47:仮面体のスキル
「……。それでは時間となりましたので、マスカレイドの授業を始めます。今回はスキルについてです」
ミーティングがあった翌日の午後の授業。
俺は指定された教室にやって来た。
教えるのは樽井先生で、俺の他には三十名ちょっとの生徒が居り、その中には当然のことながらスズ、イチ、マリーの三人も含まれている。
まあ、学園側が合わせてくれたのは明らかである。
その証拠……になるかは分からないが、教室に居る生徒の中で魔力量甲判定を受けている生徒は俺だけだからな。
この分だと、徳徒たち他の甲判定者たちも、今日に限ってはそれぞれ別に授業に受けている事だろう。
「……。事前の予習は済んでいると思いますので掻い摘んで話しますが」
さてスキルについてだ。
前提として、マスカレイドはデバイスを利用して、魔力を変換し、仮面体を形成する技術である。
その技術の応用系がスキルであり、魔力を大量に消費する事と引き換えに、仮面体を一時的に変形したり、魔力を別のものに変えた上で射出したりと言った、そのままの仮面体では出来ない事をする技術である。
と、此処までが決闘の時にスズたちが教えてくれたことである。
で、今日はその先についても教わる事になる。
「スキルはデバイス及び本人との相性もありますが、基本的には容易に付け替えが可能であり、だいたいの傾向を読むことは出来ても、決闘の前に相手が何のスキルを付けて来たかを完全に把握する事はまず不可能です。その為、それぞれの仮面体の機能が知られ、対策を立てられた後でも、スキル次第ではどうとでもなります。現代の決闘においては、何のスキルを決闘に持ち込むかは、決闘の行方を左右する非常に重要なファクターとなる事でしょう」
なるほど、スキルは付け替えが容易。
しかも、樽井先生の口ぶりからして何十種類とあるので、各自の好きなスキルとかは分かっても、確定させることは出来ない。
スキルの内容によっては一発逆転もあり得る。
だから、今日の授業は真面目に聞かないと拙い事になる、と。
「……。ただ、スキルは規格化された機能であり、調整が利きません。例として、手に持った刃物の刃の長さを増すと言う能力であれば、仮面体の機能ならば術者の意識や修練次第では伸ばす長さ、速さ、時間などを調整できますが、スキルの場合では決まった長さにまで、決まった時間で伸び、決まった時間で元に戻ります」
だが、スキルは融通が利かない。
百回やって、百回同じ効果が出る。
それがいい場合もあるかもしれないが、悪い場合もあるかもしれない。
よって、便利なものではあるけれど、頼り切って考える事を止めるのは良くない、と。
「……。では、この先は実際にデバイスへのスキルの登録を行い、隣にある個別教室に用意した簡易結界内でスキルを一つだけ使用してみると言う実戦を通して学んでいきましょうか。分かっているとは思いますが、自分がどのようなスキルを扱えるかは重要な個人情報なので、信頼できる相手以外には教えないように。試射するスキルにしても、汎用と言われるような、一般的なものを使う事をオススメします」
さて、此処からは実践だな。
と言うわけで、いつもの四人で集まって、リストの確認から始めていく事にする。
スズたちに俺が使えるスキルがバレるのは良いのかって?
そんなのは今更だろう。
「さて、誰のスキルから見ていく?」
「うーん、個人的な心情としてはナル君のスキルを優先したいんだけど……」
「ナルさんのスキルが一般的なものになるか怪しい気がします……」
「そうなるト、教材としては微妙なんですよネ。人は人、自分は自分と言えばそれまでかもですガ」
「ええっ……」
そう思いつつ話を振ったらこれである。
いやまあ、以前から俺の魔力性質は普通ではないと言われてきたので、その普通ではない部分が現れれば、スキルへの影響が出るのも納得ではあるのだけど。
そして、最初に一般的なものを知らないと比較が難しいと言うのも分かる話ではある。
とは言え、まさかスズたち三人が揃って悩ましげな顔を見せるような案件とは思わなかった。
「うんでも、まずは見てから判断してみようか。学園配布デバイスがいい感じに仕事をしてくれるかもしれないし。ナル君、機材の此処にデバイスを置いて」
「分かった」
「それからデバイスに魔力を通してみて。そうすれば自然にナル君の仮面体が使用できて、デバイスの規格的にも問題のないスキルが表示されるから」
俺はスズの指示に従ってデバイスを操作する。
すると、機材に付属している画面に幾つもの名前が表示されて……。
「「「……」」」
なんかスズたちが揃って、どうしたものか、と言う感じの顔をしている。
「樽井先生。ヘルプです」
「……。やっぱりそうなりましたか」
スズが樽井先生を呼んで、しかも樽井先生はそれを予想済みだったらしい。
普通に近づいてくる。
「……。あー、なるほど。これは想像以上ですね。予想通りの面もありますが、予想以上の部分もありますね」
「一先ず試すのはこちらでいいと思うのですが、ナル君への説明はどうしましょうか?」
真剣な表情で樽井先生とスズが話し合っている。
いやうん、そこまで俺が使えるスキルのリストって酷いの?
いやまあ、以前の話で、外見に関わるようなスキルは使えないだろうな、とは話していたけれども、二人の表情からしてそれだけではなさそうな感じだ。
「ナル。とりあえずリストを端末へと送っておきますネ。余所の誰かには見られないように注意してくださイ」
「あーうん、分かった」
俺はマリーから情報を受け取る。
ちなみにだが、機材の上に置いたデバイスは一度魔力を込めれば、一時間くらいはスキルのリストの確認と導入が可能な状態が維持されるらしい。
なので、もう手は放しても大丈夫な状態である。
さてリストの中身だが……。
『P・Un白光』、『P・身体再生加速』、『P・衝撃軽減』、『P・筋繊維強化』……色々とあるな。
スズが予想した通り、外見に変化が生じそうなスキルはない。
しかし、樽井先生が困惑するようなリストではないように見えるが……。
「ナルさん。こちらがイチのスキルリストです。こちらを見ていただければ、ご自分の異常性の一端が理解できると思います」
「いいのか?」
「イチたちはナルさんのスキルリストを確認していますのでお相子です」
「そうか。じゃあ見てみる」
と、そこでイチがスキルリストを見せてくれる。
えーと……『ロックオンシュート』、『ファジーアウトライン』、『フルバースト』、『マジックシュート』、『ファイヤーボール』……んー?
俺のスキルについていたPと言う文字が無いな。
それに名前にもだいぶ差があるように思える。
ああいや、でも、リストの下の方に行けば、俺と同じようにPが付いているスキルが出てくるな。
内容も俺のものより豊富だ。
「なるほど確かに異常だな。俺のスキルリストはやけに少ない」
「そうですね。それも異常の一つです」
並べて見ると、イチが使えるスキルは50を優に超えるものであり、たぶんだが100に届いている。
なるほど、これだけあれば、スキルリストそのものが漏れない限りは、情報漏洩にはならないだろう。
対して俺のスキルリストは……30にも満たない程度だ。
妙に少ない。
「でもナルの問題点はそこだけじゃないですヨ」
「そこじゃない?」
「はい。気づきませんでしたか? Pの頭文字の有無に」
「ああ、有ったな。イチのスキルは無い方が多くて、俺のはP有りのしかなかった。そもそも、このPってなんなんだ?」
しかし、それ以外にも俺のスキルには問題があるらしい。
と言うか、イチとマリーの表情からして、こちらの問題の方が深刻なようだ。
だが俺には、そもそも頭文字のPが何を指しているのかも分からないので、何が問題なのかも分からない。
なので、そこから聞くことになるわけだが……ああ、スズの手が空いたみたいだな。
「スズ」
「うん、教える。Pってのは、passiveの頭文字で、意味としては受動的って意味があるの。で、スキルに付いている場合だと、条件を満たせば勝手に発動するスキルって事になるの」
「へー、便利そうだな」
なるほど、パッシブスキルのPなのか。
となれば、例えば『P・身体再生加速』なら、怪我をした体が急速に治っていくようになるという事だろうか。
それは便利そうだ。
「そうだね、便利だね。でもナル君考えてみて。スキルって基本的に燃費が悪いものなんだよ。その燃費が悪いスキルが勝手に発動し続けたら、どうなると思う?」
「あ、あー……」
が、スズに言われて気付いた。
スキルが具体的にどれぐらい燃費が悪いのかは分からないが、甲判定である麻留田さんたちでも機を図って使っていたような代物が勝手に発動し続けていたら?
そうなれば、麻留田さん以上の魔力量を持つ俺でも、あっという間に魔力切れになってしまうのではないか、と言う可能性に。
「さてどうしようか。パッシブスキルしかないとなると、ちょっと考えないといけないよね」
「そうですネ。スキル込みなら護国はナルの守りを確実に破ってくるでしょうシ」
「ナルさんの魔力量と性質でどこまでカバーできるかどうかですね」
「……。色々と試してみてください。ものによっては何か特異な事があるかもしれません。では私はこれで」
「うん、頑張ってみよう。魔力量だけはあるから、試すだけなら幾らでも出来る」
とりあえず試してみるしかないだろう。
それで色々と明らかになるはずだ。




