45:デビュー戦の組み合わせは何故そうなった
本日は二話更新となっております。
こちらは二話目です。
「と言う感じにデビュー戦は決まった」
「なるほどね。まあ、予想通りかな」
夕食の時間。
俺は同席しているスズ、イチ、マリーの三人に、甲判定限定ミーティングで聞いたデビュー戦の組み合わせについて話をした。
ちなみに寮の夕食は幾つかのメニューから好きに選べるものなのだが、どの食事も美味しく、色どりも鮮やかで、栄養満点なものであるため、今日も寮の食堂は満員御礼の状態である。
「予想通り、なのか?」
「うん。私としては予想通り」
「イチとしてもやっぱりと感じています」
「マリーも同意ですネ。妥当な組み合わせだと思いまス」
さて、デビュー戦の組み合わせだが……スズたちに言わせれば、妥当なものであるらしい。
うん、今後の為にも詳しく窺っておこう。
「そうなのか。ちなみにどうしてこうなったのかとか、そう言う理由は分かるのか?」
「味鳥先生の言う通りだよ。決闘をした時に一方的な戦いにならず、十分な見栄えがある組み合わせを考えると、こうなるの」
スズはそう言うと、順番に教えてくれた。
それによればだ。
まず、俺と護国さんはデビュー戦の目玉なので、スポンサー的にもこの組み合わせ以外ありえない。
仮面体の戦闘能力的にも、俺は堅過ぎて、護国さんは順当に強いので、こうするしかないとの事。
次に縁紅と吉備津。
この二人もまた無難かつ堅実に強い仮面体なので、この組み合わせ以外では一方的な試合展開にしかならないだろう、との事。
羊歌さんと曲家の組み合わせだが、この二人の仮面体は外見やこれまでの挙動からして、攻撃性が低い仮面体。
なので、方向性が同じなので泥仕合になるかもしれないが、それでも比較の為に一緒にしたのではないか。
大漁さんと徳徒の組み合わせは消去法に近いようだが……性格的なものも合わせて、噛み合いは良くなるのではないかと予想できるそうだ。
「で、肝心の遠坂と瓶井さんは?」
「授業中に見かけた程度だからどの程度かは分からないけど……遠坂君って短時間ならば空を飛ぶ事が出来るんだよね。だから、見栄えのする決闘を成立させるには、遠距離攻撃手段がほぼ必須になるの。で、この時点で瓶井さんか徳徒君の二択になるんだよね。で、その二人だったら、一撃の威力がより大きそうな瓶井さんのが映えると学園やスポンサーは判断したんじゃないかな?」
「? 徳徒と瓶井さんは遠距離攻撃持ちなのか?」
「はい。十中八九持っています。徳徒さんの仮面体には取り外しが出来そうな部位がありますし、中学時代は中学野球のチームに所属していたと聞いていますので、それを生かす要素は入っていて当然だと思います」
「瓶井さんの仮面体も大砲っぽいものを持っているんですよネ。これが見立て通りなラ、何かは撃てるはずでス。後は……男女対決で統一した方が話題性があるとかもあるかもしれませんネ」
「なるほど……」
どうやら俺が知らなかっただけで、遠坂は空を飛べたらしい。
そして、スズが出してくれた写真を詳しく見れば、徳徒の仮面体には確かに腰の辺りに鉄球のようなものを提げているのが見えるし、瓶井さんの仮面体は全身を包む陶器っぽい質感の鎧の背中に瓶のようなものを背負っているようだった。
なるほど、これが遠距離攻撃手段になるわけか。
で、そう言うものがあるからこそ、デビュー戦の組み合わせは俺が聞いた通りになったと。
「なるほどな……しかし、外見からでも此処まで情報が分かるなら、護国さんの情報とかもだいぶある感じか?」
「あるけど……今はまだナル君には教えられないかな?」
「そうですね。まだ教えない方がいいと思います」
「なにせ護国ですからネ。迂闊な事は教えられませン」
俺はついでに護国さんの仮面体の情報についても聞いてみる。
が、スズたちの返答は芳しくないものだった。
いったいどういう事だろうか?
「その心は?」
「護国さんの実家は言うまでもなく、あの護国家だからね。となると、決闘に関するノウハウは他の家とは比較にならないほどに積んでいるはずだし、サポートの層の厚さも段違いなはずなんだよね」
「となると、きちんとした確証がない情報は偽情報の可能性があります。また、外見含めて、現状の情報が何処まで当てになるのかも怪しいものです。そして、決闘において偽情報に踊らされるのは文字通りに致命傷です」
「えぇ……」
「国を護る、そんな大層な言葉を苗字にしているだけあっテ、正しい意味で勝ちには貪欲という事でス。現に護国の家が負けられない決闘を落としたことはありませんしネ」
「そ、そうなのか」
つまり、スズたちよりも護国家の方が上手であるし、間違った情報を俺が得てしまえばそれが致命傷になる。
だから、現状では教えられることは無い。
ただ、家のこれまでから考えて、弱いとか甘っちょろいとか、そう言う事だけはあり得ない、と。
そう言う事か。
「とは言え、今回の決闘。厳密に言えばチャレンジャーなのは護国さんの方なんだよね。だから、ナル君は奇を衒わずに、真正面から正々堂々と臨めばいいんじゃないかな」
「イチも同意します。つまるところ、護国さんがナルさんの守りを突破できるかどうかの戦いになるはずなので」
「デスネー。ナルは奇策なんて考えなくていいと思いますヨ。魔力量の差と言う名の暴力が結局一番効きまス」
「……。なるほど」
それとビビる必要は一切ない。
魔力量と言う第三者が客観的に判断する項目において、俺の方が大幅に上回っている事だけは確かなのだから。
なんなら、その点を押し付けるように戦えば間違いはない、と。
こう言う事でもあるらしい。
「ありがとうスズ、イチ、マリー。その方向で頑張ってみる」
「うん、どういたしまして。ナル君」
うん、何とかなりそうな気はしてきた。
それはそれとしてだ。
「ちなみにデビュー戦で使うデバイスに制限がかかる理由ってなんだ?」
「それは明日からのスキルの授業で嫌でも分かる事だから、そこで樽井先生の話をしっかりと聞いて」
「あ、はい」
なお、デバイスの差はスキルとやらに関わってくるらしい。
スキルか……麻留田さんと生徒会長が模擬決闘をしている時にも色々と出てた奴で、現状の俺だと仮面体の機能とはまた別に魔力を消費する事で特殊な機能を発生させることが出来るようなものと認識しているが……。
まあ、明日の授業を待てばいいか。
とりあえず俺は夕食の残りを一気に食べた。
07/31誤字訂正




