449:新たなスキル
「明けましておめでとうございます。翠川様。本年もまたよろしくお願いいたします」
「明けましておめでとうございます。楽根さん」
本日は2025年1月6日月曜日。
正月三が日に土日も挟んで、本日より一般的な企業は業務開始となる。
と言うわけで、『シルクラウド』社の楽根さんたちが『ナルキッソスクラブ』へとやって来た。
「さて翠川様。早速ではありますが、先年の末にご依頼いただいたスキルが完成いたしましたので、専用のアドオンパーツと共に納品させていただきますね」
「ありがとうございます」
楽根さんが小型のアタッシュケースを開き、その中身を俺に見せてくれる。
そこに入っていたのは翡翠色のパーツであり、その表面は宝石のようによく磨かれ、輝いている。
また、他にもUSBメモリや書類も何枚か入っている。
「読ませてもらいます」
「はい。合わせて口頭にて私からも説明させていただきますね」
俺は書類だけ取り出して目を通し始める。
えーと、スキルの構造とかは……専門的な知識が必要なので分からないな。
とりあえず確認しておかないといけないのは、アタッシュケースの中に何が入っていたのか、USBメモリの中身が何なのか、翡翠色のパーツの取り扱いや整備について、この辺りだな。
「今回、弊社より翠川様に贈らせていただくスキルの名前は『グローリードレス』と言います。効果は翠川様が求められたとおりの物。つまり、『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』を同時発動させる物となります」
「ふむふむ」
「注意事項といたしましては、必ず二つのスキルを発動させることになる点。二つのスキルを一つずつ発動するよりも魔力の消費が多い点。専用のアドオンパーツが必須となる点となります。容量的に『P・Un白光』も固定となる事。翠川様には申し訳ないのですが、技術と時間的制約により、今回はこれ以上の効率化を図る事が出来ませんでした」
「それは大丈夫です。分かっていた事なので」
「ありがとうございます。ただ、技術者としても悔しかったのは確かですので、更なる最適化、効率化が行えた際には、必ずお届けさせていただきますので、その時はよろしくお願いいたします」
「分かりました」
楽根さんは申し訳なさそうにしている。
が、俺が依頼した時期を考えれば、むしろ二つのスキルを一枠にまとめただけでも、『シルクラウド』社は凄くよく頑張ってくれていると思う。
俺が求めていた部分は出来ていて、今後の課題は事前の説明通り、これで文句を言うようでは、罰が当たっても仕方がないだろう。
「また、使った感想などについては、出来る事ならば随時送っていただければと思っています。そうする事で、より適切なフィードバックが行えるはずですので」
「分かりました。この後一度試してみて、そうしたら、レポートを送ろうと思います」
と言うわけで、『ドレスパワー』及び『ドレスエレメンタル』を一体化させたスキル、『グローリードレス』の受け取りは完了である。
「さて続きましてゴールドケイン様がお求めになられた物の進捗具合ですが……」
「はイ。聞かせていただきますネ」
続けてマリーが『シルクラウド』社に頼んだ物の話になったので、俺はアタッシュケースを手に席を立つと少し距離を取る。
するとスズが寄って来て、スマホの画面を見せてくる。
「ナル君。燃詩先輩の方も完成したみたい」
「早い……」
「本当にね。こっちはデータだけだから、専用のサイトでダウンロードすればいいみたい」
「分かった」
どうやら燃詩先輩に俺が頼んだスキルも完成したらしい。
いや、幾らなんでも早くないか?
『シルクラウド』社はそれが仕事だし、大人だし、集団だから、まだこの完成スピードにも納得がいくのだけれど……燃詩先輩は個人で、しかも年末年始は忙しかったと聞いていたんだが……。
一体何時作る時間があったのだろうか。
「ナル君?」
「いやなんでもない」
えーと、それはさておき、作ってもらったスキルについて確認しないとな。
スキル名は『フォールオンミー』。
俺の魔力性質を前提としており、俺以外ではそもそも発動すらしないと言う完全専用スキルだ。
効果は……俺の拳や盾にスキルを載せて、その状態で相手を攻撃。
すると相手に俺の魔力が貼り付いて、その魔力が剥がれない限りは、相手の意識では常に俺が至近距離に居る上に、攻撃態勢を整えて隙を狙っているように感じられるそうだ。
こうなると、よほどの自制心が無ければ、俺の事を意識せざるを得ず、攻撃の優先度を高めない訳にはいかないらしい。
「なるほど。試していないと分からない点もあるが、注目を集めると言う意味では効果がありそうだな」
「そうだね」
要するに、ある種のデバフスキルだな。
使い勝手やどの程度効果があるかについては、実際に使って確かめる必要は有りそうだ。
いやしかし、俺の魔力性質って非常に粘りっこく、その癖、切り離すと直ぐに霧散してしまうとかだったよな。
前者はともかく後者の性質を燃詩先輩はどうにかして見せたという事なのだろうか。
だとしたら、流石、としか言いようがないな。
「そうなると……闘技場に行って、適当な相手を見繕うか、スズたちと頼むか……」
「どちらにせよ、まずは決闘関係の設備の使用許可を取らないといけないね。今日からは動いているはずだから、行ってみようか」
さて、『グローリードレス』と『フォールオンミー』、二つのスキルをどこで試すべきだろうか。
正常に動作するかどうかぐらいなら、この後にちょちょいと調べて終わりなのだが、実戦で使った感触も確かめておきたいよな。
うん、相手が居ないか確かめるべきだな。
と言うわけで、俺たちはマリーと楽根さんの話が終わると共に、新スキルの動作確認を行い、それから『ナルキッソスクラブ』の外へと出た。