448:ナルの誕生日
「誕生日おめでとう! ナル君!」
「誕生日おめでとうございます、ナル様」
「誕生日おめでとうでス! ナル!」
「誕生日おめでとうございます。ナルさん」
「ありがとうな、みんな」
午後。
サークル『ナルキッソスクラブ』の部屋には、スズ、巴、マリー、イチ、それに俺の五人だけで集まって、俺の誕生日パーティが開かれる事となった。
と言うわけで、まずはクラッカーが鳴らされて、その後はジュースで乾杯し、切り分けられたケーキや料理を食べつつ、会話を楽しむ。
「巴、ありがとうな。まだ正月三が日の真っ最中なのに、学園に戻って来てくれて」
「いえ。ナル様の為ですから、何てことはありません。むしろ、変な連中と会わなくて済むいい口実になったくらいです」
「そうか。巴の助けになったのなら、今日が誕生日である事がちょっとだけ得になった気がするな」
巴は今日の午前中に帰って来て、虎卯寮に荷物だけ置いてくると、そのままこちらへ来てくれたらしい。
俺はその事に感謝を述べるが、巴にとっても好都合であったらしく、俺に笑顔を向けてくれている。
「スズ。ナルの誕生日っテ、もしかして毎年身内だけでやっていた感じですカ?」
「やっていた感じだね。冬休み中ってだけじゃなくて、一月三日はまだ家でゆっくりしていたい、親戚との付き合いがあるって人は男女問わず多いし。後、ナル君が私以外の女友達を招いたらだいたいトラブルが起きるし……」
「それは……確かに起きそうですね」
マリーが伊達巻を食べながらスズに質問をして、スズの答えにイチが黒豆を食べながら反応を返している。
ちなみに、俺の誕生日パーティにおせち料理が並ぶのは例年通りの事である。
時期が時期だからな。
今年は寮の方で用意をしてもらったが、それでも普通の誕生日パーティっぽいものをわざわざ別に料理してもらうのは……まあ、気が引ける。
栗きんとんや松風焼き、お餅とかは美味しいし、好きな方の料理なので、別に何も困らないしな。
「スズ。頃合いですか?」
「うんそうだね。そろそろいいと思うよ。マリー、イチ」
「持ってきますネー」
「分かりました」
そうやって料理と会話を楽しみつつ暫く。
ある程度食べ終わったところで、マリーとイチが一度別の部屋に移動し、四つの袋を持ってくる。
「さてナル様。こちら、私たちからのプレゼントです」
「一人一つずつ選んできたんだよ」
「おおっ、ありがとうな。年末年始でお店の都合もあっただろうに……」
「そうして喜んでもらえるだけでモ、贈る価値があったというものですネ」
「そうですね」
どうやら俺の誕生日プレゼントを巴たちは用意してくれたらしい。
ああうん、嬉しいな。
こういう所でも面倒事の多い誕生日なのだけれど、しっかりと用意してもらえると、それだけでも嬉しい。
「早速中身を見ても?」
「うんいいよ」
と言うわけで中身を見ていく。
いやしかし……このタイミングでも、まだどの袋が自分の物なのか明かさず、しかも四つ一緒に持ってきたという事は……そう言う事っぽいな。
ちょっと真剣に観察しよう。
「ベルトに、スマホ対応手袋に、マフラーに、スマホケースか」
四つの袋から出てきたのは、シンプルながらも質のいい革製のベルト、着けたままスマホを弄れる手袋、既製品のマフラーに俺のイニシャルを刺繍したっぽいもの、俺の使っているスマホに合わせたサイズのスマホケース。
なるほど。
「さてナル君。折角なのでちょっとしたゲームです。不正解でも何も起きませんが、正解すると私たちがとっても嬉しくなります」
「じゃあ頑張らないとな」
「ふふふ、そうだね。では問題です。どのプレゼントが誰が贈った物でしょうか? あ、引っ掛けとかは無いよ。安心して」
うん、やっぱりそう言う事だったか。
スズは勿論の事、巴たちも緊張しつつも期待してくれているな。
だったら……俺もちゃんと当てないといけないな。
「そうだな……。まずはベルトが巴。シンプルでありながらも品も質も良い点からそうだと思った」
「ふむふむ」
「次に手袋がイチ。こういう機能的な品物を送りそうなのは、なんとなくイチだと思った」
「なるほど」
「続けてマフラーがスズ。歴代の品にマフラーが無いのと、手縫い部分がなんとなくそれっぽい」
「あー……」
「最後にスマホケースがマリー。これについてはスマホを入れたら見えなくなる部分に小さくマリーゴールドの花があるので、そこから読み取った」
「ワオ」
と言っても、スズたちの性格とかを考えれば、たぶん、これで合っているのだろうけど。
さて、成否は?
「……。大正解っ! 流石はナル君!」
「よし」
当たっていたらしい。
「完全に読み取ってくれましたね」
「そうですね。此処まで綺麗に読み取ってくれるとは思いませんでした」
「でも当てて貰えテ、贈った側としても嬉しい事この上ないですヨ」
いやぁ、無事に当たって何よりである。
此処で外していたら、気まずいなんてものじゃないしな。
「みんなありがとうな。貰ったものは、明日から喜んで使わせてもらう」
「うん、そうして。こう言うのは使ってこそだからね」
こうして俺の誕生日はスズたちに祝われつつ、和やかに過ぎて行った。




