462:冬季合宿二日目・学習と仮面体
「それでは今から仮面体の構築についての授業を行う」
かまくらを幾つか作った上で除雪作業を終えた俺は、昼食を挟んでから、座学の為の部屋に向かう。
ちなみに今回の冬季合宿では昼食の時間も各自で異なるため、スズたちが今何をしているのかは本当に不明である。
さっきまで除雪作業を共にしていた徳徒たちもこの場には居ない。
きっと、決闘や座学の都合でそれぞれ分かれて行動する事になっているのだろう。
今この場で知り合いと言うと……。
「あ、翠川。座学は此処なんだね」
「お、諏訪か。じゃあ、隣失礼するな」
「こんにちは。翠川さん」
うん、諏訪と獅子鷲さんの二人くらいだな。
部屋の中の席割については自由なようなので、俺は諏訪の隣に少しだけスペースを空けて、座らせてもらう。
なんでかって?
いや、諏訪を挟んで向こう側に座る獅子鷲さんがこっちを見ていてね、二人の距離が友人と言うには少しばかり近くてですね。
じゃあ、二人の邪魔をさせないための位置に座るのが妥当かな、と言う気づかいです。
「諸君らも知っている通り、マスカレイドは本人の望みなどに応じて仮面体を構築する。この構築の際に用いられる魔力は当然ながら当人のものである。であるからこそ、仮面体の構築に当たっては幾つかやってはいけない事がある。この座学ではその内容と、やってしまった場合の対処法について学んでもらう」
では、授業を真剣に受けるとしよう。
この座学は仮面体の構築についてだな。
「ではまず一つ諸君らに問おう。『無限の容量を持つ袋を所有する仮面体』、これを構築する事は可能か否か? 諏訪、どう思う?」
「文字通りの意味で無限だと言うのなら、不可能であると断言します。無限の空間を作り出すためには、無限の魔力が必要になってしまうはずですので」
「その通りだ。『無限の何たら』、これは仮面体の構築に当たって実現不可能なものの代表格だ。理由も諏訪が言った通り。もしも今後諸君らがこの手の無限に直面した場合、それらは詐欺または何かしらの誤魔化しによって無限であるように見せかけている。と、認識してもらって問題は無いだろう」
なるほど。
言われてみればその通りとしか言いようがないな。
実際、俺の『ドレッサールーム』なんかは一見無限に衣装を入れられるように見えるけれど、アレはデータだけ取り込んでいて、取り出す時は逐一魔力で構築していると言う形。
そして『ドレッサールーム』のデータ容量には……たぶん限界がある。
まだまだ底は見えないけれど。
「そして、この『無限の何たら』と言うのは、絶対に仮面体として構築しようとしてはいけないものでもある。もしもこれを仮面体の機能として持たせてしまうと、実現不可能なものを実現しようとした結果として、よくてバグを起こしてデバイスが破損し、悪ければ仮面体がクラッシュしたとでも言うべき状態となり、マスカレイドの使用そのものが生涯にわたって不可能になってしまう」
「こわっ」
「そう。恐ろしいものだ。幸いにして、あるいは女神の御慈悲で、素のマスカレイドの術式そのものにはこの手の無限を回避する機構が含まれている。なので、初期の仮面体の機能として搭載されてしまう可能性は無い。しかし、自ら進んで入っていく者を止めるものではないので、決してやらないように」
教師の言葉に思わず声が漏れてしまった。
しかし……女神って、こういう方面の仕事もしているんだな。
知らなかった。
「では次に『魔力含有の金属を溶解させるほどの炎を放つ機能を持つ仮面体』、これの構築は可能か否か? 獅子鷲、どう思う?」
「金属の種類、かけてよい時間、これらの定義次第ですが、構築する事自体は可能だと思います」
「では、その炎が常時となったら?」
「……。術者の魔力量次第だと思います。私はやりたいとは思えませんが」
「賢明な判断だ。獅子鷲」
魔力含有の金属を溶解させるほどの炎となると……俺の『ウォルフェン』を熔かすような火力と言う事になるか。
それは……実現するとなったら、とんでもない量の魔力……少なくとも俺と同じか俺以上の魔力が必要になるのではなかろうか。
そして、そんな炎を常時放つとなったら、俺ぐらいに魔力があっても、とてもじゃないが足りないのではなかろうか。
うん、やりたくはないな。
「今のは理論上は構築可能であるが、するべきではないと言う仮面体の構築の話だな。このような強力過ぎる機能を搭載してしまった仮面体は総じて維持するだけでも大量の魔力を必要とする。それこそ、今のたとえ話のような仮面体となれば、そこに居る翠川でも維持できる時間はごく短いものになるだろう。故にやってはいけない構築と言う事だな」
そんな事を思っていたら、名指しで言われてしまった。
まあ、俺も無理だと思ったので、素直に頷いておこう。
「しかし、仮面体の初期構築は本人の望みや素質が反映されるため、意図せず、先述のような持つべきでない機能を搭載してしまう事もある。この場合には、仮面体の調整で以って、機能の削除、少なくとも常時ではなく意図したタイミングでのみ使えるように調整を施す事となる」
なるほど。
仮面体の調整ってそう言う……扱いきれない機能を削除する方向のもあるんだな。
いやあって当然の話と言うか、これの行き着く先が夏季合宿で散々相手をする事になったモブマスカレイドか。
アレは不要と判断した機能や装飾を削除し続けた結果だったのだろうしな。
「先生個人としては、この手の消費が激しすぎるものは仮面体の機能ではなく、スキルでの搭載をおススメする。仮面体の調整は手間であるし、失敗してしまった時のトラブルも大きく、なにより当人の消耗が激しい」
「「「……」」」
「一般的にはそうなんだ。翠川も翠川で苦労しているので、妙な視線は向けないように」
周囲の生徒の視線が俺に向けられる。
そうだね、俺の仮面体の調整はとても手軽だね。
しかし、それを考えると、仮面体の調整を機械ではなく自前でやらないといけないと言う、当初の俺の状況は、結構なデメリットと言うか、足枷だったんだな。
本来は、と言う言葉が今となっては付いてしまうが。
アレがあったからこそ、『ドレッサールーム』が扱えるようになったわけだが。
うん、他の人たちも『ドレッサールーム』を扱えるようになればいいんじゃないかな。
楽だし、楽しいぞ。
「話をつづけるぞ」
さて、座学はまだまだ続く。