつ片付けて……」

 そうしてナルがサンコールに向かって一歩踏み込もうとした瞬間だった。


「いっ!?」

 背後からナルの頭が撃ち抜かれ、致命傷を負ったナルのマスカレイドは解除され、舞台から転移させられた。

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― 新着の感想 ―
>「慣れと言うか、練習の賜物と言うか、出来ると分かっていれば案外出来るものだぞ」 それはDAIGAKUSEIの理屈なんよ…… >背後からナルの頭が撃ち抜かれ、致命傷を負ったナルのマスカレイドは解除…
>魔王の初討伐勇者たち  ぢょおう様と下僕なラブラブカップル&ぽつんな桃太郎。なお最後の一撃は桃太郎にあらず。  たぶん手順としては、  サンコールがスキルを使って、ナルの耳を大きい音に慣れさせる(…
最近のナルは、バニー衣装に頼りすぎなのが敗因ですね。 速いけど直線的な動きしか出来ないっぽいから、2回目の サンコールと技量の高いゴールドバレットには通用しなかったですね。 バラニー本人はナルと相性…
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