441:冬期休暇始まりました
「えーと、これとこれと……」
「こっちも必要ですネ」
「そうだね。じゃあこれも買って……」
クリスマスパーティが終わった事で、決闘学園は本格的に冬期休暇に入った。
そして、以前に聞いていた通り、冬期休暇……年末年始は学園の寮ではなく実家で過ごすと言う生徒は少なくないので、既に多くの生徒が寮を出ている。
結果、学園内は割と閑散とした状況になっていた。
「荷物……まあ、これくらいなら持ち切れるか」
「ナルさん。必要なら運搬専門の業者を呼びますので、無理はしなくても大丈夫です」
「分かった。覚えておく」
ただ、そんな学園内で俺たちは年末年始も過ごすことに決めている。
主に身の安全を考慮しての事だ。
で、年末年始でも寮は変わらず機能しているので、掃除洗濯食事のいずれも簡単に済むのだが……それでも必要になる物はあると言う事で、年末年始で学園内のショッピングモールの店が軒並み閉まってしまう前に買い揃えに来ているのが、今日の流れである。
「しかし、流石に人が居ないな」
「そうですね。ただ、これからもっと少なくなると思います。家によっては、忘年会と新年会で年末年始は三が日どころか冬期休暇が明ける直前まで忙しい。と言う場合もありますので」
「巴の護国家みたいにか」
「そう言う事ですね」
なお、巴は既に実家に帰っている。
俺の知り合いだと、他にも吉備津はもう家に帰っているらしいし、徳徒たちも29日辺りから来年5日くらいまでは実家に居ると聞いているし、麻留田さんなんかも何日か居なくなるっぽいんだよな。
うん、本当に人が少なくなるな。
「ナル君。ミカンはどうする?」
「んー……年末年始にスズたちが俺の部屋に入り浸るつもりなら、一袋か二袋は買ってもいいと思う」
「じゃあ、二袋にしようか」
「美味しいですよネ。ミカン」
「そうですね」
ま、この辺は個人の事情と言う奴だな。
俺たちが気にする事じゃない。
それよりも今重要なのは、美味しいミカンを見極めて購入する事である。
さて、こちらがいいか、アチラがいいか……。
「ん?」
そうして悩んでいる時だった。
俺は視界の端に映ったそれに対して思わず声を漏らし、顔を上げる。
「どうしたのナル君。あ……」
「おヤ。羊歌と縁紅ですネ」
「儀礼用の男性向けスーツ売り場ですか」
俺が見つけたのは、縁紅と羊歌さんの二人が仲良く並んでスーツの専門店へと入っていく姿だった。
まあ、見つけたからと声を掛けたり、追いかけたりはしない。
迷惑になるだろうからな。
それはそれとしてだ。
「なあ、あの二人の現状ってどうなっているんだ?」
気にはなるので、情報は尋ねる。
「マリーが色んな人たちから聞く限りでハ、かなり親密にはなっているようですヨ」
「私の方にも先日のクリスマスパーティの時に、子牛寮の社交ダンス会場で二人が踊っていたって話は聞こえて来てるよ」
「羊歌家の新年挨拶の予定が少し変わったと言う噂を、イチは家の方からの情報で知っています」
「なるほど」
どうやらいつの間にか縁紅と羊歌さんの二人はかなり仲良くなっていたらしい。
と言うか、恋人認定でいいんだよな?
外から見ている分にはそうとしか判断できないんだが。
いやまあ、馬に蹴られるような事にはなりたくないので、本人たちが宣言しない限りは、俺は温かく見守るだけなんだが。
「ん? そう言えば、なんでスーツが必要になるんだ?」
「あー……確かに言われてみればそうだね。私たちは学生だから、普通の冠婚葬祭ぐらいだったら制服で十分だよね」
と、ここで俺は思考の方向性切り替えのついでに考える。
なんで縁紅たちは紳士向けスーツ売り場と言う、学園内ショッピングモールの中でも特に人気が少なめなエリアに居たのだろうかと。
スズの言う通り、普通の冠婚葬祭なら、制服で問題ないはずだ。
入っていった場所も、靴下やワイシャツと言った、生徒でも予備が欲しい物のエリアではなく、スーツそのものエリアだった。
うーん、無理やりにでも捻り出すのなら……制服だと文句を付けられるようなところに縁紅が出る?
「「「……」」」
「ですからイチは言いました。羊歌家の新年挨拶の予定が少し変わったと言う噂があった、と」
どうやらそう言う事らしい。
「そうか。年貢の納め時って奴か……」
「まあ、私たちは生暖かく見守るだけだね」
「ですネ。公式発表があるまでマリーたちは見守るだけでス」
なるほど、どうやら縁紅は羊歌の家に挨拶へ行くらしい。
だから、制服ではないきちんとしたスーツが必要だった、と。
「ちなみに羊歌家と縁紅家がくっついたところで、政治的には大した影響はありません。縁紅の家は一般家庭……それもどちらかと言えば貧しい側に入るそうなので」
「へー」
「ナルさんの反応が薄いですね」
「いやだって、縁紅の家が貧しかろうがなかろうが、それで縁紅への対応は変わらないし。縁紅自身がどういう人間なのかも知っているから、別にって感じだな」
「……。それもそうですね」
「だろ」
ま、どちらかが変な暴走でもしない限りは、俺たちには関わり合いのない事だな。
と言うわけで、ここらで縁紅に対する思考は止めて、俺は本日のおやつとして暖房が効く中で食べるアイスをどれにするかを選び始める事にした。




