470:冬季合宿三日目・近代日本史……の抜粋
「それでは今から近代日本の歴史の中でも、マスカレイドと決闘が関わる部分についての授業を行う」
屋外活動を終えた俺は続けて座学に移る。
なお、事前に貰った予定では、昼食休みは挟むものの、授業そのものは今日の決闘が行われる時間の直前まで続く模様。
やけに多いと思うのだが……たぶん、俺の学習状況とかを考えての事なんだろうな。
今この部屋には俺の他には数人しか居ないし。
「であるからして……」
「……」
と言うわけで座学が始まったのだが……興味が湧く分野と興味がわかない分野の差が激しいな。
例えば女神が降臨した直後の混迷期について。
決闘制度、決闘者、マスカレイドが生まれたばかりの時代で、誰も彼もが手探りだった頃。
この頃の日本は色々な国から、技術や人材、土地を求めて決闘を仕掛けられていたらしい。
特に仕掛けてきたのは中国とロシア……いや、当時はソビエト連邦だったか、とにかくそちらの方が積極的に決闘を仕掛けて来たそうで、中々の苦戦具合だったようだ。
ただ、その中国とソビエトが女神を甘く見た結果。
裏で色々と違反行為をしたらしく、当時の上層部の人間の一部の首が物理的に並ぶことになったとか何とか……。
一説には、この後のソビエト連邦崩壊はこの頃のやらかしが尾を引いた結果であるとか……。
うん、俺としてはルール違反はしないようにしましょうと言う感想しか持てない。
とりあえず、世界は今の国境線で最終的には落ち着くことになったようだ。
とまあ、多少なりとも興味を持てる範囲の話だとこんな感じである。
「この時に……」
「……」
興味が持てない範囲の話だと……いつの間にか終わっているな。
不思議な事に。
なんなら、周囲に座っている生徒の姿も変わっている。
本当に不思議な事に。
「ここで活躍したのが現在、決闘学園の学園長を務めていらっしゃる沖田英雄を筆頭とした……」
なお、この混迷期に個人レベルではあるが、特に活躍をしたのが沖田学園長らしい。
なんか、一対三を制した上に、取引で国レベルで決闘を仕掛ける事を数年間出来ないようにしたとか何とか。
勝てないと思われていた決闘に勝った上で、何人か日本に敵対的だった人間を斬り殺したとか。
色々とヤバいと言うか、血なまぐさいエピソードが並んでる。
「また、この頃に家単位で活躍した結果、今でも続くマスカレイドに関係する名家として数えられるようになった家も存在している。具体的な名前を出すならば、護国、尾狩、喜櫃、天意、識門と言ったところだ」
と、巴の家の名前が出てきたな。
此処からはちゃんと聞いておいた方がよさそうだ。
「これらの家と先の個人との違いは様々だが……一番大きな違いとして、彼らは集団として優秀で、なおかつ安定的である事を挙げられる」
魔力量には様々な要因が関わっている。
また、魔力量が多いだけで決闘に向いているかはまた別である。
なので、優秀な決闘者を安定的に輩出できる家と言うのは、昨今の決闘事情的に非常に重要であるらしい。
で、教師の説明曰く、この五家とその周辺の家は比較的安定的に魔力量甲判定者や、マスカレイド関係の技術者などを生み出してきた家であると共に、それぞれ異なる形で国に貢献してきた家であるらしい。
「例えば護国家ならば、国家間決闘に積極的に参加し、安定的に勝利を重ねて来た。そして、それが出来るように幼い頃から訓練と教育を重ねている。他にも安定的に魔力量甲判定の決闘者を輩出できるように、様々な手を打って来た一族でもある。その在り方に疑問を抱くものも居るだろうが……」
護国家は沢山の魔力量甲判定の決闘者を輩出し、積極的に国防に関わって来た。
家の外の魔力量甲判定の人間と積極的に関わり、その血を家の中に取り込むべく動いてきた。
そうしてきた結果として、今の巴が居る。
と言う事ではあるらしい。
とりあえず、国の守りとして、きちんと働いてきたことは間違いないらしい。
考えてみれば。先日の国家間決闘でも巴の叔父さんが出場していたし、確かに役目は果たしていそうだな。
なお当主の信長さんのやらかしを止めるのに、仕える人たちが苦労している模様。
まあ、これについては親しい人間だけが知っている事実だから、口にはしないが。
「喜櫃家ならば人権派の決闘者としての活動。特に国選決闘者として、弱者に対する決闘による搾取を抑止してきた活動が有名なところだろう」
喜櫃家……吉備津の家と関わりがある家だったか。
此処はガミーグの件で少し関わったな。
ガミーグの時は空回りになってしまったが、本来ならば一方的な決闘を仕掛けられた人間を守るような活動をメインにしている家であるらしい。
これは……必要だろうな。
大抵の決闘者はお金で雇われる。
裏を返せば、大量の資金をつぎ込めば、それだけ優秀な決闘者を雇えると言う事でもある。
だから大量の資金を持った個人や企業が、その資金を背景として、資金を持たない人間から決闘で人や物を奪おうとする事態が頻発した時代があるらしい。
そこで喜櫃家が資金を持たない側の人間の側の決闘者として積極的に動き、そう言う金さえ持っていれば決闘を利用してなんでも奪い取れると言う風潮そのものを、ある程度打倒してみせたのだとか。
うーん、これ、裏では色々と苦難がありそうだなぁ。
絶対に色々なところから恨みを買っているだろうし。
さて、そんな感想を俺が抱いている間にも、話は進む。