465:冬季合宿二日目・ナルVS申酉寮 -中編
「コケろ!」
「っ!?」
体勢を立て直そうとするナルの顔面に向けて、レッドサカーが上空からダイブし、鉤爪の着いた足で踏みつける。
ナルの圧倒的な防御力もあって、レッドサカーの爪がナルの顔や目と言った部位に突き刺さる事は無い。
だが、元より崩されていた体勢を更に崩され、ナルの体勢はエビぞりに近いような状態になっていく。
「こ……」
「そこぉ!」
「っう!?」
このままでは舞台に倒され、そうなれば起き上がる暇もないほどにタコ殴りにされる。
そう判断したナルは、自身の顔面を踏みつけているレッドサカーの爪をどかそうと、なんならレッドサカーの足を掴む事で逆にこちらがタコ殴りにしてやろうと腕を動かす。
が、その腕が十分な速さを得る前にブルーサルの投げた石がナルの手を直撃、その動きを一瞬ではあるが鈍らせ、その隙にレッドサカーはナルの顔面を蹴りながら再び上空へと飛び上がる。
「待ち……」
「そこっすう!」
「んなっ!?」
そして、レッドサカーの蹴りによって完全に体勢を崩されたナルの背中は舞台に着く。
ナルは倒される衝撃を生かして、そのまま距離を取りつつ立ち上がろうとした。
が、ナルが立ち上がるよりも早くにコモスドールの槍が突き出され、その強い衝撃によって、ナルの体勢を再び崩す。
「コケェ! このまま行くぞ!」
「分かってるっす! 攻め続けるっすよ!」
「絶対にナルキッソスにターンを回すな! でないと間に合わないからな!」
「そう言う……事か!」
レッドサカーが再びダイブ攻撃を放ち、ナルの視界を塞ぎつつ怯ませる。
コモスドールは素早く細かく槍を突き出していき、ナルの体勢を崩し続ける。
ブルーサルが他二人の攻撃の合間合間に投擲を挟み込む事によって、ナルが体勢を立て直す暇を与えない。
間断のない連携攻撃がナルに襲い掛かり続ける。
勿論、ナルもただ受け続けるだけではない。
単純に被弾部位に魔力を瞬間的に集めたり、ユニークスキル『同化』の真似事で質を変える事で防御力自体を増す、単純な体術によって効率よく受ける、そう言った方法でダメージを抑えている。
だけでなく、普段の盾を出す、腕を振って手に触れたものを掴もうとする、苦し紛れに蹴りを出すなどして、連携攻撃に隙間を作ろうとしている。
だがそうして対処を試みても止められるのは一人だけで、直ぐに他の二人がフォローに入り、連携攻撃は継続される。
しかし、そうして連携攻撃が続くからこそ……ナル以外の面々は、観客も含めて、その大半が恐怖した。
「ゴケェコォ! 堅すぎんだろ!? どんだけ殴り続けているとおもっているんだ!?」
「それでも攻め続けるしかないっすよ! こっちが息切れする前に削り倒すしかないんすから!」
「気を付けろ! ナルキッソスの奴、普通に反撃と言うか打開まで狙って来てんぞ!」
「……」
あまりにもナルキッソスが堅すぎる。
普通の決闘者なら既に何度かはマスカレイドが解除されていて当然の猛攻を受けても平然としている。
舞台の上をボールか何かのように撥ね飛ばされ続けても平然とし、吹き飛ばされる中で追撃を受けても難なく対処して、それどころか反撃と打開を狙ってすらいる。
その姿は正に『玲瓏の魔王』の二つ名に相応しい、圧倒的な美しさである以上に圧倒的な力強さだった。
だがそれでもレッドサカーたちは攻め続ける。
ナルキッソスの魔力回復を上回るペースで攻撃をする事が出来ている手応え自体はあったからである。
しかしそれは薄氷の上の攻防。
ほんの僅か……とまでは行かずとも、一度でも完全に攻撃が途切れてしまえば、その瞬間に収支が反転してしまうようなもの。
「コケエエェェッ! 唸れワイの大胸筋んんんんんっ!」
「この状況で笑わせるような事を言うんじゃねえっすよ! ただでさえ酷使しているウチの腹筋が死ぬっす!」
「うおおおおっ! だったらオレは上腕二頭筋だあああっ!」
けれども攻め続ける。
入学から今日に至るまで、同じ申酉寮で寝起きし、平日も休日もおおよそ共に活動したからこそ分かる、それぞれのしたい事を繋ぎ合わせた連携攻撃をレッドサカーたちはやり続ける。
学んだ全ての技術を、行った訓練の成果を、今この時に注ぎ込んで、ナルを一方的に攻め立て続ける。
「じゃあ俺は表情筋か? 『フォールオンミー』」
そうして攻め込み続ける中で……先に変化を見せたのはナルだった。
コモスドールの槍を手の甲で受けて逸らしながら、スキル『フォールオンミー』を発動し、コモスドールの槍をこれまでより少し強めに弾く。
レッドサカーのダイブ攻撃を頭部に角度を付けて出した盾で防ぎつつ、逸らす。
ブルーサルの投げた鉄球は、それ自体は腹で素受けするも、自分の体から離れていくそれに足先で少しだけ触れて軌道をずらす。
「「「!?」」」
そんなナルの行動によって生じたレッドサカーたちの変化は劇的なものだった。
「ゴゲッ!?」
「な、なんすかこれは……」
「見えているものと肌感覚がズレて……」
時間にすれば一瞬程度。
けれどこれまで間断なく動き続けていたレッドサカーたちの動きが明確に止まる。
原因はナルが先ほど使ったスキル『フォールオンミー』の効果。
レッドサカーたちは自分の目や耳で捉えている周囲の情報と、自身の体に貼り付けられたナルの魔力から伝わってくる気配、矛盾する情報を叩き込まれてしまった事により、どちらの情報を信じればいいのか悩み、その動きを止めてしまっていた。
その一瞬の隙間を突くようにナルが動く。
空いている方の手をコモスドールの頭上へと伸ばし、『ドレッサールーム』から呼び出すための準備をしておいたそれを……『ウォルフェン』を実体化する。
「来い、『ウォルフェン』」
「っすう~~~~~!?」
「「コモスドール!?」」
出現した『ウォルフェン』によってコモスドールが潰され始める。