467:冬季合宿二日目・ナルVS申酉寮 -決闘後
「ゴケーコオォ……」
「よし勝った」
スキル『クイックトリック』を活用して一方的に攻め続けて来るレッドサカーを捉える事は叶わなかったが、勝ちは勝ちである。
と言うわけで、レッドサカーのマスカレイドが魔力切れで解除され、姿が消え、遠坂の姿が転移地点に現れる。
「負けたっすかぁ」
「やっぱり無理だったかぁ」
「ゴ……ゴゲ……ゴゲゲ……」
魔力切れの上に疲労困憊状態の遠坂を、曲家と徳徒の二人が抱えて、決闘に関係しない場所にまで移動する。
俺もまた、マスカレイドを解除した上で、曲家たちの下へと移動する。
「いい決闘だった。遠坂、徳徒、曲家」
「おう。と言いたいんだがな……翠川、実際の所、オレと曲家が退場した時点での残りの魔力量はどんなものだった?」
移動理由は単純。
反省会をするためだ。
徳徒と曲家の二人は、退場後にレッドサカーが頑張っていた時間もあったので、既に考えもまとまっている事だろうしな。
「忙しないと言うか、ギリギリの状態だったから、正確なところを出すのは難しいが……たぶん五割から三割と言うところだと思う」
「まだそんなにあったんすかぁ……」
「ただ、ブルーサルの『オールイン』だったか。アレを使った攻撃が直撃していたら、たぶんマスカレイドを解除されてた」
「つまりワンチャンはあった。と言う事か。はー、それを知ると、なおの事悔しいな」
実際、今の決闘はギリギリだった。
ブルーサルの攻撃を大量の衣類でガードすると言う方法を咄嗟に思い付いたから勝てたが、そうでなかったら、負けてたのは俺の方だろう。
それぐらいには際どい決闘だった。
「あー、これは俺が勝手に思ったところだが。俺の反省点としては、『フォールオンミー』を使って隙を作り出した後の瞬間。あそこで『ウォルフェン』による攻撃じゃなくて、『ドレッサールーム』での着替えや、シンプルに距離を取るとか。たぶんだが、曲家たちとしては、そっちの方が嫌だったよな」
「そうっすね。あの瞬間はウチたち三人全員が完全に止まってたっす。あそこで別の行動を取られていたら、もっときつかったとは思うっす。でも『ウォルフェン』も『ウォルフェン』で厄介なんすよね。結局、アレを切ってもらわないと、ウチたちは切り札を切れないわけっすから」
「連携が一瞬途切れただけでも厳しいのがオレたちの戦術だったからなぁ。こうなるとやっぱり徳徒に使ってもらった『ライトウェイト』の枠を別のスキルに出来ていれば……と言う思いが出て来るな。アレ、オレがコモスドールを投げられないから入れて貰ったものなんだけどな……」
「徳徒については投げる物を銛みたいなのにするのも有りなんじゃないか? それなら、布では勢いを殺す事も出来なかった」
「ああそこか。実はオレの投擲物。球形から外れると、外れただけ補整が弱まるみたいでな。威力を考えると鉄球の方が良かったんだが……そうか、相性問題もあるか」
「うーん、『ライトウェイト』を外すとしたら、代わりに何を入れるべきっすかねぇ。あのタイミングだと『アイビーバインド』以外は結局使えなかった気がするんすよねぇ」
と言うわけで、お互いに自分の行動でまずかったと思った点を挙げていき、それに対する感想を話してもらう。
アレコレと喋って、見識を深めていく。
後でまたスズたちとも話して、解説などを貰ったりもするだろうが……決闘相手と話し合うのは、当事者の視点からの感想になるからな。
相手との関係性が悪くないなら、これは大切な事だ。
「コケーコココココ……」
「いや、遠坂は頑張っていただろ。俺相手に魔力切れまでちゃんと粘れる、単独でもある程度のダメージを与えられる決闘者って案外少ないぞ」
「『クイックトリック』を使ってもらうのもオレたち三人で話し合って決めた事だろ。火力が欲しいのは分かるけど、生き残ってもらうのも大切だったからなぁ」
「ウチは命がけで止める。徳徒は命がけで攻める。こうなった時に遠坂まで前のめりになったら、ナルキッソスは生存全振りして、ウチらより一秒でも長く生き残る事を目指すだけっすからねぇ。魔力量や基礎攻撃力を考えたら、遠坂に頑張ってもらうしかなかったし、実際遠坂は頑張ったすよ」
と、ここで遠坂が『ワイはどうすればよかったんだ』的な鳴き声を上げたので、三人で慰めておく。
実際、レッドサカーが魔力切れで退場するまで、俺はレッドサカーに攻撃をクリーンヒットさせることは一度たりとも出来なかったからな。
もしも、俺の残り魔力が本当に僅かだった場合、レッドサカーなら一人で削り切れた可能性もあるだろうし……うん、やっぱりレッドサカーの決闘中の立ち回りはどこも悪くないと思う。
なお、俺たちの会話の様子を見て、何故か周囲の生徒たちが微妙にざわついている。
何か変な事でもしただろうか?
まあいいか。
「ま、なんにしてもだ。勝利おめでとう。翠川」
「流石の強さだったっすよ。翠川」
「コケコココ……」
「ありがとうな。三人とも」
さて、幾らでも話していられそうだが、適当なところで切り上げないとな。
そういう訳で、俺は徳徒たちと握手をしてから、その場を離れた。
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