455:事情説明
「つまり、アンクルシーズのお守りに『ペチュニアの金貨』を仕込んだのは美術サークルの部長だった四々九崇先輩だった。そして、四々九崇先輩が動くための隙を敢えて作るために、俺と青金先輩は決闘していた方が都合が良かった。こういう事ですか」
『そう言う事になるな。ああ、四々九崇の奴に先輩は付けなくてもいいぞ。今回の件で退学になるのはほぼ確実だからな』
「あ、はい」
青金先輩の簡単な説明の後、俺たちは風紀委員会では無いと言う事で部屋の外に追い出され、詳しい説明は燃詩先輩から受ける事になった。
なお、説明場所はいつも通りに『ナルキッソスクラブ』の部屋であり、燃詩先輩はリモートで話している。
「それにしても……神を歪めるとか、宗教の寄生虫とか、なんかとんでもないワードが幾つも出てきている気がするんですけど……」
『いや、その辺りは大した問題ではない』
「そうなんですか?」
『そうだとも』
俺の呟きに燃詩先輩は何でもないと言う顔をしている。
いや、大変な事だろう。
神様を歪めるって不遜以外の何物でもないだろうし、宗教の寄生虫ってとんでもない問題行為だと思うんだが……そうではないのだろうか?
『神を歪めるとは言うが、そんな物は大昔から行われている。神との契約、戦争で負けた他宗教の神を邪神や悪魔として扱う、荒魂と和魂、これらは方向性や規模などに差はあるが、いずれも神を歪めると言う意味では変わりない』
「え、契約もですか……」
『神と人の契約とは、人が益を得る以上に、神が好き勝手に力を振るわないようにするためのものだと吾輩は捉えているからな。歪めているか否かで言えば、歪めているの部類だ。結局のところ、人にとって益があるか否かでしか評価をされていない場合が大半だろうしな』
「なるほど」
なんかそう言われたら、問題なさそうな気がしてきてしまった。
ちなみにスズたちも話は聞いているのだが、どう反応したらいいのか困ったような表情をしている。
『宗教の寄生虫に至っては、そんなもの、宗教に限らず、ある程度以上の規模の組織になったら必ず出て来るものだ。どうやって予防し、検出し、排除するかは考えるべきだが、ゼロにする事は出来ない』
「ちなみにゼロに出来たと言われたら?」
『吾輩なら言ってきた奴を即座に拘束して精密検査する。これはもう人の業のようなもので、末端が言うならともかく、責任者クラスがゼロと認識するなら、その時点でそいつは責任者としては不適格だ。仮に本当に寄生虫がゼロになったとしても、そんな組織はそれはそれで不健全極まる状態になっている』
「な、なるほど……」
なんと言うか……燃詩先輩の事だから、色々と見て来たと言うか、覚えがあると言うか、そう言う分野の話なんだろうな。
なんだか嫌な実感を伴う響きになっていた。
『それよりも今回の件で問題なのは、四々九崇の奴が絵具を使ったユニークスキルと思しきものにより、自らの姿をしていた人形を操っていた事だ。あの人形は吾輩の解析でも違和感こそあれど、偽物だと断定出来たのは、自爆する直前だった』
「アリバイ云々が一切成立しなくなるからですか?」
『それもある。が、それだけではない。もっと厄介なのは……』
「私たちが認識していた四々九崇筆の姿が本当の四々九崇筆ではなかった可能性がある。ですよね? 燃詩先輩」
『そうだ』
スズの言葉に燃詩先輩がモニターの先で頷く。
『四々九崇のユニークスキルは詳細不明、原理不明。なんならユニークスキルかどうかすらも分からないものだ。それはつまり、何が出来て何が出来ないかを定義できない状態のものでもある。つまり、奴に関するデータの大半が無意味になったと言ってもいい』
燃詩先輩の言葉を受けて俺は少しイメージする。
もしも普段から見ていた四々九崇が絵具で出来た人形だったのなら?
顔や声、髪の毛や目の色どころか、下手をすると性別すら違うかもしれない。
魔力量の検査などをすり抜ける事が出来るのなら、本当は魔力量甲判定なのかもしれない。
いや、それどころかだ。
美術サークルの部長で絵の実力は確かなので、誰かの偽物を描いてなり替わっているかもしれない。
なるほどこれは……。
「大問題ですね」
『ああ、大問題だ。反女神思想の連中は何処に居るか、簡単に調べて、罪状があるなら捕まえる事も容易だが、四々九崇の奴はそうもいかない。思想を煽るだけとなると、その件では罪に問えるかも怪しい。まったく、頭が痛くなってくる……』
うん、ヤバいな。
今隣に居る誰かが四々九崇かもしれないとか、もはやただのホラーである。
『ただ、偽っていないのなら、奴は今後反女神思想を煽るだけと言っていた。そこはある程度信用してもいいだろう。そして、反女神思想を煽るだけなら、対処はどうとでもなると言うか、程度によっては健全ですらあるからな。行方を追う必要はあっても、吾輩や翠川たちが積極的に追うほどの事態にはならないだろう』
「なるほど。じゃあ、俺たち『ナルキッソスクラブ』については、そこまで影響は受けない?」
『恐らくはな。ただ、違和感を感じたら、複数人に報告しろ』
「分かりました」
とりあえず俺たちとしては普段通りにしていればいいらしい。
うーん、気になる事は多々あれど、特別出来る事はないようだ。
こうして、俺の新スキルを試す裏で起きていた事件の話は終わったのだった。




