461:冬季合宿二日目・除雪と水着
「それでは只今より屋外活動における注意事項の説明を始める」
冬季合宿二日目になった。
と言うわけで、俺の本日最初の活動は雪が現在進行形で降っている屋外での除雪作業となる。
で、注意事項については、基本的には安全に気を付けましょう、無理はしないようにしましょう、定期的に体を温めましょう、必ず二人一組以上で行動しましょう、危険な場所なのでおふざけは厳禁、と言った一般的なものだけでなく、決闘学園だからこその事項もある。
「さて、今回の除雪作業では、マスカレイドを使った除雪作業を行う事が許可されている。が、ほぼ一年学園でマスカレイドについて学んだ諸君なら分かっているだろうが、マスカレイドを使い、仮面体になっている人間は魔力を帯びた攻撃でなければまず傷つかない。だが、マスカレイドを使っていない生身の人間はそうではない」
「「「……」」」
「よって、マスカレイドを発動するエリア。仮面体になって行動していいエリア、どういう行動ならしていいのかについては、こちらで厳密に決めさせてもらった。これらの決まりを守らなかった場合、良くて厳重注意、場合によってはそれ以上の処分が下される事になるので、くれぐれも気を付けるように」
「「「はいっ!」」」
そう、今更な事ではあるが、魔力の有無による優位性、シンプルな出力差などを考えると、仮面体と言うのは人型の重機に等しいか、それ以上に危険なものと言える。
だから、マスカレイド有りである今回の作業は、雪が降っている事も相まって、その辺りについては特に気を付ける必要があるのである。
なお、魔力切れについては言うまでもなく注意必須である。
そもそも今回の冬季合宿のメインは屋外作業ではなく、生徒同士の決闘だしな。
「では作業開始!」
そうして除雪作業は始まった。
「それで翠川はどうするんだ?」
「勿論マスカレイドを使っての作業ばかりをするつもりだぞ。この程度の軽作業なら魔力の消費なんて気にしなくていいのが俺だからな」
「羨ましいっすねぇ」
「コケッ、ワイたちは多少なりとも気にしないといけないのになぁ」
俺はマスカレイドをするためのエリアへと早速向かう。
そんな俺に徳徒たちも付いてくる。
なお、この場には他に顔見知りは居ない。
たぶんだが、スズたちは座学中なのだろう。
「では早速。マスカレイド発動、魅せつけろ、ナルキッソス!」
『シルクラウド・クラウン』を着用した俺はマスカレイドを発動してナルキッソスになる。
光に包まれて、その中から現れる。
服装は……。
白ビキニのみである。
「ナルキッソスお前さぁ……」
「コケーコココ、見ているだけで鳥肌が立ってくるな」
「ウチ知っているっす。矛盾脱衣って奴っすよね」
なんか徳徒たちが呆れた様子で物申してくるな。
全くもって失礼な話だ。
この格好にはちゃんと意味があると言うのに。
よし、何故この格好を選んだのか、説明をしてやるとしよう。
「徳徒、遠坂、曲家。よく考えてみろ。雪だって元を辿れば水なんだぞ」
「それは……まあそうだな」
「つまり、これだけ大量の雪が積もっている場所も、見方を変えれば水場のようなものだと言える」
「そうかな? いやワイの頭だと判断が付かないか」
「だから、『ドレスパワー』を使えば、水場適性が付く水着はこの場における最適解になるかもしれない。少なくとも検証はするべきだ」
「あー、そう言う事なんすね。じゃあ、仕方がないっすか」
そう、これは検証なのだ。
何処までが水場で、何処からが水場じゃないのかと言う、きちんと探る意味のある検証なのだ。
いやうん、洒落でも何でもなく重要なんだよな。
選ぶべき衣装が変わるわけだし。
ちなみに寒さについては気にしなくてもいい。
魔力を含まない雪による寒さ程度、ちょっと肌寒いと感じる程度で、動き回る事も考えればちょうどいいくらいである。
「と言うわけで、『グローリードレス』発動!」
そんなわけで、検証の為にもスキル『グローリードレス』を発動し、『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』の効果を発揮させる。
白ビキニの上下が仄かに輝いて、衣装に合わせたバフを生じさせる。
そしてバフは……。
「結果はどうだ? ナルキッソス」
「んー……駄目っぽいな」
「そりゃあそうっすよね」
「知ってた」
うん、効果を発揮してないな。
やはり雪が降っている場所と水場を同一視するのは無理があったか。
まあ、検証なんだから、効果が出ないもまた有意義な結果である。
「じゃ、除雪やってくか」
「って、そのままの格好で行くのかナルキッソス」
「だって寒くないし」
「見ているこっちが寒いんすよねぇ……」
「じゃあ、マフラーと手袋ぐらいは足しておくか」
「悪化したと感じるのはワイだけか?」
では検証が終わったところで除雪作業である。
俺はスズのマフラーとイチの手袋のコピー版を『ドレッサールーム』から取り出すと着用する。
どうしてか周囲から向けられる視線がこれまで以上に何とも言えないものになったが、俺としては厚着をするよりも、こちらの方がよほど楽なんだよな。
主に肌面積的な意味で我慢の必要がないから。
その後、俺と徳徒たちは積極的に除雪作業を行い、ホテル周囲の雪をある程度どかしたのだった。
とは言え……今もまだ雪は降っているので、除いた場所にもまた直ぐに降り積もる事だろう。
まあ、雪かきなんてそんな物だろう。
白ビキニの上下、マフラー、手袋、安全靴、雪かき用シャベルだけ身に着けた状態のナルキッソス……。
まあ、某ソシャゲには氷海で泳いで、温度的な意味で気持ちいいと言うキャラも居るので、問題は無いでしょう。