446:大晦日
「大晦日だなぁ」
「大晦日だねぇ」
「大晦日ですネェ」
「確かに大晦日ですが、なんですか? この流れは……」
本日は2024年12月31日。
つまりは大晦日である。
流石に今日から正月の三が日の間は、日課レベルのトレーニングはともかく、それ以上の訓練はしたくないという事で、俺たち全員揃って非常にまったりとした状態である。
なので、今現在は俺の部屋で、先日買って来たミカンを食べつつ、年末年始仕様のテレビを眺めているところである。
「大晦日だからだろうな。それはそれとして、年末特番の決闘なんてあるんだな」
「30年くらい前から毎年恒例だったみたいだよ。誰が呼ばれるかはその年ごとに変わるけれど、国内の決闘者が沢山呼ばれて、東西の二チームに分かれて、合計で15戦くらいするみたいだね」
「へー。と言う事は来年からは麻留田先輩や燃詩先輩が呼ばれる可能性も?」
「シュタールはあり得ますガ、GM.Neは無いと思いますヨ。勿体ないですシ」
「それもそうか。いやでも見た感じ、お祭り要素の強い決闘っぽいし……」
「イチがプロデューサーなら、解説として呼びたいかもしれません。今の解説の方はただの芸能人のファンのようで、システムや理論的な意味で決闘に詳しいようではないので」
と言うわけで、とりあえず見ているのは、年末決闘と呼ばれている、大晦日恒例の番組であるらしい。
今は槍使い同士がスキルを使って戦っているな。
俺が戦ったら……槍使い二人まとめて相手にしても余裕そうだな、困った事に。
「ナル君も学園を卒業したら、こう言うのに呼ばれるのかな?」
「ナルさんが望んだ。問題を起こしていない。この二点を満たしているのなら、是非とも呼びたいと思います。見た目も実力も確かですから」
「イチはこう言っていますガ、どうですカ? ナル」
「んー。俺の場合、逆に呼ばれない可能性もあるかもな。こう、戦いが成立する相手がいない的な意味で。四対一にするとかも、四人側の外聞が良くないだろうしさ」
「「「あー……」」」
そんな事を思っていたら質問をされたので、素直に返す。
うん、実際の所、今の俺に勝てる決闘者って、俺一人対四人小隊にしてもそんなに多くないと思うんだよな。
アルレシャを擁していて能力相性が良く、魔力量が十分なトモエ小隊ですら、俺を落とすのには苦戦していたわけだし。
一年生トップと見て間違いないはずのトモエ小隊であれなら、殆どの小隊はどうにもならないだろう。
「そう言えば、この年末決闘って特殊な道具の持ち込みは有りなのか?」
「有りですネ。とは言エ、ナルが言っていた通リ、お祭り要素の強い催しですかラ、持ち込まれる事は殆どありませんネ」
「ナル君。もしかして『ペチュニアの金貨』の警戒?」
「まあな。格好の場ではあるだろう?」
「ナルさんの心配は尤もですが、大丈夫なはずです。決闘者だけでなく、関係者、観客にまで事前検査は徹底して行っていますし、警戒そのものも厳重ですから。気になるのなら、イチの伝手を使って、何かトラブルが起きていないか聞いてみましょうか?」
「いや、そこまではしなくていい。安心して見られそうなら、それで十分だ」
槍使い同士の決闘が終わったな。
最後は片方の槍使いが、自分の槍を巧みに操って、相手の槍を絡め取って弾いたところに追撃、トドメを刺す形だった。
今のような動きを見せられると、魔力量やそこに由来する身体能力で勝っていても、技術面を疎かにしてはいけない事がよく分かるな。
「あ、マチタヌキ」
「巴の叔父さんだね」
「相手は……尾狩家の長男ですね」
「つまり尾狩参竜のお兄さんですカ」
直ぐに次の決闘が始まる。
今更だが、この放送は生放送であるらしい。
そして、時刻的にはちょうど19時を指したところである。
「んー。悩むが……夕飯の年越し蕎麦を食べに行くか」
「あ、本当だ。ちょうどいい時間だね」
「巴の叔父さんだと少し悩みますガ、スマホで観戦しましょうカ」
「そうですね。気になる展開があったのなら、後でしっかりと見返しましょう」
と言うわけで、巴の叔父さんには少し申し訳ないが、夕食の時間である。
俺たちは揃って部屋の外に出ると、寮の食堂へと向かう。
「普段は見かけない生徒も居るな」
「人数都合で申酉寮の方からも来ているからね」
大晦日から三が日の間は、学園の寮に居る生徒が最も少なくなる時期でもある。
どれぐらい少なくなるかと言えば、特に人数の少ない子牛寮と申酉寮の食堂及び風呂が閉鎖されて、比較的人数が残っている虎卯寮と戌亥寮の物を使うように言われるくらいだ。
そんなわけで、寮の食堂には普段見かけない生徒の姿もある。
本当に縁がない相手なので、名前も学年も分からないくらいだ。
「おや、ナルキッソス」
「あ、どうも。美術サークルの部長さん」
「もう元が付くよ。二年生に引継ぎ済みさ」
そんな風に食堂の中を見ていたら、知っている顔もあった。
美術サークルの部長さんだ。
とは言え、この人については顔と学年を知っているだけで、名前は知らないんだけどな。
前に文化祭で麻留田さんが、し……なんとか、と叫んでいたような気はするが、そこまでしか覚えていない。
「来年からはこの年越し蕎麦が食べられないと思うと、いやはや寂しい限りだ。と、蕎麦湯を貰いに行かねば。ではなー」
そして、直ぐに去って行ってしまった。
まあ、知り合いでも何でもないなら、こんな物だよな。
「美味しいな」
「美味しいね」
「これは確かに毎年食べたくなりますネ」
「そうですね」
その後、何事も無く俺たちは夕食を食べる。
で、大晦日特別仕様と言う事で、日付が変わるまで開放されている食堂で時間を過ごし……。
「「「3……2……1……ハッピーニューイヤー!!」」」
年明けを迎え。
「あけましておめでとうございます。スズ、イチ、マリー」
「あけましておめでとう。ナル君、イチ、マリー」
「今年もよろしくお願いします。ナルさん、スズ、マリー」
「ハッピーニューイヤーですヨ! ナル、スズ、イチ!」
お互いにそれを祝い合うように挨拶したのだった。