453:決闘を終えて
「……。何が起きた?」
立ち上がったリィード……青金先輩が他の風紀委員会の生徒に問いかける。
問いかけられた側の生徒たちはお互いに顔を見合わせた後、口を開いた。
「えーと、ナルキッソスがピカっと光りました」
「そうしたら雷が目の前に落ちたような衝撃や光が来ました」
「で、それらが止んだ後にはもう青金は転がってた」
「つまり、傍目には何が起きたのかもよく分からなかった、と」
風紀委員会の生徒たちの言葉を青金先輩がまとめて、それにみんなで頷く。
なるほど、やっぱり一般的にはそう言う反応になるんだな。
「翠川。隠したいなら隠して構わないが、説明してもらえると助かる」
「構いませんよ。と言っても、細かい理屈は俺も分かっていませんが」
では、説明をするとしよう。
なお、俺は既にマスカレイドを解除している。
「まずアレは、俺本来の仮面体……つまりは裸の状態で、『グローリードレス』と言う『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』の効果を両方同時に発動させるスキルを使った結果になります」
「『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』か。だが、裸で発動したからとあんな事になるのか? 俺の仮面体も捉え方によっては裸のようなものだが、あんな風には……」
「その辺は燃詩先輩曰く、俺本来の仮面体が、俺の性別を変えた程度でしかないせいで、半ばバグのような挙動を引き起こしたんじゃないかとの事です。おかげで魔力の消費形式とかも色々とおかしくなっているそうですし」
「なるほど」
もう少し詳しく述べるのなら。
スキル『グローリードレス』は身に着けている衣装を参照して、スキル『ドレスパワー』とスキル『ドレスエレメンタル』を発動するのだが、裸の状態だとこの参照と言うのが上手くいかず、情報不足を補うべく仮面体の肉体部分も参照対象にしているのではないか、との事。
で、この先はちょっと説明されてもよく分からなかったのだが。
俺の仮面体は俺の性別だけを反転させているようなものであるため、その反転の性質が表に出て来て、放置すれば魔力が回復するほどに低かった出力が急激に消耗するほどに出力が上がったとか、低かった攻撃能力や並みだった瞬発力を跳ね上げたのではないか、鳴輝と言う名前と神経を流れる電流の組み合わせがどうだとか……まあ、燃詩先輩くらいに詳しければ、成立しているのに納得は出来るらしい。
「具体的な効果としては……まあ、見て貰った通りですね。雷のような速さと属性付与です。と言っても速さの方は秒速1キロメートル程度で、威力の方も本物の雷には遠く及ばないそうですが」
「秒速1キロメートル……おおよそマッハ3か。なるほど、その速さで自由に動き回れるのなら、反応すら出来ないのは当然か」
なお、秒速1キロメートルと言うのは、ペチュニアの件で俺が使った時の動きからスズたちが計算して出してくれた数字であり、測定したものではない。
まあ、大きく外れてはいないだろうけど。
で、そんな速さで自由に動き回って大丈夫なのかと思われそうだが……物が音速を超えた時に生じる衝撃波であるソニックブームについては、魔力が何らかの働きをして、何故か打ち消されているので問題は無いらしい。
「ちなみに消費は? 一瞬しか使えないと言っていたが」
「一応、全快状態なら1秒と少しは維持できます。その後は一時的にほぼガス欠な状態になりますが」
「1秒……相手をするとなったら、とても長い1秒になりそうだ……」
また、知覚能力についても、俺の主観的な時間がかなり引き延ばされているので、客観的には1秒しか維持されないが、その1秒を冷静かつ的確に行動するくらいは出来る。
考える余裕までは無いが。
「まあ、風紀委員会としては1秒何とか耐えた後に押し潰せばいいんじゃないですか? そもそも風紀委員会のお世話になるような真似をする気は俺には無いですが」
「そうなるか。ただ、出来るだけ問題は起こさないでくれ。攻めて来るにしても逃げるにしても、その速さへの対処は骨が折れるなんてものではなさそうだ」
ま、対策としては簡単だ。
1秒耐えればいい。
決闘の状況では厳しいかもしれないが、風紀委員会が取り締まりをするような状況なら、数の暴力で以って1秒程度はどうにでもなるだろう。
これで俺以外に同じことが出来る奴が居たとしても、対処は簡単だ。
~~~~~♪
「ん?」
「俺のスマホだな。悪い。青金です。はい……はい……」
と、ここで青金先輩のスマホが突然鳴り始める。
青金先輩は一度画面を見ると、直ぐに対応を始め、相槌を打ち始めている。
様子から察するに……相手は麻留田さんたち三年生の誰かで、しかも緊急の連絡っぽいな。
そうなると邪魔をしないように、静かにしつつ、長引きそうならこの場を辞してしまうのが正解なわけだけども……。
「「「……」」」
なんか、スズ、イチ、マリーの三人が揃って、『少し待ってて、ナル君』的なジェスチャーをしている。
いやよく見たら三人だけじゃなくて、他の風紀委員会の生徒たちもだな。
うーん? これはどういう事だ?
「分かりました。では」
あ、通話が終わった。
そして、青金先輩はこの場に居る全員を一度見回してから、口を開いた。
「作戦は失敗だそうだ。どうやら既に目標は偽物とすり替わっていたらしい。また、目標は学園の外へ逃亡済みであり、後の事は警察の仕事となりそうだ」
青金先輩の言葉に殆どの人たちが残念そうにしている。
えーと、うん、あれだな。
この場に残されているのなら、これくらいは許されるはずだ。
「あの、すみません。青金先輩。作戦と言うのは?」
「そうだな。協力者である翠川たちにはきちんと話しておくべきだろう」
と言うわけで、俺は手を挙げて、青金先輩が反応を見せてから質問。
すると青金先輩は直ぐに説明を始めてくれた。
「簡単に言えば、アンクルシーズの件で『ペチュニアの金貨』を仕込んだ何者かを特定出来たので、明確な証拠を押さえるために罠を張ったのだが……相手が一枚上手だった。と言う事だな」
「アンクルシーズ……!」
そうして出てきたのは、二か月近く前の話、アンクルシーズのお守りに何者かが『ペチュニアの金貨』を仕込んだ件の続報だった。