460:冬季合宿一日目・施設と情報
今回俺たちが泊まるホテルは、その名を『ホテルアバランチ』と言う。
部屋数が学園一年生297名+教師陣が合わせて泊まってもなお余裕があるぐらいに、大きなホテルである。
また、そんなホテルの大きさに合わせるように、ホテル内には様々な施設が揃っている。
と言うわけで、自分の部屋に荷物を置いてきた俺は、スズたちと一緒に施設を一通り見て回る事にした。
「まずは此処が大講堂だね」
「なんか、学会の発表とか開けそうなくらいに広いな」
「ナル様。秋頃の事ですが、実際そのような用途で毎年使われているそうですよ」
「おー、流石……」
まずは収容人数が350名くらいあるらしい大講堂。
なお、今回の冬季合宿では使われる予定はないとの事。
なら何で見に来たと言われそうだが、シンプルに目立っていたから、真っ先に見に来ただけである。
ちなみにいざと言う時の避難所でもあるらしく、講堂を囲うように結界を発生させることも出来るとか。
「こっちは……教室か?」
「正確には多目的ルームですネ。マリーたちは此処で座学をやるそうでス」
「複数の教室が用意されていますので、間違えないように気を付けてください」
次は幾つもある机やホワイトボードが用意されている小部屋。
座学をやるための部屋であるらしく、それぞれの進捗度や当日の予定に合わせて、使う部屋が変わるらしい。
なので、イチ曰く、スマホなどでの当日の予定の確認を怠らないようにとの事だった。
うん、気を付けよう。
「温水プールなんてあるのか」
「こっちはフィットネスジムですね」
「ゲームセンターもありますネ」
「浴場は屋内のものだけですね。温泉でもないので、普通は部屋ので十分だと思います」
その後も俺たちは施設を巡っていく。
どの施設もシンプルながらも質がいい感じで、この一年でこういう物に慣らされてきた今の俺だから特に何とも思わないが、決闘学園に入学する前の俺だったら、多少の気後れぐらいは感じていたかもしれないな。
「さてナル君。此処が決闘の舞台だね」
「みたいだな。一度にこなせる数を優先した感じか?」
「そうなるのかな。ちょっと色々と確認してくるね」
そうして最後にやってきたのは、冬季合宿のメインとも言える決闘を行うための場所。
そこには舞台が8個ほど用意されていて、『ライブラリ』に接続されているデバイスの調整機械も複数台存在。
決闘で負けた時の転移先も直ぐ近くにあって、実に効率的に決闘をこなせるようになっていた。
そんな、あまり見ない光景であるためか、珍しくスズは駆け出して行って、熱心に何かを確認している様子を見せている。
「確か……魔力量乙判定の生徒は毎日一回から三回程度の決闘をする、だったか。此処で決闘をして、座学をして、また決闘して、野外訓練をして……と言う具合にこなしていくとしたら、相当きつそうだな」
「はい。実際、冬季合宿の内容は厳しいものになっています。なので人によっては座学の時間は休息に専念する。などと言う場合もあるそうです」
「そうか。じゃあ俺も……」
「駄目ですヨ。ナルが座学を休息に充てるのハ、二重の意味で駄目ですヨ。ちゃんと学んでくださいネ」
「はい……」
最初に説明された時にも思った事だが……やはり冬季合宿はかなり大変そうだな。
そうなると、俺の一日一戦だけの方が、一対三とは言え、実はまだ楽なのかもしれないな。
うん、マリーにも釘を刺されてしまったし、成績の為にもちゃんと座学は受けるか。
それはそれとしてだ。
「サイズは普段通り。結界の強度は問題なし。舞台の方は……少し柔らかいかも? 照明の位置や強度に問題は無くて……」
今日のスズは本当に熱心に舞台の確認をしている。
俺の経験上、こういう時のスズは何か分かり易い目的があって動いている事が多く、それはだいたい俺の為なんだけど……今回はたぶん違うな。
なんと言うか、見方が俺の味方の時とは違うように思う。
うーん、そうなると……そう言う事か?
だったら、これだけは言っておくか。
「スズ」
「何かなナル君」
「誰の味方をするのも俺は気にしないが、スズ自身の決闘の事を忘れないように気を付けてな」
「……。うん、分かったよ、ナル君」
俺の言葉にスズは力強く頷いている。
うん、これだけ言っておけば、スズ自身の成績は大丈夫だろう。
「さて、これで後見てないのは食堂くらいか?」
「そうですネ。でハ、まだ少し早い時間ですガ、一緒に行くとしましょウ」
「お供します。ナル様」
では、残りの施設も見て回るとしよう。
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「はー、驚いた。流石はナル君。でもそうだね。確かに私の成績も落とさないように気を付けないと」
スズは食堂へと向かうナルたちの背中を見ながら、独り言を呟く。
「スズ」
「どうしたの? イチ」
そこへイチが声をかけてくる。
その表情は真剣なものである。
「先にお伝えしておきます。ホテルに入る前に見たペンションですが、天石家の方で確認したところ、尾狩家の当主、息子二人、その母親、それと尾狩参竜の母親までは居る事が確認されました」
「……。トラブルになりそうなの?」
「現状では分かりません。集まった目的も何も分かりませんので」
イチの言葉にスズは悩ましい顔をする。
今の尾狩家は尾狩参竜の母親が毒親気味ではあるものの、他はそこまで酷くないと以前の情報にはあったはずだが、それがどこまで正しいのか、少々怪しい気もしてきているからだ。
なにせ今の尾狩家は落ち目真っ最中と言える状態であり、そんな状態の人間がどのような行動に出るかは予想しきれるものではないからである。
「なるほど。でもこれでトラブルが起きたとなると……」
「そうですね……」
その上でスズもイチも一つ思う。
これでトラブルが起きるのなら、ナルがお祓いを受けた意味は無かったのだろうな、と。




