439:プレゼント抽選会
「戌亥寮のクリスマスパーティが始まってだいぶ時間が経ちました。と言うわけで、この辺りでクリスマスプレゼント抽選会を始めたいと思います! 入り口でプレゼントを提供した人は、ビンゴカードを受け取ってくださいね!」
司会を務める照東さんの言葉と共に、会場内に居る生徒にビンゴカードが配られていく。
ビンゴカードは5×5のマス目に、0~99のランダムな数字が割り振られたシンプルな物。
照東さんがランダムに引いた数字と同じ数字のマス目に穴を開けて、一列穴が開いたらビンゴとなり、ビンゴになったらさらにクジを引いて、出た数字と同じ番号のシールが貼られたクリスマスプレゼントが貰える、と言う分かり易い流れだ。
「さて、誰が一番だろうな?」
「一番運がいい奴。と言いたいけれど、案外そうとも限らないルールくま。誰が来てもおかしくないくまー」
受付を閉じ、俺と同じように警備係に移動した熊白先輩の言葉がこのようなものになっているのは、ビンゴが揃った後にクジを引くと言う、時間効率を優先したルールがあるからだろう。
二重の運試しになっているので、欲しいものが貰えるとは限らないのだ。
「ちなみにナルキッソスは何をプレゼントとして提供したくま? クマは熊のぬいぐるみだくま。あ、手乗りサイズくまよ」
「俺は菓子の詰め合わせですね。500円分との事だったので、大したものじゃないですよ。ポテチ、チョコ、飴、合わせて500円分です」
「無難だけれど、だからこそ素晴らしいくまねぇ」
「熊白先輩もらしくていいと思いますよ」
そもそも、どんなプレゼントを提供するかも人それぞれだからな。
プレゼントの値段指定も、だいたいそれぐらいの価値があるものにしましょうと示し合わせるための物であって、絶対ではないし。
ちなみに俺と熊白先輩のプレゼントは先述の通りであるが、スズたちの準備したプレゼントはこうなっている。
・スズ→文化祭で出した俺の写真集(解説付き)1冊
・イチ→栄養ドリンク500円分
・マリー→マリーゴールドの花飾りがついたヘアゴム数個
・巴→原価が500円分くらいであろう、センスのある髪飾り1個
スズがちょっとどうかなと思いはするが、基本的には真っ当なクリスマスプレゼントだと思う。
なにせだ。
「ところで熊白先輩。入り口のチェックが通らなかったプレゼントにはどんなものが?」
「ナマモノを持ってきた馬鹿が居たくま。物理的に腐る方だくま」
「物理……? まあ、それは駄目ですね」
「後は小型とは言え、本物の刀剣を持ってきた馬鹿も居たくま」
「それも駄目ですね……」
こういう駄目な物を悪ふざけだろうけど、持ってくる生徒もいるようなので。
「あー、まさかとは思いますが、『ペチュニアの金貨』を持ち込んだ奴とか居ませんよね?」
「流石にそれは居ないくま。そもそも魔力含有物質については、入り口に検査機器があるから、基本的にはそこで弾かれるくま」
「なるほど」
まあ、駄目な物と言えども、流石に一線を超えるような物は無いようなので、それは安心である。
「でもルールを守っているからセーフ判定にしたけれど、クマは絶対に要らないと思うような物もあるくまよ」
「例えば?」
「四々九崇先輩に自分の仮面体の絵を描いてもらえる権利くま」
「……。有りなんです?」
「……。文化祭での売り上げから考えて、価値は最低でも万はあったくま。認める他なかったくまよ」
「なるほど……」
なお、微妙判定が出るクリスマスプレゼントも多い。
例えば、熊白先輩の言った、美術サークルの部長である四々九崇先輩に絵を描いてもらえる権利は……欲しい人なら、お金を積み上げても欲しい物なんだろう、たぶん。
他にもスキル開発部の部員が頼まれた通りのスキルを作る権利を出しているとか、ボディビルサークルの部員がプロテインを出しているとか、射撃サークルの部員が教本を出しているとか。
人によって欲しい、欲しくないが大きく分かれる物は少なくない。
まあ、それもまたクリスマスプレゼント交換会の醍醐味と言うところなのだろう、たぶん。
「次の番号は……25です!」
「あ、ビンゴですね」
「じゃあ行ってくるくまー」
「ありがとうございます。では行ってきます」
と、そんな風に雑談しつつもビンゴを楽しんでいたところ、いつの間にか一列揃っていた。
と言うわけで俺はサクッとビンゴが揃っている事を確認してもらい、クジを引いて、該当する番号のクリスマスプレゼントをもらった。
「戻りましたー」
「お帰りだくまー。何が当たったくま?」
で、直ぐに警備係の位置に戻って来る。
さて俺が貰ったクリスマスプレゼントだが……袋のサイズは手の平の内に収まる程度の小さめの物だな。
肝心の中身は……。
「こ、これは……」
「ある意味で大当たりくまねぇ……」
剣に龍が巻き付いた厨二病感が溢れて止まないキーホルダーであった。
「まあ、困るものではないですね」
「そうくまね。普通にキーホルダーとして使えばいいくま」
うん、さっきまで挙げていたような微妙な品々に比べれば困るものではないな。
普通に使えばいいだけだ。
と言うわけで、俺のクリスマスプレゼント交換会は無難に終わった。
ちなみに俺が出したクリスマスプレゼントは見知らぬ誰かにいつの間にか渡っていたようだった。
まあ、気にしていなければ、こんなものである。